ノン・ファンジブル・トークン(NFT)革命
2021-05-18 14:26[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第24回
クリプトアーティスト「Beeple」のデジタルアート「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」が、2021年3月11日に有名オークションハウスのクリスティーズで約6930万ドル(約75億8千万円)で落札された。ノン・ファンジブル・トークン(NFT,代替不可能なトークン)を使ったデジタルアートの販売額としては過去最高である。その他にも米Twitterと米SquareのCEOを務めるジャック・ドーシー氏がオークションに出品した同氏の初ツイートのNFTが3月22日に、291万5835ドル(約3億2千万円)で落札されたことが大きな話題となった。
今回は、注目を集めるNFTとは何か、どのような仕組みで取引がされているのか、NFTによって何が変わるのかについて解説したい。
一般的にデジタルデータはコピーや改ざんが容易なものであり、そのためデジタルアートは海賊版や違法コピー作品が出回りやすく、現実の資産や販売物と比較して価値をもたせることが困難だった。ところが、デジタルデータをブロックチェーン上で取引すれば、参加者間の相互検証によってコピーや改ざんが困難であり、デジタル空間で価値のやり取りが可能になる。これによって、NFTによって取引されたデジタルアートは、「偽造不可な鑑定書、かつ所有証明書付きのデジタルデータ」となった。
従来、デジタルデータのほとんどは発行した企業のサーバー内で所有権が管理されており、「自分がデータの所有者であること」の裏付けをサービス提供側に依存していた。これに対し、NFTはオーナーシップが特定のサービスベンダーではなくブロックチェーン上に明記されていることから、所有者はビットコインのような暗号資産と同様に、自身のNFTを自由に移転することが可能となる。このようにプラットフォーマーに決済手数料を払うことなく、デジタルアイテムを取引できるのがNFT化の利点の一つである。
しかし、「鑑定書が偽造できなくともデータ部分はコピー可能」という点は注意すべきであろう。デジタルアートがNFT化され10人に販売されたとき、所有権は10人にあるものの、他の9人によってそのコピーが流出することを防ぐことはできない。また、NFTに関わる法整備が整っていないことも問題である。NFTは資金決済法上の暗号資産には該当しないものと解釈されているものの、資産としての性格をもつ以上、コンプライアンス基準は必要であろう。
とはいえ、NFT化の流れはデジタルアートのみならず、様々な分野に広がっていくことが予想される。資産の追跡や真贋証明におけるNFTの役割には大きな期待が寄せられている。
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。