リスクアセットか逃避資産か、ビットコインとS&P500との関係

2019-10-23 19:01[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

今月初め、仮想通貨ブルで知られる米著名ストラテジスト、トム・リー氏はBTCをリスクオン資産としS&P500との相関を指摘した。これに先立ち9月25日早朝のBTC急落もS&P500の下落が引き鉄を引いたとの指摘が同じく米著名アナリスト、eTroのグリーンスパン氏が指摘している。一般にBTCは株などの既存アセットとの相関性の低さが機関投資家にとって魅力だとされている。いわゆる「卵を一つのカゴに盛るな」という分散投資の考えだ。そうした意味ではBTCとS&P500とが順相関であることはリー氏いわく不都合な真実なのかもしれないん。また、キプロス危機でBTCが急騰した様にBTCは逃避資産としての性格があると同氏は指摘するが、そうであるならばS&P500と逆相関であるべきだ。

このリスクアセットでありながら逃避資産であるという性格に関して「仮想通貨は逃避資産だが、それは法定通貨に対する逃避資産」という意味で、「通常のリスクオフでは法定通貨、すなわち現金は選好される。しかし、国の財政状態が悪化したり、中央銀行への信認が低下したりといった場合は代替アセットが選好される。そうした意味での逃避資産」という立場だ。もう少しかみ砕いて説明すると、デジタルゴールドとしてBTCの認知度が上がった結果、一部の投資家の分散投資として採用され始めていると考えられる。例えば、全資産の60%を債券、30%を株、残り10%をBTCに分散投資するストラテジーを採った場合、株価が下落するとBTCの割合が増えるのでリバランスで売却せざるを得ない。CMEのBTC先物の参加者の多くを占めていると思われるCTA(商品投資顧問)などはBTCだけでなく複数のアセットを見ながらポジション操作しているので、その結果、BTC相場はグローバルな材料や他のアセット価格に反応することが多くなったのではないかと推察している。

上図の様に昨日もS&P500の下落の30分から1時間後にBTCも急落した。今朝のDailyで指摘したように、これは8000ドルのストライクの重力圏から上抜けしようとして失敗、ガンマディールで再び8000ドルに吸い寄せられたことが大きいと考えるが、そのきっかけは米株の下落だった可能性が高い。では、そのBTCとS&P500の相関性はどうかと言えば、下図の様に逆相関になったり順相関になったり、一見して、あまり有意な相関関係にあるとは言い難い。ただ、よく見ると、今年5月半ばから9月後半まで逆相関が強かった関係がそれ以降、順相関に転じている。この時期は、米中貿易問題が再燃し米経済への先行き懸念が浮上、トランプ大統領は1%の利下げを要求、米金融政策もバランスシート縮小(ベースマネーの回収)ペースを5月から減速、7月いっぱいで停止、利下げも2回行った時期だ。正常化と称して、昨年末まで利上げを繰り返し、市中にばら撒いた緩和マネーを回収していたところから金融政策が緩和方向に転換した時期でBTC買いの一因となった。こうした金融緩和、ドルの価値に疑問符が付くような局面ではBTCは逃避資産として株価と逆相関になる事を示していると考える。そして足元では、2回の利下げで一服感が出、また米中摩擦も落ち着いたことも有り順相関に戻ったという見方も出来る。

ただ、両者の関係は、米株も業績相場に対する金融相場と言って、金融緩和期待で上昇するケース(雇用統計など経済指標が悪いと株が上がるなど)もあり一筋縄ではいかないし、更に米株や金利に影響を受けやすい為替相場のドル高ドル安にも左右される。その結果、「リスクアセットであり法定通貨に対する逃避資産」という性格だけでは、BTCとS&P500との関係は説明しきれない複雑なものだ。これを読み解くのが「相場は知的格闘技である」と呼ばれる所以で、参加者も変動要因も次々とアップデートされていく仮想通貨市場はさらに難解で、それ故、謎の解き甲斐もあるといったところか。



松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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