ビットコイン市場は効率的か~テクニカル分析・ファンダ分析の有効性を探る

2020-07-15 10:31[ 岩壷健太郎

岩壷教授の経済教室 暗号資産 仮想通貨

岩壷教授の経済教室 第6回

ファイナンスの世界で市場が効率的というのは、資産価格がその本源的価値(ファンダメンタル・バリューあるいはイントリンジック・バリュー)に関する情報を十分に反映しており、価格と本源的価値が一致していることをいいます。反対に、価格が本源的価値から乖離しているとき、つまりバブルが発生しているときは市場が非効率的になっているということになります。
暗号資産(仮想通貨)市場が効率的かという問題意識で実証分析した研究は非常にたくさんあります。しかし、暗号資産(仮想通貨)の本源的価値とは何かを議論し始めると禅問答のような終わりの見えない議論になりかねません。そこで、暗号資産(仮想通貨)の本源的価値は何かという問題を棚上げして、もう少し計測可能な領域で市場の効率性が議論されてきました。
ここでよく使われるのが「ファーマの3つ基準」です。ファーマは効率性の基準として、価格に含まれる情報の範囲の違いに応じて、(1)ウィーク型の効率性、(2)セミストロング型の効率性(3)ストロング型の効率性という効率性に関する3つの基準を提示しました。
ウィーク型の効率性とは、過去の価格に関する情報を迅速にかつ完全に織り込んでいることをいいます。過去の価格を利用して現在の価格を予測できれば、過去の価格情報が現在の価格に織り込まれていないことから、価格はウィーク型の意味で非効率的といいます。逆に将来の価格を予測できなければ、テクニカル分析(チャート分析やシステム取引)の有効性は否定されることになります。
 次に、セミストロング型の効率性とは、現在の価格が過去の価格に関する情報とすべての公開情報を迅速にかつ完全に織り込んでいることをいいます。過去の価格やすでに発表されている公開情報を利用して現在の証券価格を予測できるかどうかを検証し、予測できなければセミストロング型の効率性が満たされることになります。暗号資産(仮想通貨)の場合、マクロ経済や暗号資産(仮想通貨)に関するニュースをもとに取引して平均的に収益を上げることができなければ、ファンダメンタル分析の有効性は否定されることになります。
 最後に、ストロング型の効率性とは、現在の価格が過去の価格に関する情報やすべての公開情報に加えて、内部情報など私的情報を迅速にかつ完全に織り込んでいることをいいます。私的情報とは暗号資産(仮想通貨)の発行体でしか知りえないインサイダー情報などです。したがって、ストロング型の効率性が満たされるとき、インサイダーですら収益を上げられないことになります。
 ビットコイン市場がウィーク型の効率性を満たしているのかを最初に研究した論文はUrquhart(2016)です。この研究では2010年から2016年までのデータをもとに、6つの統計的手法を使ってビットコイン市場は非効率的であるが、市場が成熟するに従い効率性が向上していることを示しました。その後、市場の効率性を支持する研究も出てきましたが、数多くの研究を調査したKyriazis(2019)によると、暗号資産(仮想通貨)市場が非効率的であることを示した論文は40論文中37論文もあり、現在でもビットコインを含む多くの暗号資産(仮想通貨)市場は非効率的といわれています。
 セミストロング型の効率性を検証した論文として、Vidal-Tomas and Ibanez (2018)があります。彼らはビットコインの価格はビットコインのニュースに対しては反応するものの、金融政策のニュースに対しては影響を受けていないことを報告しています。
また、Liu and Tsyvinski (2018)はビットコイン・イーサリアム・リップルの価格変動を分析し、モーメンタム効果が見られることを発見しています。モーメンタム効果とは過去のパフォーマンスがその後も持続する現象であり、米国の株式市場でみられるアノマリー(効率的市場仮説に反する規則性)の一つとされています。このことは、暗号資産(仮想通貨)市場では過去の価格変動を利用して収益を上げることができることを示唆しています。

参考文献
Liu,Y., Tsyvinski, A., 2018. “Risks and returns of cryptocurrency” NBER Working Paper 24877.
Kyriazis, N. A., 2019. “A survey on efficiency and profitable trading opportunities in cryptocurrency markets” Journal of Risk and Financial Management, 12, 67, 1-17.
Urquhart, A., 2016. “The inefficiency of Bitcoin” Economics Letters 148, 80-82.
Vidal-Tomas, D., Ibanez, A., 2018. “Semi-strong efficiency of Bitcoin” Financial Research Letters, 27, 259-265.
石田・服部「仮想通貨市場は効率的か」財務省『ファイナンス』2018年10月号.

岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)

岩壷健太郎

神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。

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