ビットコインはヘッジか、セーフヘブンか?

2020-07-01 11:14[ 岩壷健太郎

岩壺教授の経済教室 仮想通貨 暗号資産

岩壷教授の経済教室 第5回


「分散投資の効果」については誰もが耳にしたことがあると思います。1つの資産に投資するよりも、複数の資産に投資する方がリスクを分散できるという話です。ある資産の価格が下落するときに別の資産の価格が上昇するならば、両者を含むポートフォリオは1つの資産だけを保有するときよりもリスクを小さくすることができます。したがって、株式や債券、為替など複数の資産に投資する場合、暗号資産(仮想通貨)を投資先の1つとして加えるべきかというのは検討に値する問題なのです。しかし、そもそも仮想通貨には分散投資の効果があるのでしょうか。今回はビットコインにヘッジ機能があるのかについて考えてみます。

 ヘッジ機能があるかどうかは他の資産との間の価格の相関関係に依存します。ここではBaur and Lucey (2010)の定義に従い、他の資産と相関関係がない、あるいは負の相関関係にある場合、その資産をヘッジ資産(リスク回避資産)と定義します。

 また、他の資産と完全ではないが正の相関関係にある資産をダイバーシファイヤー(リスク分散資産)と呼びます。完全に連動する資産ではリスクの分散効果は得られませんが、そうでなければ正の相関であってもポートフォリオのリスクを減らすことができます。さらに、市場の混乱時に、他の資産との相関性がない、または負の相関性を持つ資産のことをセーフヘブン資産(安全な避難先資産)ということにします。普段はヘッジ資産であっても、相場の急落時に他のリスク資産と連動して価格が下がるならば安全な逃避先とはいえません。そのようなときに下がることなく持ちこたえている、あるいは価格が上昇するような資産がセーフヘブン資産なのです。

 ビットコインにヘッジ機能があるかについてはすでにかなりの研究の蓄積があります。Dyhrberg(2016)は、ビットコインが米ドルやイギリスの株式に対し、金と同様のヘッジ機能を有していることを示しています。一方、Corbet, et al. (2018)はビットコインにはヘッジが難しい特有なリスクが含まれている可能性を指摘しており、Shahzad, et al. (2019)もビットコインのセーフヘブン資産としての役割は時によって、また市場によって異なるため、その役割が持続的でないことを主張しています。しかし、KajtaziとMoro(2019)はビットコインを投資先に含めると、リスク調整後のリターンが高くなりポートフォリオのパフォーマンスを大幅に向上させることを示しました。ビットコインがヘッジ機能と分散効果を有していることが示唆されます。

 これらの論文はいずれも、ビットコインと他の金融資産の相互依存を日次の頻度で分析されていますが、高頻度取引の増加とビットコインの日中リターンのボラティリティの高さを踏まえ、Urquhart and Zhang (2019)は高頻度の日中データを検証しています。彼らはビットコインと6つの先進国通貨の1時間リターンの連動性を調査し、ビットコインが先進国通貨に対して、ヘッジ資産、リスク分散資産、セーフヘブン資産のいずれになるのかを分析しています。その結果、ビットコインはスイスフラン、ユーロ、英ポンドにとってヘッジ資産であり、豪ドル、日本円、加ドルにとってリスク分散資産であることを発見しました。また、ビットコインは加ドル、スイスフラン、英ポンドにとってはセーフヘブン資産でもあり、投資家はこれらの通貨の市場が極端に混乱している時期に安全への逃避先としてビットコインを購入していることを示しています。これらの結果は、ビットコインが特定の通貨に対してヘッジ資産、リスク分散資産、セーフヘブン資産として機能していることを示しています。

参考文献
Baur, D., Lucey, B. M., 2010. “Is gold a hedge or a safe haven? An analysis of stocks, bonds and gold” The Financial Review, 45, 217-229.
Corbet, S., Meegan, A., Larkin, C., Lucey, B., Yarovaya, L., 2018. “Exploring the dynamic relationships between cryptocurrencies and other financial assets” Economics Letters, 165, 28–34.
Dyhrberg, A. H., 2016. “Hedging capabilities of Bitcoin. Is it the virtual gold?” Financial Research Letters, 16, 139–144.
Kajtazi, A., Moro, A., 2019. “The role of bitcoin in well diversified portfolios: A comparative global study” International Review of Financial Analysis, 61, 143-157.
Urquhart, A., Zhang, H., 2019. “Is Bitcoin a hedge or safe haven for currencies? An intraday analysis” International Review of Financial Analysis, 63, 49-57.



岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)

岩壷健太郎

神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。

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