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ETFよりBakktと言われる理由

2018-10-24 16:20[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産

ニューヨーク証券取引所(NYSE)を傘下に収めるインターコンチネンタル取引所(ICE)は、子会社Bakktを設立し、T+1での現物受渡のBTC先物の提供を始めると8月に発表しました。10月22日にCFTCの承認を条件にこの開始を12月12日とする旨、発表され話題となりました。CNBCのコメンテーター、ブライアン・ケリー氏は今年最大のニュースとし、ヘッジファンド・パンテラのCEOダン・モアヘッド氏はETFよりBakktの方が重要とコメントしています。Bakktの登場により、ETFが無くとも機関投資家の参入が期待されるというのです。

では、何故、Bakktを通じた仮想通貨市場への機関投資家の参入が期待されるのでしょうか?これに対して一般的な説明は、NYSEを運営するICEの子会社であるBakktは信用力が高いからだとか、ICEが提供するクリアリングやカストディーが魅力だからだといった説明をよく耳にします。一方で、Bakktの開始はCFTCの承認を条件とされているように、当局の監督下にあるからという説明も目にします。ただ、交換所の信用力の問題であれば、日本でもSBIや楽天、ヤフーなどが参入もしくは予定していますし、米コインベースの日本進出ではMUFGがサポートしているという話も聞きます。Binanceに至ってはシンガポールのソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)のテマセク傘下のベンチャー・キャピタルから出資を受けるとの報道がありました。このテマセクですが、シンガポールには外貨準備を運用するGICと政府所有の投資会社テマセクの2つのSWFがあって、前者は一時ヤフオクドームを所有して話題となっています。後者はシンガポール航空やDBSなど戦略投資を主としていてCEOはリー首相の夫人です。すなわちテマセクからの出資は、ある意味で同政府からお墨付きを得たことに近い象徴的な意味を持っていると考えます。カストディーに関しても、世界的運用会社フィデリティ―が提供を発表し、またKingdomTrustが提供するカストディーに対する保険を世界的保険組合ロイズが引き受けています。規制された先物市場というのであれば、CBOEやCMEのBTC先物が既に存在します。

何故、Bakktが機関投資家を呼び込むのか、その理由は一見不自然な商品設計にあると考えています。Bakktはあくまで先物市場ですが、翌日にはBTC現物を受け渡してしまいます。実質、T+1受渡の現物市場で、それならば既存の交換所と大差ありません。小職が思うに、このわざわざT+1決済にして先物市場にすることがポイントで、これによりCFTCの監督下に入れる訳です。今月初めCFTCは連邦裁判所が仮想通貨を“商品”としたことを受け、仮想通貨市場での不正を操作、排除する権限を有すると発表しましたが、既存の交換所で行われる取引に関してどこまで取り締まれるのかは不透明です。しかし、CBOEやCMEなどにおける取引で言えばCFTCは非常に厳しく不正取引を取り締まっており、過去1年間の罰金額は1000億円に上っています。過去には金利不正操作でCITIに470億円の罰金を課し、JPモルガンやドイツ銀行、バンク・オブ・アメリカなども多額の和解金を支払い、MUFGも「見せ玉」で6600万円の罰金を課せられています。仮想通貨市場ではあまり知られていないのですが、米当局は不正には非常に厳しいことは金融界の共通認識となっていて、それ故、コンプライアンスが最重要視され、市場の健全性や信頼性が保たれているのです。

一方で、ICEは傘下に先物市場を抱えているのですから、そこにCBOEやCMEで開始されているBTC先物を上場させてしまえば簡単だったはずです。しかし、現物との受渡を伴わないCBOEやCMEの先物は現物との紐づけが曖昧になってしまいます。CMEのBTC先物取引高は急速に増加しているといえども、第3四半期で平均5000枚(175億円)に過ぎません。1日数千億円の現物市場に比べて相場操縦され易いし、現物との乖離が裁定されにくい訳です。このために、翌日現物受渡の先物市場という一見、分かり難い形態を取ったのだと考えています。

それ以外にも翌日の現物渡しとすることで小売店でも使いやすくなるというメリットもあるでしょう。また、カストディーがあることも機関投資家参入の必要条件と言えます。しかし、ここでいう機関投資家の参入を呼び込む要因として最大のものは、CFTCの管理下にあり、価格の透明性が高い現物市場が出来たことだと考えています。ただ、伝統的な機関投資家は保守的であることが多く、この新しい市場に一気に流入するとは考えにくいと思います。むしろ、Bakktがアンカーとなって現物市場にCFTCの監視が入ることによって市場の透明性・公正性が向上し、信頼感が回復することを期待しています。日本の話ですが、証券取引等監視委員会は6月三菱UFJモルガン証券に2億円強の制裁金を課す様、金融庁に勧告しました。いわゆる見せ玉という手法で同社がその取引で得た収益はたった158万円だったそうです。仮想通貨以外の金融市場では、こうした手口あまりに割が合わないので殆ど目にしなくなりました。仮想通貨市場も徐々にそうした方向に進んでいくものと考えています。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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