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73万円割れの背景にある中国の脅威論

2018-10-10 17:45[ 松田康生

トピック 仮想通貨 ビットコイン

今朝方からBTC価格が急落、一時73万円台割れに急落した。CNBCでイギリスのジュニパーの研究者ウィンザー・ホールディング氏が有利な環境が続いたのに上昇できなかったBTCが今後成長する可能性は低いとしたことが嫌気されている面もありますが、一方で同じくCNBCの仮想通貨番組の司会者ラン・ノイアー氏は仮想通貨は爆発する(ほど上昇する)とツィートするなど相場の見方は人それぞれです。小職は好材料が続いたおかげでテクニカル的には非常に弱く見えた8月の相場を驚異的な底堅さで切り抜けたが、9月のフラッシュクラッシュもあって相場の信頼回復、望むべくは規制の明確化、が見られるまでは上値が重いという見方をしている。ただ、今回の下落の背景にはそれとは別に、NewsBTCなどが中国がBTCを能力と強い動機を持っているとする論文を紹介したことがあると考える。以下ではその内容をかいつまんで紹介したい(原文:https://arxiv.org/pdf/1810.02466.pdf)。

論文は“The Looming Threat of China: An Analysis of Chinese Influence on Bitcoin(中国の脅威が迫る:ビットコインに対する中国の影響の分析”という題でリンストン大とフロリダ国際大学の共同研究の形で発表されていて、日付は10月5日とされている。著者の一人Ben Kaiser氏はプリンストン大のコンピューター・サイエンスの博士課程の学生の模様。論旨は、中国国内のマイナーはBTCハッシュパワーの74%を占めており、これらを動員すればBTCを支配しコントロールすることが出来る。中国は

1)非中央集権というイデオロギーへの反発
2)資本逃避への防御
3)BTCが有益と考えるならば他国のマイナーを崩壊させ独占する
4)BTCが更に拡大する様なら他国の経済に打撃を与える

といったBTCを攻撃する動機を持っていて、国内のノードやマイナーに対する

1)検閲の強化
2)匿名性への攻撃
3)コンセンサスアルゴリズムへの攻撃
4)マイニングシステムの破壊

に大別される19種類の攻撃手段を持っているとするものだ。結論として、BTCが成長すれば、中国による攻撃のインセンティブが増すので、将来の課題としてその解決策を提案したいとしている。

この論文に関する受け止め方は様々だと思われるし、電気代の安い中国国内にマイニングが集中していることは課題の一つと言えよう。しかし、中国と言えども民間のハッシュパワーを総動員して国家ぐるみでBTCのエコシステムにハッキングを行うとは考えにくい。G20の主要メンバーである中国は前回会合で「暗号資産の基礎となるものを含む技術革新は、金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る」という共同コミュニケにも同意している。中国国内に多くのマイナーが集中しているからといって、中国政府がそれらを動員して他国を攻撃することを差し迫った脅威(Looming thread)というのであれば、中国政府が明日突然、外資企業の工場を接収してしまう可能性もあるし、そもそも世界有数の核保有国でもある。博士課程の学生は知らないかもしれないが中国経済がここまで急成長したきっかけの一つは2001年のWTO加盟であり、世界貿易あっての今の中国であることは十分に認識しているだろう。いくら中国政府が中央集権的だからと言って、国内のマイナーを総動員してBTCのエコシステムに攻撃を与える脅威というのは頭の体操に過ぎないと思いたい。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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