仮想通貨の価値の源泉(後)

2018-10-15 10:48[

田中泰輔の通貨にまつわる仮想 仮想通貨 暗号資産 投資

若く発展途上の技術と制度

仮想通貨についての毀誉褒貶(きよほうへん=ほめたり、けなしたりする世評)は何とも凄まじい。当コラム前編で「相場は自らを正当化する」と説明した。相場が上がり続ける間、ポジティブな買い材料が殊更に強調され続ける。相場が下がっていくと、手のひらを返して悪い面があげつらわれるばかり。
仮想通貨相場は昨年の大ブームを経て、今年は反落し低迷している。当然、何かと悪材料が強調されがちな昨今である。バブルは破裂すべくして破裂した、ビットコインは限定的数の取引しか決済できない、金融革命の肝はブロックチェーンであり仮想通貨ではない、仮想通貨取引の消費電力が膨張してエコではない、違法取引やハッカー攻撃など安全性を欠く、などなど。

しかし、悪材料が横行するからと言って、仮想通貨から目を背けるのは得策でない。仮想通貨、ブロックチェーンが金融の世界を変革しつつあることは、紛れもない現実である。ただし、仮想通貨もブロックチェーンも、技術あるいは制度として若く、発展途上にある。皆で健全にしっかり育てていこうというステージにある。
政府も金融機関も企業もファンドも、仮想通貨を含むフィンテックをどう取り込むか、真剣に取り組んでいる。伝統的な金融・通貨の機能不全が目立つ昨今、1年後、5年後、10年後に金融・マネーがどう変容するか、それを読む手がかりから目を離すべきではない。昨今あげつらわれる弱点の数々は、だから仮想通貨はダメと決めつける材料ではなく、今まさに克服されてゆく課題として注視したい。

需要面から価値を考える

仮想通貨の健全な育成を見据えていくために、相場に踊らされることない視座として、そもそも仮想通貨とは何か、価値の源泉はどこにあるのかを、踏まえておきたい。
当コラム前編では、金融資産としての株式や債券の価値は、地道な経済活動が生み出す価値が裏付けとなることを説明した。一方、ビットコインなど仮想通貨は、そうした実体経済に由来する価値の背景がなく、金利や配当といったリターンも提供しない。
その点では円やドルなどの通貨に近い。ただし、これら通貨は中央銀行が自国の経済活動の規模に見合うよう供給量をコントロールする。それによって、実体経済に結びつけられ、価値の安定と信用の確保が図られている。これに対して、ビットコインは予めルールとして供給量が厳密に定められ、それで信用を保つ仕組みである。

仮想通貨は将来にわたって供給の量とペースが決められている。したがってその相場は専ら需要サイドから形成されてきた。まずは、政府・中央銀行の管理から離れ、世界中に移動できる自由度の高さを求める需要である。このため、資金移動が金融システムの機能不全で滞ったキプロス、政府・中央銀行の資本管理が厳しい中国で、仮想通貨への需要が高まった。他に、政府や金融機関の監視の目を避けたい違法取引からの需要も強いと思われる。
需要面のこうした背景を踏まえて、政府、通貨、金融システムの信認が損なわれた時の避難先である金(ゴールド)の役割を、仮想通貨が一部分散して受け持つものとして価値を評価する分析がある。あるいは、麻薬などの違法取引の決済を全て仮想通貨で行う場合の決済需要から価値を推計するアプローチもあった。
これらは一定の前提に基づく非常にラフな推計だが、昨年12月の仮想通貨の価値のピーク水準は高すぎるとの結論ばかりだったと記憶する。それほどの割高水準へ相場を押し上げた需要は主に投機と判断された。規模の小さい若い市場にマネーが殺到し、上げ相場で高ボラティリティ(変動率)という燃料補給が、投機マネーをますます活性化した。

相場を読む外と内の要因

結局、仮想通貨の相場に関して、ファンダメンタルズに基づく内在的価値という指針がない。そんな相場の分析に専ら用いられるのは、第1に、仮想通貨と何らかの外部要因を関係づけるアプローチである。例えば、米株式などリスク資産市場のボラティリティと仮想通貨の市況が連動しやすい。あるいは単純に、ビットコイン相場はその送金コストが銀行システムでの送金コストと同等になる相場水準で一進一退している、といった具合だ。

第2に、テクニカル分析や需給分析に基づくポジショニング、そしてイベント・ニュースを評価するアプローチである。昨年の仮想通貨ブームの中で、投機筋が大量に参入し、買い持ちポジションを積み上げた。相場が上がって含み益が膨らむと、自ら売り圧力にもなりうる。米国で仮想通貨の先物市場がスタートし、売り先行の取引も機動的に行えるようになった。こうして仮想通貨市場自体の内部に、買い(需要)と売り(供給)の両サイドの厚みが増すと、彼ら市場参加者の行動が相場形成により強く影響するようになる。

短期の相場にどっぷり浸かって楽しむ場合、以上2つのアプローチ方法をあれこれ試行錯誤することになる。もっとも中長期的な期待としては、仮想通貨市場が信認を得て、安全な制度が確立され、より広範な人たちの需要を呼ぶ、そんな発展を遂げる中での上げ相場である。ICOで発行される仮想通貨の市場価値も、資金調達した事業にしっかり成算が見込まれる場合に相対的に高くなると指摘される。仮想通貨市場の健全な制度の育成・発展こそが、趨勢的な上げ相場の礎と心得たい。

以上

アーカイブ