2019.10.25【量子コンピューターはビットコインを滅ぼさない理由】

2019-10-25 19:10[ 松田康生

Weekly Report 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン イーサリアム リップル ビットコインキャッシュ ライトコイン

Review

レンジ切り下げ

今週のBTC相場は大幅下落。週の前半は8000ドルのオプションの重力圏から脱出できず、7900ドル(約85万円)近辺の下抜けを3回失敗して反発していたBTC相場だったが、BSVが突如約10%急騰に連れ、90万円をトライした。しかし、ザッカーバーグ氏が米国の規制当局の承認得られるまでは世界中どこでもリブラを開始しないとしたことや、Googleの量子コンピューターの量子超越性実証がNatureに正式に発表され、将来的に暗号技術が破られ2重払いが可能となるといったリスクが出回るとレンジを下抜け7500ドル(約81万円)近辺まで急落を見せた。BitMEXで3万BTCのロング解消との報もあり、ロングポジションの投げが主因との声も聞かれた。ザッカーバーグ氏の公聴会中に一時80万円を割り込んだが、その後は落ち着いた展開となっている。結局、オプションに絡むダウンサイドの脆さが証明される形で、水準を8000ドルから7500ドルに切り下げた格好。

Outlook

レンジを切り下げ

来週のBTC相場は底値を探る展開を予想する。先週はヒストリカルボラティリティーが反発を示す20台までもう少し距離があることやLTC summitやSWELL、FOMCや雇用統計・ISMといったイベントが月末週以降に控えていることから動意の薄い展開を予想した。実際、8000ドルを中心に上下500ドル(約6万円)のレンジでの取引が続いたが、レンジの上限で3度跳ね返されると、FB社CEOの議会証言やGoogle社の量子超越実証などもありレンジの下限を下抜けた。ただ、その後は7500ドル(約81万円)近辺で揉み合っており、揉み合いの中心が8000ドルから7500ドルに切り下げられた格好となっている。

量子コンピューターへの道(参考:wikipedia)
1900年 プランク、「量子」仮説 1990年代 アルゴリズムやプラグラム言語の研究続く
1903年 キュリー夫人、ノーベル賞受賞 2000年代 冷却技術などによりハードウェアの開発続く
1905年 アインシュタイン、ブラウン運動を説明 2011年 D-Wave登場、専用計算機
1935年 湯川秀樹、中間子を予言 2014年9月 グーグル、量子コンピューターを独自開発
1959年 リチャード・P・ファインマン、量子を用いた計算を提唱 2016年5月 IBM 5量子ビットの量子コンピューターを公開
1980年代 量子計算模型、量子回路を考案 2019年1月 IBM 世界初の商用量子コンピューター開発


量子コンピューターの歴史

今回Googleが実証した量子超越とは量子コンピューターがスーパーコンピューターを超えている事を実証すること。ここで歴史を振り返ると1959年に原理が提唱され、1980年代に回路などが考案、1990年代にプログラム言語の研究が進んだ。ここまでは机上の空論で2000年代に入りハードウェアの開発が始まったようだが、半導体を電子などに入れ替える訳なので容易ではない。最近になってようやく試作品が出てきた段階で、「AIしのぐ技術革新の衝撃」と持ち上げた日経新聞も実用化には「うまくいっても20~30年はかかる」としている。またIBMの反論ではGoogleが1万年かかるとした計算を同社のスパコンは2日半で解いたとしている。量子コンピューターが200秒で解いたのならスパコンの1080倍、ムーアの法則では既存の半導体技術で15年で達成する計算だ。

量子コンピュータ―はBTCを滅ぼすのか?

量子コンピューターの出現がBTCの売り材料となったのには2016年10月の「量子コンピューターがビットコインを滅ぼす日」というニューズウィークの記事が影響しているのかもしれない。超強力なマシンの出現による影響には2つの経路があると推察され、1つはハッシュパワーの独占、もう1つは秘密鍵を解読による2重払いだ。まず1つ目は2台以上量子コンピューターがあれば競争原理が働き、暗号が容易に解読されかねない中央集権的システムより耐性があろう。もう1つだが公開鍵から虱潰しに秘密鍵を見つけることが可能かは議論が分かれている様だが、量子コンピューターに耐性のある暗号技術は既に存在するそうで、あとはBTCのアルゴに変更を加えるだけだ。容易には纏まらないだろうが20年もあれば解決策も出て来よう。



