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金融市場における日本のプレゼンスについて - BIS外為調査より

2019-10-29 13:46[ れんぶらんと

金融リテラシーのお話 仮想通貨 暗号資産

1.世界の外国為替市場の1日の取引高は6.6兆ドルで3年前と比べて30%増加。
2.国別で英国が圧倒的首位。次に米国、シンガポール、香港、そして日本。
3.AIを使った取引が急増しており、日本はこの分野で大きく出遅れている。


世界各国の金融市場関係者が注目している3年に1度の統計が公表されたので報告しておきます。これはTriennial Central Bank Survey - Foreign exchange turnoverと名付けられており、新聞では「BIS外為調査」などと訳されています。この統計はBIS(*1)および世界53か国・地域における1200強の金融機関が参加しています。外国為替取引はグローバル金融取引を網羅していること、情報収集が中央銀行等の公的な機関によって精緻に行われていること、などを理由に、この統計は各国の金融市場のプレゼンスを測るものとして重視されています。


1.全体の取引額 - Swap取引が大幅増加

今回の調査時点(2019年4月)における外国為替市場の1日の取引高は6.6兆ドルとなっており、前回時(2016年4月)の5.1兆ドルに比べて30.1%の大幅増加となりました。実額ベースで見ると全体の取引額は1.5兆ドル増加ですが、その内訳をみるとSwap取引の増加が0.8兆ドルであり突出しています。




2.通貨別の取引額 - JPYの割合が低下

通貨別の取引額で見ると、基軸通貨である米ドル(USD)が世界の外国為替取引の88.3%を占めており圧倒的な存在感を示しています。次はユーロ(EUR)の32.3%、そして日本円(JPY)の16.8%と続きます(*2)。注目すべきはJPYの低下です。前回調査では21.6%でしたが今回は約5%のダウンとなりました。BISはこの理由はUSD/JPY相場のボラティリティの低下にあるとしています。

通貨ペア別の取引額で見ると、EUR/USDが24.0%、その後にUSD/JPYの13.2%,GBP/USDの9.6%と続きます。こちらでもUSD/JPYは前回の17.8%からの大幅下落が目立ちます。なお、全体の取引額から見れば小さいためランキングに影響を与えないのですが、日本の個人投資家がトルコリラ(TRY)と南アフリカランド(ZAR)取引を活発に行ったことから、TRY/JPYとZAR/JPYの取引額が2倍近くに増加しています。





3.国別の取引額 - 日本の割合が低下

国別取引額シェアで見ると、ロンドン市場を有する英国が43.1%で圧倒的な首位です。以下は米国(16.5%),シンガポール(7.6%),香港(7.6%),日本(4.5%)です。英国の比率が高いのは、欧州だけではなくアジア,中東、そして米国における市場参加者が取引できる時間帯にあるという地理的な優位性に加えて、世界一の金融街であるロンドン・シティを有していることが要因です。

通貨別においてJPYの割合が低下していることを上に書きましたが、国別おける日本の低下も顕著です。主要国が軒並み取引額を増加させているのに対して日本のみが前回比取引額減少(3,990億ドル→3,755億ドル)となっています。結果として国別取引高のシェアも前回の6.1%から今回は4.5%の大幅低下となりました。

かつては東京,ロンドン,ニューヨークが世界3大金融市場と呼ばれていたのですが、今はアジアの中でもシンガポール、香港の後塵を拝する形となっています。




4.その他・考察 - 外国為替市場が変わりつつある

今回の調査において世界全体の取引額が30.1%増加したことは先に書いた通りですが、取引主体でみると、「hedge funds and PTFs」の増加が62.3%と顕著です。PTFsとはProprietary Trading Firmsのことで、自社の相場観やAIに基づく相場見通しなどに基づいて積極的にポジションを持って取引を行う参加者で、HFT(High-Frequency Trading:高頻度取引)を行う企業もここに含まれます。彼らは信用補完のために大手金融機関のプライムブローカー(*3)サービスを利用することが多く、実際に今回の統計でも「prime broker」における取引量は67.8%の増加となっています。一方で、伝統的な取引を行う大手金融機関のカテゴリーである「reporting dealers」は、前回比で18.9%の増加にとどまっています。

