ビットコインの先物価格の決まり方

2020-11-09 12:24[ 岩壷健太郎

岩壷教授の経済教室 暗号資産 仮想通貨

岩壷教授の経済教室 第13回


将来のある期日に売買することを現時点で取り決める契約を先物取引といいます。そこで取引される株式や債券、為替など金融商品の先物価格は裁定機会がないことを使って次のように決定されます。たとえば、現時点で現物国債を購入すると同時に、満期に先物国債を売却するという契約を結ぶとしましょう。先物は現時点で満期の価格を取り決める約束ですので、満期までの間の価格変動リスクはありません。リスクなしで裁定機会があるならば誰もがそこから収益を上げられるので、裁定取引ができなくなるまで価格が調整するはずだという考え方で先物価格が決定されます。
現物国債を購入するのには資金が必要ですので、返済時には資金調達コスト(レポレート)を支出しなければいけないですが、代わりに購入した現物国債からは利子収入があります。コストから収入を引いたものが先物価格と現物価格の差になります。つまり、先物価格は下記のように定義されます。
先物価格=現物価格+(レポレート-利子収入)
 一方、暗号資産(仮想通貨)や金などのコモディティの先物価格はどのように決まるでしょうか。これも先ほどと同じように、現在、現物を購入すると同時に満期に先物を売却するという契約を結ぶことによって、裁定取引を想定し、利益がでない条件式を導きます。先物取引の満期まで現物を貸し出すことによって利子収入を得ることができるならば、上記の先物価格と同じ式になりますが、暗号資産の貸し借りがないならば、先物価格と現物価格の違いは現物の調達コスト(レポレート)だけになります(現物を保有することに伴う保管費用や保険料、セキュリティ費用は割愛しています)。
 先物価格=現物価格+レポレート
 ちなみに、「金には金利がない」とよく言われますが、金にも貸し借りを行う市場があり、金利に相当するものを「リースレート」といいます。金のリースレートはずいぶん安く、1年物のリースレートは米ドル金利が5%の時代でも1%に満たない水準で、3か月物以下の短期物では過去20年にわたってゼロ金利に近いので、金に金利がないというのが一般の認識になっているのかもしれません。一方、ビットコインも金利がないといわれていた資産でしたが、最近ではレンディングサービスを提供する暗号資産交換所が増えてきており、レンディングが長期保有者の投資戦略の一つになってきています。
 次に、上記の先物価格の理論式を使って、実際にビットコイン先物市場で裁定取引が可能かどうかを見てみましょう。Hattori and Ishida (2020)はシカゴオプション取引所(CBOE)に上場されているビットコインの先物価格と、CBOEの参照価格となっているGemini Trust Company LLC (通称、Gemini)の現物価格を元に、先物と現物の価格差がビットアスクスプレッドよりも大きくなっているかどうかを検証しています。分析の結果、通常時には裁定機会はないが、バブルの崩壊時や価格の急変動時などでは裁定機会が生じ、裁定取引によって利益がでることが示されています。
参考文献
Hattori, T., Ishida, R., (2020), “The relationship between arbitrage in futures and spot markets and Bitcoin price movements: Evidence from the Bitcoin markets”, Journal of Futures Markets, forthcoming.

岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)

岩壷健太郎

神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。

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