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リップル・R3提携構想のインパクト

2018-11-07 22:17[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 リップル

10月30日SBI北尾社長は決算説明会で「R3にXRPを使わせる」として話題を集めました。またSBIリップルアジアと同様にSBI-R3の設立構想も明らかにしました。両者の主要株主ならではの発想で、両者の訴訟の和解に一役買ったという話も、ここまで見通してのことだったとは気付きませんでした。それから1週間経った今でこそXRPは急騰を見せていますが、発表された時点では市場も十分には反応できていませんでした。以下では、今でも必ずしも十分に市場に浸透されているとは言えない、この影響の大きさについてお話ししたいと思います。

トレードファイナンスへのXRP使用

まぜR3にXRP使用させることが大きいかと言えば、R3が得意とする貿易のLC決済、最近ではトレードファイナンスと呼ぶことが多くなりましたが、の分野の決済に仮想通貨決済が使用される可能性が出て来たからです。2017年の世界の貿易量約17兆ドル(JETRO)に対し、先日のロイター社の報道によればトレードファイナンスは9兆ドルを占めている様です。では残りは送金(貿易実務ではクリーンベースと呼ばれます)決済かと言うとそう単純ではありません。一般に、送金決済は親子(会社)など相手が信頼できる場合に採用される傾向があり、そうした決済は債権債務をネッティングされるため貿易量ほど決済は発生しません。ただ、クリーンの反対はドキュメントベースと言って、LCだけでなく様々な取引形態があるので一概に9兆ドル全てがいわゆるLC買取方式の決済とは言えませんし、記事では9兆ドルの定義も根拠も示されていませんが、相当なポテンシャルのある市場であることは想像していただけると思います。しかし、ポイントはその規模だけではありません。

送金決済とLC決済の違い

なぜLC付決済が、ポテンシャルが大きいかということを理解するにはクリーンベースとの仕組みの違いを理解する必要があります。以下で説明するように送金に比べLC決済がいかに手間がかかるかは貿易実務を経験された方なら当たり前のことですが、意外と仮想通貨市場では認識されていないのではないでしょうか。以前、現在主流のSWIFTベースの送金では、誰から誰にいくら送金しましたよと伝える送金指示と、コルレス口座を開いている銀行にどこそこ銀行にいくら振り替えてくださいと伝える支払い指図、この二つの指示を伝える電子メールのような伝達機能と、コルレス間で資金を振り返る決済機能があるとお伝えしました。LC付決済にはこれに銀行の信用創造機能が加わります。具体的には輸入者は銀行(仮にA銀行とします)に行って信用状(LC)を発行してもらいます。これはLCに記載された条件を満たせばA銀行が輸入代金を支払いますという保証書です。もちろん最終的に輸入者がA銀行に代金を支払うのですが、仮に輸入者が倒産しても輸入代金をA銀行が払ってくれます。そうでなければ外国にいる見ず知らずの輸入者に製品を輸出するのはためらわれます。A銀行からLCを受け取ったB銀行は輸出者にLCを渡します。輸出者はLCに記載された書類をB銀行(でなくても構いません)に持ち込めばその場で輸出代金を支払ってもらえます。輸出代金を立て替え払いしたB銀行はA銀行に書類を送り代金を回収、A銀行は輸入者に請求する仕組みです。*この保証と立替払いの部分が銀行の信用創造機能になります。

船荷証券(Bill of Lading)

話はここでは終わりません。輸出者が代金を受け取る際に必要な書類に船荷証券(B/L)というものがあります。これは輸出者が荷物を船会社に引き渡すと貰える書類で荷物と同等の価値を持つ有価証券とされています。輸出者の資金を前払したB銀行はLCと一緒にこの書類をA銀行に渡し、輸入者がA銀行にきちんと代金を支払えば輸入者にB/Lを渡します。このB/Lが無いと船会社は船荷を引き渡しませんから、こうして代金を払って初めて輸入者は荷物を受け取れる訳です。このLCとB/Lとの組み合わせで輸出者は荷物と引き換えに資金を受け取り、輸入者は荷物と資金と引き換えに荷物を受け取れる訳で、離れた地域にいる信用できない者同士安全に決済するうまい仕組みです。因みにこの中でSWIFTはA銀行からB銀行へのLCの伝達とA銀行からB銀行への代金の支払い指図に利用されています。

