暗号資産の投資家の特徴
2020-11-13 10:58[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第14回
ビットコイン価格が160万円の大台を突破し、2017年のバブル時に暗号資産投資をしていなかった人でも新たに投資し始めた人もいるのではないでしょうか。今回は、どのような人が暗号資産投資をしているのかについて、大規模アンケート調査に基づいて分析された研究を紹介します。
日本銀行情報サービス局内にある金融広報中央委員会は、わが国における18歳以上の個人の金融リテラシーの現状を把握することを目的として3年に一度、全国2万5000人を対象にアンケート調査を行っています。わが国の人口構成とほぼ同一の割合で調査対象(サンプル)が収集されています。最新のアンケート結果は2019年に行われたもので、そこには暗号資産の入手状況、購入者の特徴、暗号資産についての知識、運用実績などの質問が含まれており、興味深い結果が得られています。
まず、暗号資産を入手した人は全体の7.8%。そのうち、30代以下が46.8%を占めています。19年から遡って過去3年の間に、暗号資産のマイニング、売買、保有に伴うすべての費用と収入を通算すると、利益が出たと答えた人が18.3%、利益と損失がほぼ同じくらいだったという人が50.5%、損失が出たと答えた人が31.2%いました。
暗号資産に関する理解と利益の関係については、暗号資産を人に教えられるくらい詳しく理解していたと回答した人の38.9%は利益がでており、38.8%は利益と損失がほぼ同等、21.4%が損失を出した人であったのに対し、暗号資産をある程度理解していた/あまり理解していなかった/理解していなかったと回答した人の14.1%が利益を出しており、52.8%が利益と損失がほぼ同等、33.1%が損失を出していました。すなわち、暗号資産に関する知識がないまま手を出して損失を被っている人が多かったのです。
さらに、Fujiki (2020)では、回帰分析を使って、投資家の他の特徴を浮き彫りにしています。暗号資産の保有者は非保有者に比べて、自分の金融リテラシーについて自信過剰であり、「類似の商品が複数あるとき、自分の好みよりも勧められるものを買う」という意味で評判を気にしやすいという傾向があります。また、「何かを買う前に、それを買う余裕があるかどうかを注意深く考えない」という意味で自己抑制能力が低く、投資リターンが正であるリスク商品に対して躊躇なく投資するという意味でリスク耐性が強いという傾向がみられました。
暗号資産の投資家は、「金融リテラシー」と「学校での金融教育の経験」について非所有者に比べて高い一方で、金融トラブルを経験している頻度が多いという点も特徴的です。
2017年の暗号資産の価格高騰期に取引をしていた投資家と近年の投資家には、質的な違いがあるでしょうから、以上の分析結果を鵜呑みにすることはできませんが、リテラシーや行動バイアスを改善することで損失を減らすことができるかもしれません。暗号資産投資家の実態を知ることは、投資戦略や取引方法以外のところにも投資のヒントが隠されていることを教えてくれます。
参考文献
金融広報中央委員会『金融リテラシー調査』2019年.
Fujiki, Hiroshi (2020), “Who adopts crypto assets in Japan? Evidence from the 2019 financial literacy survey”, Journal of the Japanese and International Economies, Vol. 58, 101107.
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。