ICOで投資家の信頼を得る方法

2020-10-26 10:08[ 岩壷健太郎

岩壷教授の経済教室 暗号資産 仮想通貨

岩壷教授の経済教室 第12回


SBIホールディングスの北尾吉孝社長がブロックチェーン技術を基盤とするデジタル証券向けの取引所を大阪・神戸地区に設立することを明らかにしました。そこで重要となるセキュリティトークンオファリング(STO)とは、発行体企業が従来の株式や社債に代わり、ブロックチェーンを使って発行するデジタル証券「セキュリティトークン(ST)」で資金を調達するというものです。かつて、トークンを使った資金調達として一世を風靡したイニシャルコインオファリング(ICO)では資金調達側が資金を得た後、そのまま活動をしない等、結果的に投資家の資金が失われる事態が発生することが多く、ブームが長続きすることはありませんでした。STOが投資家の信頼を勝ち得ることができるかが今後、注目を集めそうです。
そこで、今年の日本ファイナンス学会で発表されたICOに関する最新の研究を紹介することにしましょう。ICOは資金の貸し手と借り手を仲介する金融機関が不在の金融取引であり、取引はすべてコードに従い実現されているところに特徴があります。しかし、資金調達側にプロジェクトを遂行する能力があるのか分からないまま資金を投じなければいけないなど、投資家と資金調達側で情報の非対称性が大きいことから、逆選択が生じやすいと言われてきました。逆選択とは、詐欺的なプロジェクトが頻発することで投資家の投資意欲がそがれてしまい、本来ICO市場が健全であれば可能な有望なベンチャー企業の資金調達も不可能になってしまうことをいいます。
実際、2017年から2018年にかけて急拡大したICOの件数は2019年に激減しました。しかしながら、ICO市場での資金調達が全くなくなってしまったかというと、そうではなく、2019年でも多額の資金調達ができたプロジェクトが存在したことを勘案すると、資金調達側は自らのシステム開発能力を示すシグナルを発信していた可能性があります。取引相手の評価や信頼をどのように保証するか、またコードそのもの、あるいはコードを開発する主体が信頼に足るものであるのかは取引の成功を左右する重要な懸案事項です。
このような問題に対し、髙木・武田(2020)はICOリスティングサイトicobench.comから取得した3,466件のICOデータセットをもとに、プロジェクトから発信されるICOの資金調達側の能力に関する情報(シグナル)が投資家との間の情報の非対称性をどのくらい軽減できるかについて実証的に明らかにしています。各プロジェクトの活動状況についてはGithub APIを利用して各ICOのソースコードレポジトリからデータを取得しています。
ICO市場での資金の流れは主に暗号通貨の取引を通じて行われますが、一方で投資家への情報提供は主にICOリスティングサイトを通じて行われます。例えば、トークンの配布比率や資金調達の上限等の資金調達に関する事項、チームメンバーの紹介、プロジェクトのホームページへのリンク、Githubレポジトリへのリンク等です。そこには資金調達に関する情報はあるものの、プロジェクトのシステム開発能力を判断する情報はありません。しかし、Githubレポジトリへのリンクがあるので、投資家にプロジェクトに関する知見があれば、Githubではプロジェクトの活動が可視化されているのでGithub上の活動履歴から推測できます。
分析の結果、ICOより前にGithubにレポジトリを公開していること、ICOより前にプログラムの修正件数が多いことやプログラムの修正要望件数が多いこと、ICOより前のプロジェクト外部の開発者からのプログラム修正要望件数が多いことといった情報(シグナル)がICOでの資金調達額を高めていることが示されました。資金調達時点で不具合修正要望件数が多いということは、プロジェクトに関する知見のある開発者が投資家として存在、あるいは投資家への助言をする役割を演じていることが考えられます。
暗号資産のプロジェクトにおいて、オープンソースで開発することは開発コミュニティで外部の開発者を巻き込むことができるというメリットがありますが、同時に、それは投資家への情報発信にもなっており、その結果、投資家と資金調達側にある情報の非対称性を軽減することに役立っていることが伺えます。

参考文献
髙木幸雄・武田浩一(2020)「暗号資産プロジェクトの情報の非対称性に関する実証研究―オープンソース開発によるシグナリング―」ファイナンス学会,予稿集.

岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)

岩壷健太郎

神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。

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