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ステーブルコインは前払式支払手段で決まり?

2018-10-31 10:06[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 テザー ステーブルコイン ジェミニドル

一昨日、Bitcoin.comの取材に対し、金融庁が「原則として、法定通貨に”ペッグ”されたステーブルコインは改正資金決済法の仮想通貨に当たらない」とコメントしたと報道され話題になった。更に、ステーブルコインの性質からしてステーブルコインの発行体がどのような登録を取得する必要があるかコメントするのは適切でないとしつつ、一般的に仮想通貨交換業者がステーブルコインを取り扱うには前払式支払手段発行者か資金移動業者として登録する必要があるとされました。ステーブルコインの代表格と言えばテザー社が発行するUSDTが有名でしたが、その信用が低下したことを受けて、ウィンクルボス兄弟が発行するGemini Dollar(GUSD)やパクソス(PAX)、ゴールドマンサックスが出資するサークル社によるUSDコイン(USDC)など様々なステーブルコインがローンチされ、ステーブルコイン間の競争が激化しています。日本でもGMOが円建てステーブルコインの発行計画を発表、またMUFGが計画しているMUFGコインをCOINと命名して話題になりました。GUSDやPAXは規制が厳しいことで有名なNY州で認可を受けた一方で、日本では仮想通貨とは認めない、、、これはどういうことでしょうか。

この議論を理解するためには、日本が世界に先駆けて仮想通貨を定義した改正資金決済法に戻る必要があります。元々この法律はSUICAやICOCA、KITACAやSUGOCAなどのプリペイドカードを指す前払式支払手段とモバイル決済などで百万円以下の個人間の資金移動業者などを定める法律だったものを改正し仮想通貨を加えたものです。そこでの仮想通貨の定義を確認すると

① 物品購入などの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ(支払い手段)
② 不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(財産的価値)
③ 電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り(電子的記録)
④ 本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く(非法定通貨)

となっています* 。一方で、前述の前払式支払手段の定義は
① 電子的に金額が記録される(金額が記録されている≒電子的記録)
② 金額に応ずる対価を得て発行され(対価性≒法定通貨建て)
③ 発行者など指定する者から物品購入などの代価の弁済のために使用することができる(支払い手段)


となります** 。支払い手段としての対象が不特定なのか加盟店など指定されたお店に限定されるのかという違いはありますが、両者はかなり似ています。大きな違いは(1)価格が一定か変動するか(2)所有権が移転するか、しないかの2点と言われています。この視点でステーブルコインを見てみると、かなり微妙という気もしてきます。

というのは、例えばUSDTを例にとると、テザー社はUSDにペッグしていると主張していますが、一時90セントを割ったとされる最近の値動きを見ていると、とても1USDで固定されているとは言い難いと考えます。そもそも、1USD=1USDTが維持される根拠は、その価格でテザー社が交換を保証しているからですが、ホワイトペーパーによれば交換の詳細は同社の意向で書き換え可能である約款にて定めるとされ、今年1月改定の約款によればテザー社と直接取引できる顧客(verified customer)のみに認められています。従って、テザー社と直接取引がない殆どの人たちが同社の支払い能力に不安を持つと、1USD以下でもUSDTを売却する人が増える訳です。一方で、前述のGUSDはNY州で免許を受けたGemini TrustがGemini Platform上で1USD=1GUSDの交換を保証しており、様々な施策が功を奏して価格も比較的安定しているようです。ただ、この場合も究極的にはGemini Trustに口座を開かないと1USD=1GUSDでの交換を受けられないですし、またNY州のお墨付きがあるとは言え、民間が行っているビジネスにリスクフリーと言うのは言い過ぎで、若干の変動の余地は残っていると思います。

当初のBitcoin.comに戻ると、記事が英語であるので実際のインタビューの内容が分からないのですが、ステーブルコインは仮想通貨にあたりますかという質問に対し、法定通貨に”ペッグ”されているのであれば、(価格が法定通貨建てで一定なのだから)仮想通貨に当たらないという趣旨で答えたのかもしれません。その代わり、前払式支払手段にあたる可能性が高く、またそれを取引することは法定通貨建ての電子マネーの資金移動にあたるので資金移動業者の登録も必要ですよ、それも百万円までですよと法律の定義に従って回答したに過ぎない可能性があると考えています。お店でも個人間送金でも使用可能な電子マネーを運営しているLinePayなどは前払式支払手段の(第三者型)発行者と資金移動業者の両方の登録を取得しています。

上記の米国の例は、米ドル建てのステーブルコインが日本の交換所で取引される可能性は低いですから、あくまで仮定の議論にしか過ぎません。一方で、円建てのステーブルコインとなると話は現実味を帯びていきます。ただ仮想通貨として取引したいならば円とのペッグを緩める必要がありますし、円と完全にペッグしてしまえば、ただの電子マネーの一種に過ぎず、競争も激しいですし、資金移動の上限は百万円となります。そもそも、オフショアで需要が高いUSD建てと異なり、日本円に対しステーブルコインを発行する必要性に関してもやや疑問です。一方で、こうした日本の厳しい環境下で各発行体がどんな知恵をひねり出してくるのか楽しみでもあります。

*資金決済の関する法律 第一条5項一号 二号は省略 条文は一部省略
**同 第三条一号 二号は省略 条文は大幅に省略しエッセンスだけ抜き出した

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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