Twitter情報でビットコイン価格を予測できるか?
2021-03-15 11:02[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第21回
テキスト情報を用いて株価を予測する手法は、近年、ビットコイン価格の予測にも適用されるようになってきている。テキストデータから感情分析によって算出された感情スコアは金融商品価格の変動を分析する際に有効であるという研究も多くみられるようになった。感情分析とは、人工知能を用いてテキストを自然言語処理し、感情を定量的に評価する手法であり、感情スコアとはその出力である。今回紹介する松田・原(2021)は、ツイートの感情スコアにいいね数・被リツイート数・フォロワー数で重み付けを行い、さらにGoogle トレンドのデータを説明変数に加えることでビットコイン価格の予測精度が向上するという結果を示している。使用したデータはCoinMarketCapのビットコイン価格の日次データ、Bloombergのビットコインに関する日本語のニュース記事、Twitter 社が提供しているAPI を用いて取得した「ビットコイン」という語を含むツイート、それを投稿したアカウントに関する情報、Google 社が提供しているGoogle トレンドの「ビットコイン」の検索数に関するデータである。いずれのデータも、データ期間は2020 年6 月26 日から2020 年10 月17 日までの114 日間である。
説明変数として扱うニュースとツイートのデータはGoogle Natural Language API を使って感情分析を行い、その出力である感情スコアを算出する。Google Natural Language API は機械学習で構築された強力な事前トレーニング済みモデルで、これを用いるとテキストの構造・感情を明らかにすることが可能である。感情スコアは, −1 から1 までの値で算出され、−1 に近いほどネガティブで、1 に近いほどポジティブな感情を表す。Google トレンドのデータは, 「ビットコイン」の検索数が0 から100 に正規化された値をそのまま説明変数として用いている。
ツイートの感情スコアについては、インフルエンサーの影響を考慮するために、いいね数・RT 数・フォロワー数で重み付けを行っている。いいね数・RT 数・フォロワー数はそれぞれ0 以上1 以下の値をとるように正規化されており、重み付けの方法には以下を考えている。
ツイートの重み付き感情スコア= ツイートの感情スコア× (RT 数+ いいね数)× (フォロワー数+ 1)
ニュース記事についても, その日のニュース数も投資家心理に影響すると考え, 感情スコアをニュース数で重み付けしたものを説明変数に用いている。
ニュースの重み付き感情スコア= ニュースの感情スコア× ニュース数
2020 年6 月26 日から9 月25 日までの92 日間のデータを訓練データ、9 月26 日から10 月17 日までの22 日間のデータをテストデータとし、テストデータに対する騰落の正解率を騰落予測精度とする。また、価格変動率に関わらず上昇・下降のみの正解率を単純騰落予測精度と呼んでいる。
ビットコインの価格データのみを説明変数として用いたものは、22 日分のテストデータに対する騰落予測精度は23 %、単純騰落予測精度は50 %という結果であったのに対し、価格データ、ニュース・ツイートの感情スコアに加えてGoogle トレンドのデータを説明変数にすると、騰落予測精度が32 %、単純騰落予測精度は64 %となった。さらに、 価格データ、ニュースの重み付き感情スコア、ツイートの重み付き感情スコア、Googleのトレンドデータを説明変数にすると、騰落予測精度が50 %、単純騰落予測精度は82 %にも高まった。ツイートの感情スコアにいいねの数、RT 数、フォロワー数で重み付けすることで、騰落予測精度が18 ポイント、単純騰落予測は18ポイントも向上している。この結果は、ツイートの感情スコアへの重み付けとGoogle トレンドのデータがビットコインの騰落予測において有用であることを示唆してる。
参考文献
松田周也・原尚幸 (2021) 「キーワード検索数とツイートの情報を用いたビットコイン価格の騰落予測」人工知能学会研究会資料,SIG-FIN-026.
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。