市場のパニックが続く理由と収まる条件

2020-03-17 18:35[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

先週、大暴落したBTC相場ですが、直近1か月の米株とBTCの相関係数が0.9に達している状況下、株式相場が下げ止まらない限り、BTC相場も下げ止まり難い状況が続いています。その株式市場ですが、昨日はFRBがサプライズでゼロ金利復活、量的緩和再開と100点満点の対応を見せたのに、日銀がETF買取増額などの追加緩和を打ち出したものの銀行の収益圧迫など副作用が囁かれるマイナス金利の深掘りを見送ったことを嫌気して、ドル円、日本株、更に金や欧州株なども売られる展開となりました。続くG7首脳TV会談で必要ならば何でも行うことで一致したものの、これまた具体性に欠けると期待外れに終わり、一度壊れてしまった市場心理の回復の難しさを印象付けました。本稿では、どうしてこんなことになってしまったのか、どうしたらよいのか、市場参加も政策担当者も頭を抱えているところだと思います。実は、最近お話を伺った児童心理士さんの言葉に思い当たる節があったのでご紹介したいと思います。

そもそも、今回の惨状はどうして惹き起こされたのか。勿論、きっかけは新型コロナの予想外の感染拡大です。これによりアジアでは日中韓での人の往来がストップ、欧米間でも同様のことが起こりつつあります。更に外出禁止令や国境閉鎖と、これで景気に影響が出ないと思う方が不思議です。ただ、かつてのSARSやMARS騒ぎの際はウィルス流行の影響で一時的に相場が下押ししても最終的には切り返しており、新型ウィルスの拡大とその影響だけでリーマンクラスの相場の崩壊を説明するのは難しいと思います。また弊社では、コロナはきっかけで2月12日の議会証言でパウエルFRB議長がバランスシート拡大の終了を示したことによって金融相場を終わらせたことが背景にあると考えています。米株もBTCもその日を境に下落に転じたことがそれを示していると考えています。ただ、それだけならば、FRBが量的緩和を再開するのだから、もう戻っても良いはずなのに、そうはなっていません。これはどうしたことでしょうか?

簡単に言ってしまうと、FRBがバブルを崩壊させた結果、市場心理をズタズタに傷つけてしまったのが問題だったと考えます。12日(日付はいずれも東京時間)の旧ハンフリーホーキンズ法議会証言に続き14日にはレポオペ縮小を発表、24日に米株が1000ドルの下落を見せましたが、28日にはエバンス・シカゴ連銀総裁やラガルドECB総裁が揃って新型コロナに対する対応は時期尚早と突き放しました。米株の続落に堪らずFRBは緊急声明を発表、翌週に緊急利下げに踏み切ったのですが、時すでに遅し、冷え込んでしまった市場心理は、もう50bpの緊急利下げでも救えなくなっていました。また、まずい対応だったのが3日の緊急電話G7でした。「あらゆる政策」を用意するとしながら、結局、具体的に行動したのは米国だけで、この日欧の口先緩和が市場に見透かされたとも言えるでしょう。

息子のことで相談していた児童心理士の方から教わった児童心理学の概念に「安全基地」というものがあります。子供は親との信頼関係によって育まれる『心の安全基地』の存在によって外の世界を探索できるようになっていくという考えで、これは成人にも適用されると考えられているそうです。即ち、今の市場のパニックは参加者の自信喪失に起因しており、パニックを収めるには誰かが「安全基地」となって、安心感を与えるメッセージを発する必要がある訳です。実はこの機能こそ、最後の貸し手なる機能が失われて長い現代における中央銀行の最たる役割ではないかとさえ考えます。その時に、実際にコロナで景気に影響が出ているかだとか、マイナス金利にした時のメリットデメリットだとか、学校を休校にする科学的根拠だとか、細かいことはどうでもよくて、親が子供にするように、中央銀行はどんな手を使っても市場を守るという姿勢を見せることが一番重要なのだと考えます。子育ても市場も、結局は心の問題だからです。

それ以外に子供の心の問題で重要なものに夫婦仲があります。喧嘩ばかりしている夫婦で育った子供は自己肯定感を失ったり、粗暴になったりするそうです。市場にとって中央銀行が親ならば、G7とは夫婦にあたると考えています。よく協調介入や協調利下げが話題になります。為替の世界では単独介入はいずれ破られる可能性が高く、協調介入でないと効きにくいとされます。単独介入には外貨準備という上限があるが、中銀間で裏で相手通貨を融通し合う協調介入は無限に続けられる事を示していますが、それ以上にアナウンスメント効果の方が大きいと考えられています。協調利下げに至っては、理屈上、単独利下げとの効果の違いは見出しにくく、ほとんどアナウンスメント効果しかありません。それでも、上記を踏まえると何故効くのか理解できます。即ち、パニックに陥った市場に必要なものは安心感であり失った自信の回復であり、片親だけから得られるよりも、世界中の中銀が揃って手を差し伸べてくれた方が格段と安心感が得られるのではないでしょうか。

ここまでやや強引に市場心理の崩壊を児童心理学に例えて説明してきましたが、実はこれは大事なことで、大やけどをして自信を失っている市場参加者を自己責任と突き放すと、合成の誤謬というか市場の失敗で、世の中はリセッションでなくディプレッション、即ち恐慌に陥りしかねず中央銀行の慎重かつ大胆な舵取りが必要な訳です。リーマンブラザーズ破綻という最終判断を下してしまったバーナンキは、すぐさま事態の深刻さを認識し、惜しみなく手を打てたのは、彼が恐慌論の専門家だったか影響もあったと思いますが、今の日米欧の中銀総裁はいずれも法学部出身なので少し不安が残ります。

結局、FRBが1%利下げ、量的緩和と大振舞いをしたのに、評価が定まらない日銀のマイナス金利見送りが市場に水を差したのは、協調利下げになっていない、何でもやると言いながら、片方はまだ本気でないと市場に見透かされたからだと考えています。ようやく、その点に気づき始めたG7は昨日のTV首脳会議に続き、本日も財相中銀総裁電話会議を実施、麻生氏は危機が去るまで毎日やるかもしれないとコメントしたそうです。リーマンショック当時の宰相だった経験もある同氏のリーダーシップに期待したいところです。出口は近いと考えています。株価さえ下げ止まれば、FRBの量的緩和再開でBTCは大きく値を戻すと考えています。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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