中国のデジタル通貨(DCEP)は脅威、軽視すべきでないと考える理由

2019-10-30 21:22[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産

今回のBTCの急騰のきっかけとされた中国の習近辺主席のブロックチェーン推進発言と続くヘッドラインの中で、中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事が中国人民銀行が最初の中銀コインDCEP(Digital Currency Electronical Payment)を発行するだろうとの発言が話題を呼んだ。人民銀行がそうしたものを計画していることは以前から知られていて、市場はあまり反応しなかったが、これはリブラの登場と同じ様に、それ自体が成功するかは未知数であるものの、ブロックチェーン決済が普及していく方向性を感じさせるものだった。このニュースに対し、まだ「可能性に言及」しただけの不確かな情報で、またザッカーバーグ氏が米公聴会でデジタル通貨における中国脅威論を大げさで、せいぜいAlipayやWechatのライバルになる程度(グローバルには影響は限定的)といった声も聞こえてくる。そういう意見は一応の関心を払っているだけましな方で、日本国内でDCEPが脅威になるかといった議論を見つける事すら珍しいだろう。

まずこの情報の重さについて政府系シンクタンク幹部が上海のイベントで発言したものと伝えられている。全く正しい記述だが、このシンクタンク、中国国際経済交流センターの理事長は元国務院の副総理で、顧問には全中銀総裁の周小川氏や元国務委員で日中友好協会会長の唐家セン氏などが名を連ねている。副理事の黄奇帆氏も習近平主席のライバルと目されていたが失脚した薄熙来の後を受け重慶市長を務めた大物だ。中国には4つしかない直轄市(北京・天津・上海・重慶)の元市長ということは日本で例えれば大阪府知事ないし市長といったところだ。お国柄から考えても「政府系シンクタンク幹部」とは大分イメージが変わってくる。

またその影響に関しても軽視されている気がしてならない。まず、中銀が発行するデジタル通貨(CBDC)を発行する場合、銀行間で流通させるケースと一般国民にも流通させるケースの2パターンが考えられる。前者だけであれば既存の中銀システムのバージョンアップに近い話に矮小化されるし、ブロックチェーンの必然性も薄くなる。しかし一般国民の手に渡るとすると大きな影響が出てくる可能性がある。というのはブロックチェーンを用いたトークンのブレークスルーは離れた人同士が直接お金を受け渡すことが可能となった事だ。21世紀に至るまで、決済するには直接会って現金を受け渡すのか、債権の譲渡などで相殺するのか、どこかの中銀や銀行の口座間で振り返るのかといった方法しかなく、遠く離れた債権者と債務者が直接金品をやりとりする方法は、現金や手形を郵送するしかなかった。それが電子トークンを使うことでウォレットさえ持っていればどこでも誰にでもお金を支払うことが可能となる。すなわち、このDCEPを貿易決済に利用することにより海外でDCEPが利用される、非居住者がウォレットを持つことになり、すると第3国同士、例えばアフリカと中央アジア間の決済をDCEPで行うことが可能となる。カンボジアなど自国通貨よりドルが流通する国の中にはドル紙幣の代わりにDCEPが流通するかもしれない。この点に関して黄氏は「まず銀行への発行、そして一般国民へ流通が想定」され「人民元の流通と国際化が促進」することを意図していると述べている。普及度によるが途上国の通貨主権どころかドル基軸性まで揺るがしかねない。

以前「CBDCから垣間見える中国当局の意図」で指摘した様に中国の意図は人民元の国際化だけではないだろう。それは国民生活の監視だ。DCEPが海外で流通すれば、そうした経済活動まで捕捉されてしまう。更に、ウォレット保有者の情報やどこまで規制するかなども中国政府の思いのままで、例えば北朝鮮への経済制裁など意味をなさなくなる虞がある。最悪なのは、そうした問題が生じたときにリブラならば強権的に規制することが可能であるが、相手が中国政府となると文句が言い難いということだ。

こうして考えると、この中国のCBDCが脅威だという点だけは米公聴会でのザッカーバーグ氏の言い分は正しかったと考えている。中国が脅威だから不完全なリブラを認めろという議論には与しないが、少しは日本でもこれを脅威として真面目に議論するべきだと考える。我々には宋銭や明銭のように中国の発行した貨幣を長らく受け入れてきた歴史があるのだから。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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