通貨覇権をめぐる三つ巴の争い - (2) 中央銀行デジタル通貨の議論の高まり
2020-07-01 13:32[ れんぶらんと ]
1.CBDCは中央銀行が発行するデジタル通貨。
2.CBDCはその利用者の制限によりリテール型とホールセール型に分類される。
3.議論の背景にはインベーションだけではなく、通貨覇権への野心が見え隠れしている。
前回は、暗号資産において実需取引拡大の兆しが見えてきたこと、民間デジタル通貨「リブラ」の登場と挫折、について説明しました。今回は、ここ1年で急速に注目をあびている中央銀行デジタル通貨(以下CBDC:Central Bank Digital Currency)について詳しく見ていきます。
1.CBDCとは
CBDCは日本銀行の定義によると、以下の3つの条件を満たすものです。
(1)デジタル化されていること
(2)円などの法定通貨建てであること
(3)中央銀行の債務として発行されること
一部の説明において”中央銀行が発行する暗号資産(仮想通貨)”とするものもありますが、日本の法律における暗号資産の定義のなかに「法定通貨または法定通貨建ての資産ではない」という項目があるため、CBDCが円やドルなどの法定通貨建てで表示されるのであればそれは暗号資産ではない、ということになります。
CBDCの歴史は意外と浅く、中銀関係者のなかで最初にCBDCについて言及したのは英中銀の副総裁であるBen Broadbent氏が2016年3月にLondon School of Economicsで”Central banks and digital currencies”と題した講演を行ったものと言われています。
2.CBDCの種類
CBDCについては、世界60か国・地域の中央銀行が加盟する国際決済銀行(以下BIS:Bank for International Settlements)のWebサイトに多くの情報があります。BISは2018年3月に「Central bank digital currencies」というレポートを公表しており、その中で”The money flower”と名付けた図とともに、CBDCの種類分けを行っています。確かに花のように見えますね。
これによると、CBDCは以下の3種類に分けられます。
① ホールセール・トークン型
② リテール・口座型
③ リテール・トークン型
①は中銀の決済システムに参加している金融機関に取引を限定したうえで、ブロックチェーンなどの技術を使ったトークンを使って決済を行うものです。
②は中銀が金融機関だけでなく企業や個人に直接中銀口座を提供するもので、その口座を通じて決済を行うものです。
③は中銀が金融機関だけでなく企業や家計が、ブロックチェーンなどの技術を使ったトークンを使って決済を行うものです。
なお、企業や個人が中銀に口座を持つということは、中銀が本人確認はもとより、マネーロンダリングなどについても管理責任が生じるため、「② リテール・口座型」については現実的でないとして割愛し、①と③をそれぞれホールセール型、リテール型として2分類として説明されることもあります。
3.CBDCに関する議論の高まりの背景
CBDCに関する議論はここ1年あまりで急速に高まってきました。この背景は日本銀行の資料(*1)によると、以下の4点があります。
a.金融セクターにおける技術革新への関心の高まり
b.決済サービス等への新規参入
c.一部の国における現金(銀行券および貨幣)利用の減少
d.民間のいわゆるデジタル・トークンへの注目
このなかで、d.についてはフェイスブックが主導するリブラを代表格とするステーブルコインを意味していることは明らかです。これは、欧州中央銀行(ECB)のクーレ理事が「リブラによって中央銀行と立法者に警鐘が鳴らされた」(2019年9月26日)とコメントしていることからも裏付けられています。
これらに加えて、中国の動きが米国を中心とする各国中銀関係者を慌てさせていることも挙げなければなりません。中国はデジタル人民元の実用化に向けての実証実験をすすめており、2022年2月に開催される北京冬季五輪までの実用化を目指していることが報道されています。デジタル人民元が発行されれば、中国は国内だけではなく周辺諸国や巨額の投資を行っている国々に対してもその利用を促していく可能性が高まります。
「人民元国際化」国是に掲げている中国が世界第2位である経済力を背景に、デジタル人民元を使って本気で通貨覇権を取りに来ているのであれば、他国の中銀関係者は心中穏やかではありません。かつてCBDCに対して消極的であった米国ですが、パウエルFRB議長が「真剣に研究していく案件の一つだ」(2020年6月18日 下院委員会)と積極姿勢に転換したことも、基軸通貨国(=通貨覇権国としてもっとも恩恵を受けている国)としての危機感の表れだと考えられます。
次号に続きます。
前号の記事はこちら(通貨覇権をめぐる三つ巴の争い - (1) 暗号資産とリブラ)
(*1) 日本銀行『金融研究 第39巻第2号』(2020年6月)における「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書に掲載されている。
れんぶらんと
17世紀に活躍したオランダの画家レンブラント・ファン・レインの作品をこよなく愛する自称アーチスト。 1980年代後半のバブル期に株式および外貨資産投資を始め、いい思いをしてから投資の世界にどっぷりつかっている。