ブロックチェーン情報でイーサリアムの価格を予測してみる
2021-07-19 11:17[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第26回
代表的な暗号資産(ビットコインやイーサリアムなど)の価値は、一般的な経済指標に基づいて予測することはできないことが知られています。その代わり、ビットコインに関する最近の研究では、Google Trendsのキーワード検索やWikipediaでのビットコインに関する見解などの情報が、ビットコインの価格変動と正の関連性があることが確認されています。また、取引量やビットコインコミュニティサイトでのユーザー活動(投稿数、議論数、新規会員数など)といった市場レベルの指標が、将来のビットコイン価格と有意に関連することが発見されました。ビットコインに関するGoogle Trendsの検索クエリとツイート量が、ビットコインの価格変動と正の相関があることも示されています。今回はこれまで学術的な関心があまり高くなかったイーサリアムの価格変動に関する研究を紹介します。イーサリアムのブロックチェーンシステムには、ビットコインにはない特徴があります。まず、ブロック内に取引情報しか含まれていないビットコインとは異なり、イーサリアムはブロック内に取引情報とともに、ユーザーのアイデンティティや製品の属性など、さまざまな種類の情報を含めることができます。
次に、イーサリアムではブロックの生成速度は約15秒であり、ビットコインの生成速度(約10分)の約40倍であり、トランザクションの処理速度も高速です。しかし、承認速度が上がったことでマイナーが同時にマイニングに成功する機会が多くなってしまうという問題が発生しました。ブロックチェーンの構造上、複数のチェーンが存在することは認められておらず、一つのチェーンを選択しなければなりません。そのためマイニングにつぎ込んだコストが無駄になってしまいます。そこで、アンクルブロック(承認されなかったブロック)も考慮して、最も計算が蓄積されているチェーンをメインチェーンとすることで、たとえアンクルブロックを生成してしまったとしても無駄にはならずブロックチェーンのセキュリテイに貢献していることになっています。そのため、アンクルブロックを生成したマイナーにも報酬を与える仕組みとなっています。
さらに、イーサリアムにはビットコインにはない「ガス」という概念を導入しています。イーサリアムのガスとは送金を行うための手数料のことです。暗号資産の送金を認めてもらうには、トランザクション承認に必要なデータ計算処理をする「マイナー」に手数料を支払う必要があり、ガスはその単位になります。イーサリアムにガスというルールがあるのは、ネットワーク内の過負荷を防ぐためです。世界中の送金件数が多くなるほどネットワークに大きな負担がかかり、送金スピードも落ちます。ネットワークの負担が一線を超えないように、ガスという制度を使ってコントロールしています。また、送金件数が多くなるほどマイナーはすべての取引承認に必要な作業をしなければならず、負担が大きくなります。そこでガス価格や限度額を定めることで、マイナーは作業の優先順位を決めつつ、スムーズに取引承認を済ませることができるのです。このようにマイナーの労働対価を高める意味でガス代は重要です。
この論文では、標準的なマクロ経済要因や他の暗号資産の価格に加えて、イーサリアムのブロックチェーン情報や他の暗号資産のブロックチェーン情報がイーサリアムの価格予測のパフォーマンスを向上させるかを機械学習(人口ニューラルネットワーク(ANN)とサポートベクトルマシーン(SVM))を使って分析しています。
機械学習から示されたのは、第1にマクロ経済要因に加えてイーサリアム固有のブロックチェーン情報(アンクルブロック、ガス価格、ガス量、1ブロック当たりのガス上限)がイーサリアムの価格予測に大きく寄与することです。第2に、他の暗号資産(ビットコイン、ライトコイン、ダッシュコイン)のブロックチェーン情報のうち、ビットコインのブロックチェーン情報がイーサリアムの価格に有意に関連していること、ビットコイン以外のブロックチェーン情報はイーサリアムの価格に影響しないことも示されました。
ブロックチェーン情報は暗号資産によって異なることが多いため、暗号資産の価格を正確に予測するときには、ブロックチェーンの構造の違いを考慮する必要があるといえるでしょう。
参考文献
Kim,H-M., Bock, G-W., Lee, G., 2021. “Predicting Ethereum prices with machine learning based on blockchain information” Expert Systems with Applications, 184, 115480.
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。