Poly Networkの攻撃から考える『凍結できるステーブルコイン』の役割
2021-08-16 09:52[ Fracton Ventures ]
Poly Networkは、複数のブロックチェーンにおいてそれぞれのブロックチェーン上にスマートコントラクトを設置することでそれぞれのブロックチェーン内に資産をロックし、ロックした資産と同額となるアセットを、他のブロックチェーン上で送付することで単一ブロックチェーン内での送付を越えた、マルチチェーンでのブロックチェーン間でのトークンの移動を可能にするソリューションでした。つまりPoly Networkを介することで従来暗号資産交換業者が担っていた、他のブロックチェーン上のアセットの交換作業を、スマートコントラクトを介して行うことができるというソリューションでした。
Poly Networkはマルチチェーンという特徴もあり、攻撃されて犯人に奪取された資金は結果的に複数のブロックチェーンに及びました。

参考:Rekt
この話題についてはさまざまな報道がされておりますが、今回は従来報道されている点と少し視点を変え、ステーブルコイン資産における奪取後の対応になります。
SNSでPoly Networkへの攻撃が行われたことが話題になるまでには、攻撃からおよそ3時間程度の時間がありました。この間Poly Networkは各暗号資産交換業者などに犯人が奪取した資金を凍結するように依頼しました。凍結というのは従来暗号資産交換業者などが、犯人のウォレットアドレスを経由した資金の流入や、経由している資金にマークを付け、それらを取引所内に流入した際に引き出せないようにすることを指します。
ただしステーブルコインにおいての『凍結』は少し方法が異なってきます。
今回犯人が奪取したステーブルコインの種類はUSDT, USDC, DAI(及びBinance Smart Chain及びPolygon上のステーブルコイン)がありました。
その中でも、USDTを運営するTetherはいち早くこのPoly Networkからの要請に対応し、Ethereum上のUSDT(およそ1ドルとペッグされたステーブルコイン)$33M(約36億円)をEthereumのブロックチェーン上で凍結しました。
USDTが行ったこの方法は、スマートコントラクトを介して、特定のウォレットアドレスの所有者からのUSDTの送付を一切禁じるよう制御をかけるものです。それはUSDTとしてトークンが発行された後、それぞれのウォレットアドレスの中に保管された状態のまま行うことができることが特徴です。例えるなら銀行強盗が盗んだ資金を持って車で逃走している最中に突然社会全てがそのお札の通し番号での決済を、抜け漏れなく断る、そんなイメージです。
この方法は、今までの暗号資産交換業者頼みであった資金凍結の方法を、より即時的に対応できるもので、スマートコントラクトを介したプログラム可能な資金であるステーブルコインの一つの特徴であるとも言えると思います。
なおUSDTを運営するTether社とUSDCを運営するCircle社とでは一般的に凍結の判断を下すタイミングなどに違いがあると言われています。これが関わっているのか断言はできませんが、今回は犯人が攻撃後、その後奪取した資金を動かすまでの間でのステーブルコインの凍結は、USDTのみで実行できました。

出典:https://twitter.com/paoloardoino/status/1425090760609832978
この後犯人はブロックチェーン上で私見を述べた後、この凍結されたUSDTを除く全ての資産をPoly Network側に返却するという形を取ることになり、660億円とされた巨額被害は数日間後に資金返却という驚きの解決を迎えることになりました。
ちなみに多くのメディアでPoly NetworkがDeFiプロトコルであるかのような報道がされています。これはDeFiの定義によると思われますがあまり正確ではないと感じることも多く、Poly Network自体にはスマートコントラクトを設置できない仕組みであり、Poly Networkは複数のブロックチェーンで相互にアセットを送付する為の、情報の伝播を行う専用のブロックチェーンという表現が正しいものと思われます。
このPoly Networkの事件は犯人の奇妙な攻撃動機や、その劇場型らしい展開や、奪取された資金額に目が行きがちですが、このように凍結機能を持ったスマートコントラクトに基づいた資産を市中に流通させることで、特定条件下で資産凍結を行えるといったテクノロジーの可能性をも見せることができた場面とも理解できるのではないでしょうか。
Fracton Ventures (フラクトン ベンチャーズ)
Fracton VenturesはWeb3.0の未来を支援者ではなく貢献者として共創していく専門家集団です。Web3.0社会の実現に向けてグローバルエコシステムの一助を担うべく活動を行うと共に、サステナブルかつオープンなプロトコルを育てる為のトークン設計を行っていきます。