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XRPが変えるエマージング通貨の世界

2018-11-13 17:07[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 リップル ビットコイン

11月9日三菱UFJ銀行はブラデスコ銀行とリップル社技術を活用した日本・ブラジル間における新たな国際送金の開発に関する協力を目的とした覚書を締結した。詳しい内容は明らかにされておらず、単にリップルネットを送金指図に利用するxCurrentなのか、XRPを送金の媒介に使用するxRapidなのか不明だが、銀行でのxRapid採用は発表されておらずCointelegraphによるリップル社チーフ・マーケティング・ストラテジストのコーリー・ジョンソン氏のインタビューでも当面はxCurrentに注力していくとしており、xCurrentの可能性が高いと思われる。しかし、シンガポールのイベントで配られたリップル社のパンフレットでxCurrent4.0によりユーザーはシームレスにxRapidにアクセス可能となるとあり、将来的にはxRapidに移行していく可能性もあろう。

なぜブラジルか

今回、なるほどと思わされたのはブラジルを選んだことだ。1908年以降の約100年間にブラジルに移住した日本人は13万人に上り、その子孫である日系人は約160万人とされている(Wikipedia)。そうした経緯もあって90年に日系3世までとその家族は職種に関係なく日本で就労できるようになったこともあり、日本に住むブラジル人も一時は30万人を超えていた。現在は20万人を切る水準とされるが、相応の小口送金需要は見込まれる。更に、ブラジルという地には三菱の創始者岩崎家ゆかりの農園もありMUFGバンクはかつてブラジル国内に8拠点を保有していて、現在のリオとサンパウロの複数拠点体制も同グループの海外拠点の中では珍しいなど、重要な地域となっている。しかし、一番重要な点は、従来は不可能だった、例えば1万レアルなどブラジルへの確定した金額を送ることが可能にするポテンシャルを秘めていることだ。

1万レアル送金することは不可能に近い

こう書くと意外に思われることかもしれないが、日本からブラジルに1万レアルぴったり送金することは困難を極める。ブラジルレアルは国外で取引できないからだ。従って、送金者は大体1万レアルくらいの円かドルをブラジルに送り現地でレアルに両替する。余ったら返してもらうという信じられないほど非効率な取引を行っているケースもある。こうした国外で取引できない通貨は、例えば韓国ウォン、台湾ドル、マレーシアリンギット、インドネシアルピア*などアジアを中心に多数存在する。いずれも日本との貿易額でベスト10入り常連の国ばかり。因みに貿易額ベスト10に入る欧州の国はドイツくらいだ。こうした国との貿易は仕方がないので円建てやドル建てにして現地に為替リスクを負わせるケースが多いのだが、出資金など現地通貨建てで決まっている金額を送るのには相当苦労する。ただ、韓国や台湾などは朝一番に現地の為替レートを確認して、それに相当する円貨を計算して大急ぎで銀行に持ち込むなど裏技も存在する。またNDF**といって予め約定した先物レートとFixingといって決済2営業日前の現地の指標レートとの差額を決済するヘッジ手法と、現地の銀行とそのFixingレートでの両替を行うことにより受取人が確定金額を受け取る仕組みを利用する場合もある。前者の手法は、日本とブラジルは時差が半日あることから採用できず、レアル相場は変動が激しいため、前日のレートを目安にして1万レアルにあたる円貨を計算して送金し、現地で両替しても1万レアルとは程遠い金額になってしまう。ドル円に対してレアル円のヒストリカルボラティリティーは2~3倍程度になるからだ***。後者のNDFによるヘッジを行うにしても、原則としてレアル市場が開く日本時間の午後10時頃まで待つ必要があり、更にPTAXと呼ばれるレアルのNDFのFixingでの現地での両替を受けてくれる銀行を探すのにも苦労する。送金銀行と受取銀行が同じ銀行であり、しかも余程の大口顧客でないと銀行員は午後10時まで残っていてはくれない。

