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ビットコインキャッシュ分裂騒動の着地点

2018-11-06 14:34[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン ビットコインキャッシュ

BCH急騰の背景

週末にBCH価格が3割以上急騰しました。背景にはBCHの分裂騒動があるとされ、交換所最大手のBinance、第2位のOKex、米最大手のCoinbaseなどが仮にBCHが分裂してもサポートを続ける、すなわちBCHから分裂して誕生した新たな仮想通貨も保有者に配ると表明したことがきっかけとされています。また、中間派とされるクリプト・ゴッドことロジャー・バー氏が率いるBitcoin.comが主流派Bitcoin ABC支持を表明したことによる安心感もあったと思います。それにしても、この問題をずっと追いかけている小職でも、複雑で分かり難いこの様な分裂騒動の繰り返しは、長期的に見れば投資家離れを引き起こしかねない動きですが、以下では騒動の現状と今後の動きを分析してみたいと思います。なお、主流派(ABC)、中間派(Unlimited)、反主流派(SV)の対立の経緯に関しては、入門アルトコイン(その2)ビットコインキャッシュをご参照ください。

SVが優勢になった場合

まず、何故ABCが優勢となると市場に安心感が出るのか考えてみましょう。ABCの支持者はマイニング機器製造販売大手のBitmain社CEOウー・ジハンと彼らが運営するマイナー・プールがあるとされています。BCHは複数の開発者グループが競争して改善提案をして、それを採用するマイナーのハッシュパワーで優劣を決めるというシステムが取られているのですが、仮にSVが優勢になると(Coingeekは既に行っていると主張していますが)ジハンらがBTCから大量のハッシュパワーをBCHに移動させることで他市場にも混乱の影響が波及したり、更にBCHコミュニティーから抜け出して新たな通貨を作ってしまう恐れがあるからです。実際、BTCからBCHの分離を主導したのがジハンらと言われています。

ABCが優勢になった場合

では、ABCが順当に優勢となった場合はどうでしょうか。実はSVを主導するnChainのジミー・グエンらは一貫して分裂は望まないとしていて、その証拠に分裂する際に必要とされるリプレイ・プロテクションを実装しない方針の様です。ブロックチェーンAがBチェーン、Cチェーンの2つに分岐すると、凸凹さんが元々持っていた仮想通貨Aの記録はBチェーン、Cチェーンの両方に受け継がれます。すると凸凹さんがBチェーン上の仮想通貨Bを送金しようとしたデータを使って、誰かがCチェーンにある凸凹さんの仮想通貨Cを送金できてしまいます。そうした不正が次々と行われたらCチェーンは成り立たなくなるので、通常は何らかの印をつけてBチェーン上の送金データではCチェーン上の通貨を送金できない様にするのです。このプロテクションを用意しないSV側の真意は分かりませんが、彼らはBTCの創始者の名前であるSatoshi Versionを名乗り、自らこそ正当なBTCの継承者とする人たちなので、神風が吹いて多数派を取れ、BCHを継承できると信じているのかもしれません。

ハッシュ・ウォーは起こらない?

しかしよく考えてみるとそういう結論になる可能性は薄い気もします。まず、今回のABCとSVのアップグレードは互換性が無いためにいずれにせよBCHのブロックチェーンは分岐します。仮にSVが多数派になったとしても、ABC側も相応のマイナーを抱えており、前回のBCH誕生の時と同じ様に新しいBCH ABCといった新しい通貨を作り上げる可能性が高いと思われます。一方で、ABCが多数派になってSVが分岐した場合はどうでしょう。リプレイ・プロテクションが無いSVが存続するのは容易ではなく、また現時点でBCH全体の約24%のハッシュパワーを握るキャビン・アイル氏が率いるCoingeekがSV内でのハッシュパワーの過半数を超える可能性が高い状況で、仮想通貨としての信認を得られるか疑問が残ります(これはSVが過半数を取った場合にも言えそうです)。従って、ABCがリプレイ・プロテクションを実装して分裂を辞さない姿勢を見せ、SVが一つのBCHに拘っている現時点の状況ではABCとSVが共存する状況は想像しにくいと考えています。結局、ハッシュパワーの優劣で提案を選ぶというBCHの理想はあくまで同じブロックチェーンに残ることを前提にしており、今回の様に互換性のない2つの陣営の片方が分裂を辞さない姿勢を見せると、多数派工作はどちらがBCHの名前を引き継ぐか程度の意味しか持たないと考えます。

本当の敵は?

騒動の行方はまだ予断を許しませんし、今後驚くような新たな発表が出てくるかもしれませんが、現時点で大胆に予測すると、結局ABCの提案がBCHとして残るのではないかと考えています。SVは次回以降の主導権を睨み、今回は揺さぶりをかけてみた、先の総裁選の石破陣営の様なイメージかと考えています。相場に対するインプリケーションとしては、今買い上げている投資家の新しい通貨が付与されるという期待はかなわないと思いますが、騒動の収束という意味でポジティブで、しかしこのような分裂騒ぎが繰り返される様ではBCHが理想とする実用面での普及拡大は到底望めず、中長期的にはネガティブと考えます。今の仮想通貨、特にアルトコイン市場では通貨間の生存競争が行われていると考えています。そうした中、実用面でXRPに先を越され、デジタルゴールドの地位ではBTCと水をあけられたBCHは存在意義が問われかねない状況と認識しています。内輪もめに拘泥しているが各陣営に本当の敵(ライバル)は外にいることを伝えてあげたいと切に願います。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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