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xRapid実用化で幕を開ける戦国時代(一部修正)

2018-10-03 14:46[ 松田康生

トピック 仮想通貨 XRP bitcoin Bitcoincash Litecoin Ethereum

日本におけるGoogle検索数で「リップル」が「ビットコイン」を上回るなど、このところ話題のXRP(リップル)ですが、注目のカンファレンスSwellでは冒頭からリップル社のガーリングハウスCEOがXRPを用いた送金システム、xRapidの商品化を発表、メキシコの送金会社など既に何社か利用を始めた様です。いよいよ仮想通貨の海外送金への実用化時代が幕を開けましたが、ライバルたちも指をくわえて見ている訳ではありません。以下ではxRapidの何がブレークスルーで、どういったライバル達がいるのかご紹介した上で、未来の送金の形について考えてみたいと思います。

伝達機能と決済機能

その前に、海外送金におけるブロックチェーン技術と仮想通貨の利用に関して少し掘り下げてみたいと思います。海外送金には2ステップの作業が必要で、1ステップは送金指図で、1ステップは資金の決済です。現在は送金の依頼を受けた銀行と受取人の口座がある銀行の間で、お互いが海外の銀行に保有するノストロ口座間で資金決済します。一方で、送金銀行は受取銀行にだれだれさんからだれだれさんにいくらの送金がありましたよと伝えると同時にノストロ口座を保有する銀行に支払い指図を送ります。このいわば電子メールのような伝達手段としてSWIFTは使用されています。ただの電子メールと言っても国際間の銀行口座の支払いなので間違いや改ざんがあってはいけないし、障害も許されません。

xRapidの実用化

そこで改ざんが難しいブロックチェーン技術を用いてこの伝達機能を代替しようとして登場したのがxCurrentで、このサービスではブロックチェーン技術を利用しているだけで仮想通貨は登場せず、原則として資金決済は従来通りノストロ口座を利用します。支払い指図がSWIFTnetからRippleNetに替わるだけです。これに対しxRapidでは前者のノストロ間の資金移動を銀行間でXRPを送金することで代替してしまいます。ついに仮想通貨が国境を越える送金を媒介する世界が実現した訳です。それもビジネスの世界で実用化に成功しました。

XRP連合が先行

このRippleNetに参加している銀行は40か国、100行を超えたそうです。同社のHPから主な参加行を挙げると、三菱UFJ(日)、みずほ(日)、スタンダード・チャータード(英)、クレディ・アグリコール(仏)、ユニクレディート(伊)、サンタンデール(西)、バンク・モントリオール(加)、CIBC(加)、ウェストパック(豪)、サイアムコマーシャル(泰)など各国を代表する錚々たる顔ぶれです。これ以外にもSBIが主導する内外為替一元化コンソーシアムにメガ3行含む国内50行程度が参加しています。ただ、上記を見ると必ずしも世界の大手銀行が入っている訳ではないことに気付きます。欧州でもドイツ、バークレーズ、パリバなどの大手行が入っていません。彼らはどうしているのでしょうか。

JPM帝国の追撃

その答えのひとつが先日JPモルガンから出されました。同行はイーサリアムのプラットフォームを利用した独自のブロックチェーン技術を開発し、その送金プロジェクトに76行が参加を表明しているとFT紙に報道されました。参加行をみるとANZ(豪)、カシコーン(泰)など上記に参加していない銀行が多く見られます。すなわち、次世代送金を巡って、豪州・カナダ・タイなどで国別の場外乱闘を繰り広げています。面白いのは日本のメガの対応で、三菱UFJはXRPのみに参加し、SMBCはJPMのみに参加しています。ところがみずほは両方ともに参加するコウモリ戦法のようです。こうした銀行もいくつかあり、サンタンデール、クレディ・アグリコール、ユニクレディートも同様の両にらみ作戦です。ちなみにSMBCも内外一体コンソーシアムの方には参加しヘッジはしている様ですし、三菱UFJもSWIFTの新システムにも参加している様です。何だか次世代送金システム覇権を巡って、戦国時代が開幕しているみたいです。ただ、このJPのシステムはまだリップル社でいうxCurrentの段階で、伝達方法を変えるだけで、1周遅れと言えるかもしれませんし、世界のドル決済を握っているJPMの戦略かもしれません。