XRP利用はコロンブスの卵

しかし、XRPを媒介して送金すれば、送金側で円対XRP、受取側でXRP対レアルの両替をリクイディティープロバイダーが提供することにより、1万レアルが円貨でいくらか瞬時に計算できる。ただ、時差の問題だけは残る。ブラジル国内だけで取引されるレアルの外為市場ではブラジル時間しか値段が存在せず、日本とブラジルと同時に値決めをしようと思えば、ブラジル時間まで待つ必要があり、そうすると日本の銀行はもう閉まっているという問題があります。ところが仮想通貨交換所であれば24時間値段が立っているので、日本の銀行営業時間内に値決めをすることが可能となる。実際にディールしたことがある人にしか分からないかもしれないが、働き方改革が叫ばれる中、これは意外と画期的だ(ブラジルの交換所が24時間対応しているかは不明だが)。このXRPを媒介することによるレアル建て送金はコロンブスの卵で、XRPの先物市場が出来ればBRLJPYの先物予約が可能となるし、今でもドル円とドルレアルのそれぞれの先物市場と組み合わせて先物価格を決めることも可能だ。この場合、送金側はドル円でのドル買い円売り、受取側はドルレアルでのレアル買いドル売りで、対XRPではドル建ての売りと買いとなる。ドル円とドルレアルは現物と先物価格が異なるのでそれぞれの先物市場を利用するのに対し、対XRPでは売り買いを同時に行うことを前提にすれば先物価格にこだわる必要はなくなる。更にこの手法は他のアジア通貨にも応用できる。特に、仮想通貨取引自体が認められる必要があるが、マレーシアリンギット****やベトナムドンなどNDFが機能していない国への送金では唯一の解決策となり得る。

大手連合ならではのメリット

ただ、こうした国外で取引が出来ない通貨を抱える国の多くが実需原則など厳しい外為管理をしており、そうした規制面をクリアしていく必要がある。また、こうした送金の媒介に仮想通貨を使用するだけであればXRPである必然性は無く、現にSOMPO Holdingが出資したBitPesaはケニアを中心にセネガル、タンザニア、ウガンダなど7か国間でBTCを媒介にした送金を実現している。おそらく当初は現行の規制に則って、送金の伝達手段のみをSWIFTからリップルネットに代替するところから始まる可能性が高いと思われるが、次のステップとしてXRPを媒介にする場合に乗り越えるべき外為規制面での整理や為替市場との連携において、MUFGとブラデスコという大手行同士のタッグは理想的に思える。更に、そういう場面では10月のFSBの報告書でリップル社がお墨付きを得ていることが効いてくるだろう。株安やBCH騒動で上値を重くしている仮想通貨相場だが、XRPの上値余地はまだまだありそうだ。

*韓国・マレーシア・インドネシアは現地に口座を開くなど特別な手続きを踏むことにより日本からの売買も一部可能。
**NDF(Non Deliverable Forward)通貨には世界中どこでも取引可能なハードカレンシーと国内でしか取引が認められていないソフトカレンシーに分かれる。ソフトカレンシーの変動リスクを海外からヘッジする場合、例えば1か月後に1万レアルを30万円で買うことを日本の銀行と約束し、そのまま1か月後に1万円レアルを受渡することは出来ないので、決済日である1か月後の2営業日前に実勢価格(例えば)1万アル=35万円との差額を円で清算する取引。この場合は決済日に差額の5万円を銀行から受け取れる。送金人は実際に1万レアルを買うのに35万円必要となるが、当初約定した30万円との差額5万円を銀行から受け取るので30万円でヘッジした形となるが、仮にFixingレートをベースに現地に35万円を送っても、受取人がレアルに両替した際に1万レアルぴったりにはなり難く、レアルの場合はヘッジ効果が低くなる。
***11/13 ドル円5.5% レアル円15.5%(100日 Bloomberg)
****規制上はマレーシア国内に口座を開設することにより国外からも取引可能。また国外の銀行が顧客との間に入ることも可能。但し、日本国内でこのサービスを提供している銀行はほとんど耳にしない。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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