リターンの算出をめぐるパラドックス

2020-08-03 10:42[ 岩壷健太郎

岩壷教授の経済教室 暗号資産 仮想通貨

岩壷教授の経済教室 第7回

暗号資産(仮想通貨)の世界では誰もが知っている暗号資産取引所の創業者のツイートが話題を呼んでいましたので、少し深掘りしてみたいと思います。

【問題】いま100円の株があります。この株が150円になる確率と50円になる確率はどちらが高いでしょうか?
(1) 150円
(2) 50円
(3) 同じ確率
(4) 何言っているのか分からない

この問題の正解は(1)150円。100円から150円になるのは50%のリターン、100円から50円になるのは-50%のリターンなので、(3)の同じ確率と考える人が多いのではないでしょうか?
 実は、問題には書いてありませんでしたが、株価が対数正規分布に従うという前提に立つと(1)150円が正解になります。対数正規分布は何かというと、株価Sが対数正規分布に従うならば、その対数をとったlog Sが正規分布に従うという性格を持つ分布です。株価は負の値を取らないのに対して、かなり大きな値をとる可能性は低いもの正の確率であることから、株価が正規分布していると見るより対数正規分布していると見る方が現実的と言われています。このことを数式を使って解説してみましょう。
 株価の変動は一定の傾向をもつ部分とランダムな変動部分から構成されると考えられており、この動きを幾何ブラウン運動と呼ばれる微分方程式で記述すると、
dS=μSdt+σSdz
となります。dSは株価の増分、dzはブラウン運動の増分で正規分布N(0,dt)に従う確率変数、μはドリフトで期待収益率、σはボラティリティを表してます。
 ここで、dS/S=dYとおけば,
dY=μdt+σdz
つまり、確率変数Yが正規分布にしたがうことになります。
dY=dS/S
なので、書き直すと
dY/dS=1/S
です。これを積分すると
Y=logS
となるので株価の対数が正規分布に従う、すなわち株価は対数正規分布に従うということが分かります。また、期待収益率μを0と仮定すると、logSの階差(⊿logS)によって求められる対数リターン(dS/S = dY)は平均0、分散σ^2の正規分布に従うことになります。
 問題に戻って、100円から150円に1.5倍になったのに対し、100円から50円に0.5倍になるのでは上昇と下落が対称ではありません。100円から50円に0.5倍になるのと対応するのは100円から200円に2倍になるときです。したがって、この問題では150円になる確率が50円になる確率よりも高くなるのです。
 以下の図の期待リターンを考えてみましょう。通常は算術平均(相和平均)を使います。
期待リターン= 1/2 ((200-100)/100)+1/2 ((50-100)/100) = 1/2-1/4 = 0.25
一方、対数変化率を使って期待リターンを計算するならば
期待リターン=1/2 log(200/100)+1/2 log(50/100)=log(√2×√(1/2)) = 0
となり、収益と損失がリターンでみて対称になっていることが分かります。このように、通常の変化率は上昇と下落を対称に扱うことができないという問題点があります。
 さて、以下の図の株を買うと長期的には儲かるのでしょうか?対数変化率を使うと期待リターンが0となりますが、通常の変化率だと期待リターンがプラスになっています。どちらを信じればいいのでしょうか?



答えは、長期的には儲かります。これは株価が対数正規分布に従っているということに起因しているのですが、対数正規分布の平均は
E(X)=e^(μ+σ^2/2)
です。logSを株価とした対数軸上で期待リターン(⊿logS)は正規分布N(0,σ^2)に従っていますが、これはSを株価とした線形軸上では対数正規分布に従うので、μを0とすると平均はe^(σ^2/2)になります。σが正である限り、期待リターンはプラスなのです。
 株に投資すれば長期的に儲かるというこの結論には異論もあるでしょう。近年では、株価は対数正規分布に従っているのかという議論も盛んに行われており、株価は対数正規分布ではなくベキ分布に従うという意見を唱える人も多くなりました。

岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)

岩壷健太郎

神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。

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