投資と投機

2018-08-10 15:41[ れんぶらんと

金融リテラシーのお話 投資

「投機に断固措置」 「貯蓄から投資へ」


 前者はかつて為替相場の円高局面においてよく財務大臣らがつかった言葉です。後者は1996年当時の橋本龍太郎首相スローガンとして掲げて以来使われ続けている言葉で今はNISA(注1)と呼ばれる制度的後押しまであります。こうしてみると政府は、投機は悪いもので、投資は推奨すべきものとしているようです。はたして「投機は悪、投資は善」なのでしょうか。

 投機と投資に明確な定義があるわけではありません。一般的には、投機は値動きに対して収益を求めるもので、取引の一方に収益がでればもう一方は損失が出るもの、投資は事業等に資金を拠出し、長期的にその事業が成長することにより、参加者全員が収益をあげられる、可能性があるもの、と説明されます。
 この説明だと、為替や仮想通貨の取引は投機となり、株式や債券を購入するのは投資と思われるかもしれません。しかしながら株式の取引においてデイトレードのように短期間に売買し利益を得ようとすることは、値動きに対して収益を求めることでありそれは投機とみなすことができます。つまり投機と投資を厳密に区別することは難しいのです。

 大切なことは「投機は悪、投資は善」というわけではないということです。投機と投資はいずれも資産運用でありその手法に違いがあるだけです。

 市場の役割のひとつに価格形成機能があります。仮想通貨を含めたモノの値段は売り手と買い手のバランス、つまり需給で決まります。売り手と買い手が市場に参加し需給が一致したところで相場が決まります。この場合、できるだけ多くの市場参加者が集まる方が公正で民主的な価格形成が行われる可能性が高まります。様々な考え方をもって市場に参加する投機家は市場の価格形成機能に貢献しているわけです。

 投機には流動性の供給という利点もあります。たとえば為替市場において貿易取引を行う人しか市場参加者になることができない場合を考えてみます。この場合、貿易黒字国の通貨は潜在的な買い圧力があることになります。輸出企業の決済日が集中する月末などは貿易黒字国の通貨の買い需要から値がつかなくなることも考えられます。これでは輸出企業はスムーズな通貨の売買ができなくなります。そこで投機家が存在すれば様々な思惑により通貨の売買がなされるため市場に厚みが増すことになります。市場に厚みが増せば輸出企業など実需で為替取引を行う企業にとって外国為替の売買がやりやすくなります(注2)。

 このことは仮想通貨の取引についても当てはまります。たとえば仮想通貨のETF(上場投資信託)が、証券取引所に上場されれば、機関投資家を中心とする需要から仮想通貨が大きく買われることが予想されます。この場合、仮想通貨の相場は買いと売りのバランスが崩れる可能性が高まります。しかしながら、投機を行う市場参加者が相場の値上がりを期待して事前に仮想通貨を買い持ち(ロングポジション)としていれば、実際にETFが上場された時には、ポジション解消のために仮想通貨を売る可能性が高くなります。結果として機関投資家の買いと、投機の売りが市場で出会うことにより、バランスが生まれるのです。

 つまり、為替であれ仮想通貨であれ、市場が公正かつ効率的に機能するために投機はとても重要な役割をはたしているといえます。

(れんぶらんと)

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(注1)
2014年に始まった少額投資非課税制度で英国の個人貯蓄口座(Individual Saving Account)をモデルにして日本の頭文字「N」をつけた造語。「ニーサ」と呼ばれる。

(注2)
東京外国為替市場委員会の調査によると東京外国為替市場の1日のスポット取引は1,284億米ドル(2018年4月)。これに対し同時期の貿易額は輸出入合わせて1日に61億米ドル。つまり現在のスポット取引にしめる貿易の割合は4.8%でしかない。

れんぶらんと

17世紀に活躍したオランダの画家レンブラント・ファン・レインの作品をこよなく愛する自称アーチスト。 1980年代後半のバブル期に株式および外貨資産投資を始め、いい思いをしてから投資の世界にどっぷりつかっている。

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