下に行って来い

上図に示した通りこの週末にも50日と200日移動平均線がデッドクロスするのはほぼ確実だ。こうした強烈なテクニカル・シグナルはモデル系のヘッジファンドが跋扈する為替の世界では自己実現的によく効くことが知られているが、仮想通貨市場でもある程度は効いてくるだろう。ただ、10月30日に米GDP速報値、31日にFOMCと日銀政策決定会合、1日に雇用統計とISMと景気と金融緩和に関するイベントが続く。5月の上げを先導したグレイスケールのCMも再開するらしい。テクニカルに売られたところが大底になっている可能性はあろう。

予想レンジ:75万~90万円

Altcoin

通貨 アルゴリズム 量子コンピューター出現した際の影響
ETH PoS マイニングが自由競争ではなく想定的に影響は小さい。POSにおける公平なマイナー選定が実現するメリットの指摘も。
XRP コンセンサス 信頼できるバリデータのコンセンサスであり影響はあまりない可能性。
BCH PoW ハッシュ計算方式がBTCと同じSHA255であり影響大。
LTC PoW ハッシュ計算方式がスクリプトでSHA256より複雑だが影響あり。

今週のアルトコインのBTCに連れ安となる展開。急落後、横ばい推移のBTCをよそにXRPを中心にアルトコインは底堅い値動きを見せている。この急落に関しては①リブラ公聴会説②量子コンピューター説③ロングの投げ説があるとご紹介したが、③が主因でそのきっかけを②が作ったと考えており、BTCのポジション調整で連れ安になったアルトコインがBTCより戻っていることは不思議ではない。また前述の通り量子コンピューターでの下げは過剰反応だったと見る。ただ、アルトコイン毎に影響が異なる点にも注目したい。すなわち、仮に公開鍵から秘密鍵が解読できる世界が到来した時、最も狙われ易いのはBTCと同じ暗号計算方法のBCHだろう(SHA256を突破できるならBTCを先に狙うという考え方もある)。その次が同じくPoWのLTC、但しBTC・BCHと計算方法が違うので、今のところ融通が利かない量子コンピューターには不向きかもしれない。一方で、PoSに移行しているであろうETHでは無差別にマイナーが参加するPoWと比べてそうした攻撃を防げる可能性もあるのかもしれない。またPoSにおけるマイナー選定がほぼ完全な乱数計算によって公平性が増すという指摘もあった。信頼できるバリデータの8割が承認を要すXRPはそうした攻撃を最も防ぎ易いかもしれない。そもそも日経曰く20-30年後に実用化される量子コンピューターの影響がどのようなものか、現時点での予想は頭の体操の域を出ない。ただ感覚的にXRPが一番安全そうだという感覚が戻りの強さに表れているのかもしれない。

ETH:今週のETHは大幅下落。先週Devconが閉幕し、材料の出尽くし感あり、週初は弱含みの展開となり、18000円前半まで下落。その後はBTCの上昇と共に連れ高となり、19000円台まで値を戻した。しかし、リブラの公聴会や量子コンピューターの発表などのイベントをきっかけにBTCのロングの投げに連れられる形で17000円付近まで下落。その後、サイドネットを利用し、イーサリアム上トークン支払いを改善し、スケーリング拡大を目指すFuelに関する報や、アルト全体の戻しもあり、やや値を戻している。


XRP
:今週のXRPは大幅下落。10月に入ってXRPは約20%上昇しているが、背景にはリップル社による売却額の大幅減との報あり、第3四半期(7-9月期)のリポートで、XRPの売却による売上高は、前期比で約74%も減少と公表した。また、リップル社は米国の首都ワシントンDCに新たなオフィスを設立し、仮想通貨・ブロックチェーン分野で政策決定者に教育を行うとしており、政府との関係構築を強化するなどポジティブな材料あり、32円台まで上昇。しかし、BTCの下落に連られ、XRPも下落し、一時は28円台まで下落したが、BTC下落の一因である量子コンピューターの出現はバリデータが合意するコンセンサスアルゴであるXRPへの影響は限定的という見方もあってか30円台まで値を戻している。


BCH:今週のBCH は他の通貨に振らされる展開。BSVの20%の暴騰で連れ高となり、25000円台まで上昇。その後はBTCのロング投げに引きずられ、一時22500円を割り込み、23000円台での推移が続いている。

LTC:今週のLTC相場はBTCに連れられ大幅下落。LTC Summitを前に週前半は強含みで推移していたが、他通貨同様、BTCのロング投げに引きずられ、5500円を割り込む展開となった。



FXcoin Weekly Report 2019.10.25.pdf

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

アーカイブ