ビットコインと不正

2020-05-14 17:24[ 岩壷健太郎

岩壷教授の経済教室 仮想通貨 暗号資産

岩壷教授の経済教室 第2回



暗号資産の高騰が顕著に見られた2017年には不公正な取引が数多く報告され、それに対応する形で規制が強化されてきました。アカデミックな世界でも、暗号資産市場でどのような不正が行われているのか、どのような規制が必要なのかが議論されました。

不正にかかる研究として最初に注目されたのはGandal et al. (2018)の論文です。彼らは2013年のビットコイン価格の急上昇は一部の投資家の不正売買によって引き起こされた可能性が高いことを示しました。当時、ビットコインの主要な取引所であったMt.Goxで不正取引を行ったとされる2人の投資家のうち、マルクスは過去に終了している取引を複製してビットコインを獲得しました。一方、ウィリーは本来引き出せないはずの証拠金を売り手の口座に送金することでビットコインを購入しました。

最も注目すべきは、ウィリーが取引をした日にビットコイン価格が150ドル前後から1,000ドルを超えるという前代未聞の急上昇と重なったことです。マーカスが取引を行った17日間で平均3.15ドル上昇したのに対し、取引を行わなかった75日間では平均0.51ドル下落しました。一方、ウィリーが不正な購入をしなかった41日間では価格が平均で0.88ドル下落しましたが、取引した50日間で価格は平均21.85ドル上昇しました。このことから、ビットコイン価格の急騰の主な原因は不正取引であったと結論付けています。

Feng et al. (2018) の論文では、2011年から2017年までの間に価格に影響を与えた42のイベントについて、それらのニュースが流れる1日~3日前からすでに価格がイベントの情報を織り込んで動き始めていることを見つけました。これはハッキングなどのニュースが流れる前に、それらの情報に基づいてインサイダー取引が行われている可能性を示唆しています。

また、2017年のビットコインやアルトコインの高騰とステーブルコインであるテザーの発行の関連に注目したGriffin and Shams (2020)の論文は、米国のマスメディアなどで大きく報道されました。彼らは、ドルの価値に紐付けられているとされるトークンで、Bitfinexが独占的に大量に発行しているテザーの流れを200GBにものぼるブロックチェーンデータを解明して分析しました。その結果、ビットコインが値下がりした際にテザーを売ってビットコインを買うという行為が見られたことを発見しました。これによりビットコインの値が支えられ、値上がりが促されました。さらに、テザーの発行はビットコインの下降の後にタイミングを合わせていることから価格操作するためにテザーが発行されたことが示されました。

テザーを売ってアルトコインを買う取引が増加したことで、イーサリアムやZcashなどテザーで購入できるアルトコインは同期間にビットコインよりもさらに早く上昇しました。テザーを受け入れた交換所では、受け入れていない交換所よりもはるかに早く価格が上昇し、Bitfinexがテザーの追加発行を停止するとこのパターンが停止するという事実も突きとめました。

論文では、このような現象は通常の投資行動からは説明不能であり、一種の価格操作が行われてきた可能性があると主張していますが、一方で、Bitfinexの幹部はビットコインや他のコインの価格を押し上げるためにテザーの発行をすることはないと関与を否定しています。ただし、Wei (2018)はGriffin and Shams (2020)とは異なる統計的手法を用いて、テザーの発行がビットコイン価格の上昇に影響していないという結果を得ており、真実が明らかになるにはさらなる研究の蓄積が俟たれるところです。

さらに、pump and dumpと呼ばれる風説の流布にあたる不正行為が行われていたという研究もあります。インターネット上で特定の暗号資産を短期集中して購入することを呼びかけた上で、その発起人は少し前にその暗号資産を買い込んでおき、値上がり直後に売り抜けるという手法です。

Hamrick et al. (2018) の論文では、DiscordとTelegramという2つの広く普及しているクラウド型のインスタントメッセージサービスで行われた風説の流布の効果を測定しています。Telegram(Discord)上で呼びかけられたもののうち10%のケースで、わずか5分間で18%以上(12%)価格を上昇させたことを発見しました。2018年1月から7月の期間は暗号資産の価格と取引量が大きく下落していた期間であったことを考慮すると、このような価格上昇は風説の流布によって引き起こされた可能性が高いことを示しています。また、取引量が少ない時価総額の小さい通貨ほど風説の流布が成功する確率が高くなることも突きとめました。

暗号資産市場の規制強化というと、個人投資家からは規制によって収益機会が減少するとか、投資の自由が奪われるというような悲鳴の声があがることが多いのですが、本来、インサイダー取引や価格操作といった不公正取引に対する規制は投資家を守るためのものです。株式市場などで不公正取引が禁止されているのは、それによって市場に対する信頼が失われるならば、取引量が減少し市場の機能が喪失することになるからです。そこで、市場の健全性を守るため、不公正取引を行う一部の投資家によって多くの投資家の利益が損なわれることがないようにするために規制があるのです。なお、今日では価格操作や風説の流布などの不正行為が暗号資産取引においても禁止されています(2019年5月31日、法案成立)。


参考文献
Feng, W., Wang, Y., Zhang, Z., 2018. “Informed Trading in the Bitcoin Market” Financial Research Letters, 26, 63-70.
Foley, S., Karlsen, J. R., Putninš, T. J., 2019. “Sex, Drugs, and Bitcoin: How Much Illegal Activity is Financed through Cryptocurrencies?” The Review of Financial Studies, 32, 1798-1853.
Gandal, N., Hamrick, J., Moore, T., Oberman, T., 2018. “Price Manipulation in the Bitcoin Ecosystem” Journal of Monetary Economics, 95, 86-96.
Griffin, J. M., Shams, A., 2020. “Is Bitcoin Really Un-Tethered?” Journal of Finance, Forthcoming.
Hamrick, J., Rouhi, F., Mukherjee, A., Feder, A., Gandal, N., Moore., Vasek, M., 2019. “An Examination of the Cryptocurrency Pump and Dump Ecosystem” SSRN Working Paper 3303365.
Li. T., Shin, D., Wang, B., “Cryptocurrency Pump-and-Dump Schemes” SSRN Working Paper 3267041.
Wei, C. W., 2018. “The Impact of Tether Grants on Bitcoin” Economics Letters, 171, 19-22.

岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)

岩壷健太郎

神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。

アーカイブ