書類だらけのLC決済

もうこの時点でブロックチェーンと親和性が高そうですが、輸出者がLCを銀行に持ち込んで代金を受けとるのに必要な主な書類は、自分で振り出す輸出手形、船荷証券、通関に必要なInvoiceとPacking Listなどです。これ以外に、保険証や原産地証明。アラブに行くならイスラエルに寄港しない証明、売買契約書など様々です。小職も20年以上前に銀行側でLC買取を担当したことがありますが、1件のLCを買い取るのに何十枚もの書類の束になる事もありました。もちろん書類はほぼ全て英語です。これが電子化できたらどれだけラクになるだろうと思いますが、どこかの銀行が勝手に電子化しても、その電子データが輸入銀行やその国の税関などが受け入れてくれる訳ではありません。そこで、改ざん出来ないブロックチェーンでこれらの書類を一気に電子化することに成功したら、おそらく世界中のLC決済が一気にシフトすることでしょう。

ブロックチェーンでしか出来ないこと

どういう事かと言えば、送金におけるSWIFTの代替、特に伝達機能だけであれば、確かに支払い指図には厳格さが必要ではありますが、別にブロックチェーンでなくても構わない訳です。単に長い間の市場を独占していた結果、技術革新を怠っていたSWIFTの隙をついているだけという見方もできます。ただ、これがxRapidのようにコルレス決済まで代替する様になれば大分ブロックチェーンならではという雰囲気も出て来ますが、今のままでもそう問題がある訳ではありません。これに対し、この(重要)書類だらけのLC決済を電子化することこそ、ブロックチェーンでしか出来ない、そして世界中が求めている事だと思います。それ故、成功すれば一気に普及すると考える訳です。そして、LCの発行から買取まで一気通貫でブロックチェーン上で行うのに、銀行間決済だけSWIFTを飛ばしてコルレス決済を行うのでは時間も手間もかかるだけで、XRPの利用も普及しそうです。大げさに言えば年間9兆ドルは1日200-300億ドルに相当しますから現在の流通量400億XRPでは足りなくなる可能性すらあります。

2頭立てのレース

更に、競争の激しい送金と異なり、この分野で先行しているのはR3とリナックスが開発しハイパーレッジャーの2者だけなのです。この状況を指してR3のCEOは2頭立てのレースと称しました。10月にHSBCがアジアで実証実験したとされるeTradeや7月に欧州で実証実験を行ったwe.tradeもハイパーレッジャー基盤のIBMブロックチェーンが使われている様ですが、R3は既に5月にHSBCと実証実験を成功させています。そして今のところハイパーレッジャーにはXRPのような仮想通貨を用いたソリューションを提供する枠組みが無いのです。この提携構想はあくまで北尾氏から出たもので、形になるには相当時間がかかりそうですが、期待先行で高値で買われたポジションが上値を重くしていると指摘されるXRPですが、市場はこのポテンシャルを十分に認識していないと思われ、上昇余地はまだあると考えます。もちろん、貿易金融を一気通貫に電子化するには銀行だけでなく船会社や各国税関、場合によっては保険会社など様々な関係者の協力も必要で、時間もかかるでしょうし、過大な期待は禁物かもしれませんが、SBI-R3の設立といったニュースが出たらXRP買いかもしれません。

*LC決済には、輸出者もすぐに取立に出すなど代金を受け取らないケースやユーザンスなど輸入者もすぐに代金を支払わないケース、B/Lがなくとも荷物をリリースするケースなど様々なパターンがありますが、ここでは代表的な例をご紹介しています。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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