IBMの2方面作戦(その1:欧州系と同盟)

最後に忘れてはいけないのがシステム界の巨人IBMの動きです。同社はHyperledger Fabricという分散台帳を用いたプラットフォームを公表し参加者を募っています。これにドイツ銀行やHSBCなど欧州系の大手金融機関9行が参加し送金システムの実証実験に成功した様です。Hyperledgerとはリップル社の共同創始者ジェド・マカーレブが考案したコンセンサスアルゴリズムに近いものですが、これを公表して参加者を増やす方法は、90年代のPC98 vs DOS/Vを思い出します。当時日本のPC市場はNECのPC98シリーズがシェアを握っていたのですが、追いかけるIBMがDOS/Vの仕様を公表することで普及を図り、多数派工作に成功し天下を取ったのでした。

IBMの2方面作戦(その2:ステラとの同盟)

このHyperledgerプロジェクトは伝達システムだけですが、同社は更なる手も打っています。IBM・ステラ連合です。ステラという通貨はXRPをベースに個人送金用に開発された時価総額6位の仮想通貨です。このステラを開発したのはXRPの共同創始者であるジェド・マケーレブ氏ですから、XRPと比べて性能や使い勝手はそん色ありません。これにIBMが提携して伝達機能を開発し、更に送金の媒介にはUSDにペッグした新たな仮想通貨まで開発しようとしています。そうすれば、XRPで生じる、送金側でのXRP買いと受取側のXRP売りのタイムラグにより価格変動を抑えることが出来ます(マーケットメーク銀行がXRPのスワップの形で売り買い同じレートを提示すれば時間差による変動は生じませんが、その場合はマーケットメーカーにいくらかマージンを支払う可能性が高くなります)。このシステムのいいところは、送金を媒介する仮想通貨に変動がないならば、別に銀行を通さずにどんどん個人間や法人間で送金してしまえるところです。

3つ巴の覇権争い

さあ、この3つ巴の戦いの結果はどうなるか、xRapidの実用化により後発隊はペースを上げてくるでしょう。先行するXRP連合は三菱UFJ・スタンダードチャータード・ウェストパックなどの連合軍です。一方でジェミー・ダイモン率いるJPM帝国もSMBC、ANZ、RBCそれに多くの中南米の銀行を引き連れています。またドル決済を握っているのも強みです。一方、IBM同盟は欧州系や個人決済を武器にゲリラ戦を挑んで来るようです。勝敗を決するのは果たして、兵力の差か、武器(技術)の優劣か。因みに過去のベータ・VHS戦争では技術力より多数派工作が決め手となりましたが、兵力(参加行数)で言えば、XRP連合100行、JPM帝国76行に対しSWIFTは11,000行と圧倒的な差があり、これを埋めるには時間がかかるでしょう。日本で例えるなら、戦国の火ぶたは切って落とされたが、しばらくは室町幕府は続く、ちょうど応仁の乱が始まったあたりのイメージでしょうか。中国の大手銀行がまだ動きを見せていないことも不気味です。銀行を通さない直接送金が主流になるならば、BCHやLTCも有力に候補に挙がってくるでしょう。そうした視点でアルトコイン投資を考えると面白いかもしれません。



(修正箇所のご案内)
当初バンカメはRippleNet顧客で無く、それゆえxCurrentではドル決済が出来ないとしておりましたが、同社はRippleNet Committeeのメンバーであることから同社にノストロ口座を開設することでRippleNet経由の支払い指図でドル決済が可能であることが判明しましたので、訂正申し上げます。それに伴い、本文では10月11日付で以下の個所を削除しております。
更にカード会社のAMEXは参加していますが、アメリカの3大銀行が入っていません。RippleNetで送金指図を認めている米銀がいないということは、参加行のNY支店にノストロを保有している場合は別として、米ドル決済が出来ないことを意味しています。また
まだ動きを見せていないCITIやバンカメの動きも気になりますし、
また、RBCもRippleNet Committeeのメンバーであることから以下修正を行っております。
参加行をみるとANZ(豪)、RBC(加)、カシコーン(泰)など上記に参加していない銀行
謹んでお詫び申し上げます。





松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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