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リスクオフって言うけど、逃避資産・逃避買いとは誰が何から逃げているのか?

2020-01-30 20:06[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

年初より米イラン対立激化や現在進行中の新型ウィルスと、いわゆる「リスクオフ」と言われるイベントが続いているが、BTC相場はその時々で反応の仕方を変え、その度に逃避資産としての面目躍如と言われたり、いやリスクイベントとBTC相場は関係ないと切り捨てる意見も見られた。確かに「関係ない」と言いきってしまうのは正直でもあり、ある意味、楽でもある考え方だ。相場というものは、最終的に需要と供給で決まるもので、更に言えば売りと買いとの数は常に同じで、そうなるように神の見えざる手で価格が調整されるわけで、ならば相場がどうなるかなど神のみぞ知ると言っても間違いではない。

しかし、相場は所詮需給だと言ってしまうことは、ある意味、思考停止で、相場の分析とは、米国とイランが戦争を始めたらどうなるか、新型肺炎がパンデミックとなったらどうなるか、と手掛かりを捜すことであり、相場の動向とは参加者の集団心理で形作られる訳で、その行動にどういう影響があるか、これを考えて仮説を立てて、実際の市場の動きで確認していく訳だ。この市場分析というのは重要で、それが無ければ、偶然性に依拠したものと見做され、投資の対象とはならず、これ以上の市場の成長はなくなってしまう。限られた参加者間のゼロサムゲームと化してしまいかねない。そこで、弊社も含め、参加者たちが歯を食いしばりながら、世界の動きの中から相場の手掛かりを捜し続けている訳だ。

そのリスクオフとBTCとの関係だが、弊社は、BTCは通常はリスク資産として振舞うが、法定通貨、特にドルなどの価値に疑義が生じるイベントに関しては逃避資産として働くと考えている。従って、今回、新型肺炎が中国株から米株の下落に繋がった時点では米株に連れ安となったが、武漢の閉鎖、団体海外旅行の禁止、更には工場の休業延長と世界景気に疑義が出だしてFRBの金融緩和が見えてくるとBTCにも逃避買いが出てくると考えている。ただ、これには説明が必要で、少なくとも日本で米国が利下げしそうだからBTCを買う人などは殆どいないだろう。

このリスクオフという言葉が生み出されたのはいつ頃だっただろうか。小職が短期市場に従事していた90年代後半にはまだ存在しなかった。当時は「有事のドル買い」としばらくして「質への逃避」という言葉で何となく表していた。しかし、2000年代に入り、地政学的リスクや株の下落などリスクイベントが起こるとドル円が円高に振れるとういう現象が意識されるようになった。その後、9.11やリーマンショックなどのリスクイベントを経て、リスクオフ→円高という公式が出来上がってきた訳だ。もしかしたらユーロ円の登場により、ドルはニュートラルで円高だけ進むといった事象を指していたと古い為替ディーラーが指摘する。その後、ドル円だけでなく様々なアセットがリスクオフで売られるリスク資産か、逆に買われる逃避資産かといった色分けがなされるようになってきた。市場の動きを説明するのに便利で重宝されたものだ。

ではなぜ、リスクオフになると円高になるのか。正直、為替や債券トレーダーやセールスなどを長く務めたが、「安全資産」だと思って円を買っている外国人を見たことが無い。この秘密は世界の資金フローにある。世界の国際収支を見ると、経常収支黒字国は余ったお金を赤字国に貸し、赤字国は黒字国から借りてくることでバランスしている。世界の基軸通貨はドルなので、直接貸したり、株を買ったり、投資したりしなければ、ドル預金という形で最終的にはFRBの準備預金の形でアメリカに貸している形になる。そして日本は世界最大の経常黒字を何十年も続けてきており、逆にアメリカは赤字をずっと累積し続けている。ご存じの通り米国債の最大の保有者は日本人だ。従って、世界の資金フローは日本からアメリカにお金を貸し続けることで成り立っている。ここで、戦争や未曽有の伝染病、大災害、隕石の到来、未知との遭遇など先が読めない事態に出くわすとどうなるか。お金の貸し手である日本人は出来るだけ手元に現金を貯めておこうとする。積極的に換金売りをしなかったとしても、新規の投資は控えようとする。その結果、円高が進むわけだ。即ち、日本人にとっては円が安全資産だからだ。そうしたことが続くに従って、そうした動きに先んじようとするスペックなどが円を買っては投げ売りしたりするが、根本に流れる仕組みは上記の通りだ。

次にBTCがリスクアセットで株安、特に米株安になると一緒に売られる仕組みについて、説明したい。これは、おそらくは米国などでBTCをアセットクラスとして分散投資のポートフォリオの一部に組み込んでいる投資家が存在しているのではないかと考えている。よく仮想通貨市場で「機関投資家」などと言われるが、その多くは小規模なヘッジファンドやCTA(顧客の金を預かって先物市場で運用を行う業者、HFの一種ともいえる)などでその背景には個人、特にファミリービジネスと言われる法人成りした個人資産運用会社が多いと推察される。日本でイメージされる銀行・生損保・投信など幅広くお金を預かって運用する金融機関には仮想通貨市場はまだ問題が多すぎるからだ。そうした人は例えば資産の2%をBTCに投入すると決めていると、株価が上昇するとBTCの割合が減ってしまうので株を売ってBTCを買増す行動を取る。こうして株などアセット価格が上昇するとBTCも連れ高となるわけだ。特に米国のCMEの先物などに参加しているCTAは債券先物や株先物、場合によっては通貨先物も同時の取引しており、CMEの拡大によってより金融市場と関係を深めていると考えている。

一方で、仮想通貨は法定通貨のアンチテーゼという側面がある。特に昨今の世界中の金融緩和競争は、いかに自国通貨の価値を毀損して内需を喚起しよう、場合によっては貿易を有利にしようといった争いだ。日銀に至っては日本国債の半分近くを保有し、東証の5%以上を保有し筆頭株主になっている。それでも現金が好きな人の金払いをよくするために、あの手この手で円の魅力を下げようとしている訳だ。こうしたことが続くと、特に自立心が強いアメリカ人の中にはドルのリスクヘッジに一部BTCを買増そうという動きが進むのではないか、そう考えている。

上記はあくまで仮説にすぎない。ただ別稿で述べているように、実際に市場がそう動いている局面も観察される。ただ投機中心でポジションに振らされ易いこの相場はなかなかセオリー通り動くとは限らない。ただ、我々参加者は少しでもその手掛かりを掴むべく、引き続き分析を続けるしかない。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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