現物ビットコインETF非承認でも強気相場は継続
2021-11-15 10:00[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第30回
米SEC(証券取引委員会)は12日、VanEck社が申請した現物ビットコインETFを認めないという判断を下しました。10月に申請された先物ETFは上場が認められたのに対し、今回残念な結果となったことに落胆の声もありますが、非承認の判断は業界ではある程度想定されていたため、ビットコインの下落幅は限定的でした。現物ETFの上場商品は、詐欺的および操作的な行為、慣行を防止する設計と、投資家および公共の利益を保護する要件を満たしていないというのが理由でした。そもそも、現物のビットコインを直接購入できるのに、なぜETFに多くの人が殺到するのでしょうか?ビットコインETFの先駆けとなったプロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETFは、上場時にETF史上最大の資金を集め、初日の取引の売買代金が過去2番目となりました。その大半は投機目的であり、現物のビットコインを購入すればかからない信託報酬や売買手数料を支払うことに疑問を持つかもしれません。
ビットコインETFが人気の理由の一つには、ビットコインの直接購入という選択肢を採れない投資家がいるということがあります。株式市場に上場した商品やSECが承認した商品しか購入でいないという投資制約がある投資家にとってはETFを通じてしか暗号資産投資ができないのです。
その他の理由として、ジェームス・マッキントッシュWSJコラムニストは「ビットコインETFがもつ信頼性の問題」を挙げています。ビットコインを直接購入するとなればウォレットのパスワードの管理というリスクを抱えることになり、機関投資家は信頼性に関する深刻な問題を抱えることになりかねません。最終的には誰かがそれを保管しなくてはいけませんが、パスワード管理者が資金を持ち逃げする可能性をゼロにすることはできません。その意味ではビットコインETFは信頼性問題を回避する貴重な商品なのです。
ビットコイン・ブロックチェーンには、2017年のSegWit以来の大型アップデート「タップルート(Taproot)」が14日に実装されました。今回のアップデートはプライバシーの改善やスケーラビリティ、セキュリティを向上させる新機能が稼働しました。これにより、スマートコントラクト機能の拡張やライトニングネットワークの改善などが期待されています。ビットコインアナリストたちは今回のアップデート後に、すぐに急騰する可能性は低いとみていますが、年末のラリーを期待している個人投資家の注目を集めることは間違いなさそうです。
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。