実際に、外国為替取引調査に定評のある英EUROMONEY社の今年のランキングによると、シェアのトップ10の中にBIS外為調査では「hedge funds and PTFs」に分類されているであろうXTX MarketsとHCTechの2社が入っています。これらの企業は5年前は全くランキングに入っていませんでした。これらの企業は世界最先端のAI、アルゴリズム取引を駆使して急速に存在感を増しています。この傾向は今後さらに進むものと見られ、外国為替取引の半分以上が、AI、アルゴリズムによる取引となる日も遠くないと考えています。




5.最後に - 金融市場における日本のプレゼンス低下について

今回の調査においてどうしても目立ってしまうのは、日本のプレゼンスの低下です。世界中の国や地域で取引額が増加しているのに、日本はそれが減少しています。財務省の対外証券投資統計などを見ると海外への投資額はここ数年で増加傾向にあるにもかかわらず、外国為替取引は減少しているわけです。

原因としては、2点が挙げられます。

第1の原因は、海外の大手金融機関がアジアの拠点を集約する際に日本ではなくシンガポールや香港を選んでいる、ということです。理由としては資産運用などのビジネスに対する規制や慣行において日本のものが相対的に厳しいことが考えられます。これは自由な取引を求めるヘッジファンドで日本に拠点を置いているところが極めて少ないことからも裏付けられます。海外の大手金融機関にとって大口顧客であるヘッジファンドなどがいないのであればビジネスとして魅力がないということになります。

第2の原因は、AI、アルゴリズム取引に対する取り組みの遅れです。日本において、欧米のPTFsに匹敵するようなテクノロジーをもつ金融機関や企業は筆者の知る限りありません。またそれを開発する人材も不足しています。欧米のPTFsは優秀な開発者には数億円相当の年俸を提示して人材獲得競争を行っていますが、日本の企業にはそのような慣習がありません。このようなやり方の善悪は別として、日本と他国の金融テクノロジーの格差は今後も拡大する可能性は否定できません。

やや悲観的な見方を書きましたが、金融市場における日本のプレゼンス低下を食い止める手立てはないのでしょうか?

あります。

新しい金融市場である仮想通貨(暗号資産)市場であれば、日本はアジアの、いや世界のリーダシップをとることが可能です。幸い日本は2017年4月に世界に先駆けて仮想通貨関連法である資金決済法を施行しており、法令が整備されています。また認定自主規制団体は自主規制ルールを策定し、管理当局と協力しながら、市場の健全な発展と利用者の保護に努めています。

これらの動きはほかの国々の一歩先を行くもので、今後仮想通貨市場が拡大するとともに、日本のプレゼンスが高められていくと考えています。

当社は設立時より、

  「日本の仮想通貨市場の健全な発展と拡大」 
  「日本人の金融リテラシーの向上」

を企業理念としていますが、これらを通して金融市場における日本のプレゼンス向上に貢献したいと考えています。

 

(*1)
BIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)は、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、スイスのバーゼルに本部があります。ドイツの第1次大戦賠償支払に関する事務を取り扱っていたことが行名の由来ですが、それ以外にも、当初から、中央銀行間の協力促進のための場を提供しているほか、中央銀行からの預金の受入れ等の銀行業務も行っています。
BISには、2019年(令和元年)6月末時点で、わが国を含め60か国・地域の中央銀行が加盟しています。日本銀行は、1994年(平成6年)9月以降、理事会のメンバーとなっています。(以上 日本銀行ウェブサイトより抜粋)

(*2)
通貨別割合の合計は200%となる。これは、例えばUSD/JPYの取引の場合、USD,JPYそれぞれの取引額に2重計上されるため。

(*3)
外国為替取引においては、一つの銀行・証券等の金融機関の信用供与により、他の複数の金融機関と取引できる仕組み。

れんぶらんと

17世紀に活躍したオランダの画家レンブラント・ファン・レインの作品をこよなく愛する自称アーチスト。 1980年代後半のバブル期に株式および外貨資産投資を始め、いい思いをしてから投資の世界にどっぷりつかっている。

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