中国DCEPが口火を切ったデジタル通貨国際競争の行き着く場所

2019-11-06 20:09[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

先日のトピックで中国のデジタル通貨(DCEP)は脅威、軽視すべきでないと申し上げたが、早速、各国から反応が出始めた。ReuterはEUがECBに対しCBDC発行を検討する様に促す文章をドラフトしたと報じた。トルコもエルドラン大統領の下、2020年末の試験的導入に向けCBDCのテストを行っていると報じられた。英中銀のカーニー総裁は8月のジャクソンホールでドル支配終わらせるデジタル基軸通貨体制を提唱、これを受け同行副総裁は複数の中銀と合成デジタル通貨を何らかの形で開発することは「考察に値する」とした。CointelegraphによればFRBは仮想通貨やステーブルコインの研究に貢献できる人材を募集しているらしい。

今年6月のIMFの報告によれば、ウルグアイが限定的なパイロット発行を開始、バハマ、中国、カリブ諸国、スウェーデン、ウクライナが続こうとしている様だ。ただその動機は様々で、現金の代替、支払の利便性、マイナス金利の適用、また私企業による決済の寡占化防止などが挙げられている。また途上国では銀行口座を持たない人々への金融包摂がフォーカスされ、また国によっては国家による経済活動の監視が動機となっていると述べている。最後の部分は中国を指しているのかもしれない。そして国によって形態や規制が異なるであろうが、現金使用による社会的コストを低減し、金融包摂を進め、私企業による決済の寡占化防止に資することをメリットとして挙げている。最後の部分は多分にリブラを意識しての記述かもしれない。IMFにこう繰り返し指摘されているのに対するFBやカリブラ社の対応には疑問が残るが、その点に関しては再三、別稿で述べているのでここでは深入りはしない。ただ、前出のEU文章のドラフトではリスクの高いプロジェクトを禁止もうたわれている。

ここで見えてくるのが、中国が進めようとしているDCEPと、IMFが挙げた各国(除く中国)が進めるCBDCとは若干性格が異なる点だ。すなわち、多くの国が進めているのは主に国内で流通するトークンだ。ウォレットさえあれば理論上は可能だがウクライナ・フリブナをグローバル決済に使うのは2国間貿易の時くらいだろうし、オフショアで受け取った側は相当困るだろう。すなわちDCEPには国民経済の監視とドル基軸制度への挑戦の2つの意図があるから警戒を要すのであろう。現在のクロスボーダー決済の多くはドルを介しており、それはNYにあるドルのコルレス口座を経由している。その結果、世界中の国は米国の(一部の)国内法の順守を強いられ、関係も無いのに米国当局から巨額の罰金を命じられている。しかし、お金がトークン化すれば別にNYのコルレス口座を経由する必要もなくなるどころか、銀行すら経由する必要がなくなる。こうしたトークンを先に発行して世界を席巻すればドル1国基軸耐性に風穴を開けることが出来ると考えた訳だ。先日の中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事もそうした意図を隠そうともしなかった。

あくまで頭の体操だが、この行きつく先はどうなるか?中国はDCEPを一帯一路や影響力の強いアフリカ諸国、更にミャンマーやラオスなど東南アジアの周辺国に拡大していく可能性が高いと考える。EUのCBDCの研究は多分にリブラを念頭に置いているのだろうが、そういう事態になれば東欧やアフリカ北部を抑えるだろう。実際、北部・中央アフリカ地区ではセーファーフランと言ってユーロペッグした通貨を使用している。米ドルは勿論世界を席巻しているが、中でも中南米では既に経済がドル化している国もある。少し飛躍があるが、そうしてCBDCにより世界の経済がいくつかの通貨グループに分かれていき、同時に米中貿易摩擦で露呈したGATT・WTO体制の綻びが行き着く先は1930年代のブロック経済化だ。すなわち、人民元やユーロで為替リスクのない経済圏が成立していくと、どうしてもそれ以外の通貨を使用している国にとって参入障壁となる、もしくはアジアでは人民元を介さないと貿易がしにくく、その結果、人民銀行や中国政府の意向を伺わなくてはならない、もしくは行動を監視される、といった事態も考えておく必要がないだろうか。これを夢物語として一笑に付すのはやや危機感が足りないのではないか。

これに対し日銀はCBDC発行に消極的だ。雨宮副総裁は「日本銀行はデジタル通貨を発行すべきか」という講演で「多くの中央銀行は、近い将来、CBDC を発行する計画はないが、調査研究は行っていくというスタンスにあり、日本銀行も同様の考えです」と言い切っている。その理由として、CBDCを発行すると林立する電子マネーの競争を妨げ民業圧迫となること、銀行預金からCBDCへシフトが起こり銀行による金融仲介機能が弱まることを挙げている。国内の決済業者と銀行の為にCBDCを発行しないという訳だ。しかし、世界は動いていて、中国に対抗してEUも動き出すなど状況は変化している。国家戦略的な視点が重要だろう。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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