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急落相場の覚醒(Episode3)新たなるお金

2018-11-21 18:34[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン ビットコインキャッシュ リップル

今回の仮想通貨相場の暴落を受けて、いつどこで下げ止まるかに関心が集まっている。もしくは、もう下げ止まらないのではないかといった極端な悲観論も一部には聞こえる。デジタルデータに過ぎない仮想通貨には、その価値の根源が何なのかはっきりした定説がないため、常に価値がゼロになってしまうのではないかと言う不安が付きまとうからだ。前回、前々回はハッシュレート過去の歴史という側面から、この相場の先行きを占ってみたが、3回シリーズの最終回では、仮想通貨の価値の根源という側面からこの問題を紐解いていきたい。

貨幣の3要素

まず、仮想通貨とは何なのか語る上でよく問題となる仮想通貨が通貨に当てはまるのか、という議論から始めたい。因みに通貨というのは国家によって強制的に通用させられている貨幣と言う意味で、ここで議論するのは正確には仮想通貨は貨幣にあたるのかどうかだ。この議論は以前、【クルーグマン教授の変心と仮想“通貨”論争】でご紹介したのだが、この貨幣論で必ず出てくるのが①価値尺度②価値保存③流通手段の貨幣の3機能(支払い手段を加えて4にする場合もある)だ。これに現時点の仮想通貨の状況を強引に当てはめようとすれば、百歩譲ってBTCは議論の余地があるとしても他の多くのアルトコインは問題外と言わざるを得ない。仮想通貨に貨幣としての3機能は備わっているかと問われれば、今はまだですが、将来的には世の中がその方向に変わっていくと思うと答えるのが精いっぱいだ。この世の中がその方向に変わっていくかもしれないというところが重要で、まだ法定通貨が支配している世界で、それに取って代わるかもしれない可能性を秘めた仮想通貨を指して、今はまだ機能を果たしていないと議論しても意味がない。

貨幣として選択される4条件

これとは別に、小麦から貴金属、そして紙幣、さらに電子マネーと進化してきたのには貨幣の機能とは別に、貨幣として選ばれるための4条件というものがある。運搬性・保存性・等質性・分割性だ。運搬性に優れ、長期に保存しても劣化せず、どれを取っても価値は均一で、分割が容易であるものが経済活動の潤滑油としての貨幣として選好されていく。保存性・等質性で穀物などは淘汰され、運搬性で貴金属は淘汰された。そして軽くて持ち運び易く1000年以上続いた紙幣の時代も電子データの方が運搬(および使用)に便利ということで淘汰され始めている。おそらく貨幣が紙からデジタル化していく方向性に異論はないだろう。現に給料を現金で支払っている企業はあまり聞かなくなっている。ただ、このデジタルマネー化の主役が中央サーバーを要する中央集権的で法定通貨に裏付けられている電子マネーなのか、分散台帳を利用した非中央集権的な仮想通貨なのかは決着を見ていないし、ステーブルコインや中央銀行が発行デジタル通貨(CBCC)などはこの中間、すなわち分散台帳を利用しつつ法定通貨にペッグした貨幣を作ろうとする動きも有力だ。それぞれ百花繚乱の状況の中から、ユーザーのニーズにあったものが生き残っていくと思われる。今の段階で、これらの中で、どれが有望か議論してもあまり意味はない。それが予想出来るならば、15年前にAmazon株を購入して億万長者になっている。

実物貨幣

次に仮想通貨の価値の源泉についてだが、よく金との比較で議論される事がある。金の価格に対する考え方は代表的なもので、装飾品や工業原料としての需要や利用価値で説明する考えと採掘にかかった費用とする考えがある。これをデジタルゴールドに援用して、(将来も含む)決済手段としての需要とマイニングに要した電気代で説明しようとする考えがある。これは仮想通貨を小麦や布、そして貴金属と進化してきた商品貨幣または実物貨幣とする考え方に基づいている。貨幣の価値はその商品そのものの価値に裏付けられているとするものだ。

信用貨幣

これに対し、貴金属から兌換紙幣、不換紙幣と進化した名目貨幣または信用貨幣という流れがある。元々は一両小判とは砂金一両分の価値を示し、溶かした金の値打ちに裏付けられていた。しかし、時代を経るにつれ金に困った施政者が少し軽くしたり、混ぜ物を入れたりして、金1両分の価値がない小判を作っては鋳造益を得ようとし始めた。悪貨は良貨を駆逐するというやつだ。そうすると、貨幣は必ずしも溶かした時の価値が無くてもいい、と考えるようになる。よく1万円のコストが20円と言われるが1円玉を作るのに2円以上かかるのに対し500円玉のコストは約30円らしい。すなわち、貴金属には商品貨幣と言う側面と信用貨幣と言う側面がある。すなわち1万円は紙という素材の利用価値や製造コストに関係なく、ユーザーが1万円だと信用しているから1万円として通用している。

実物貨幣か信用貨幣か

そこで問題となるのは、仮想通貨が貨幣として、中でも価値保存手段、「デジタルゴールド」と比喩される際の「ゴールド」の意味は実物貨幣としてなのか、信用貨幣としてなのか、だ。ここで、仮想通貨を含むデジタルデータが小麦から貴金属、そして紙幣に進化する過程を振り返ると、実物貨幣として金から仮想通貨に進化した訳でなく、金から金を裏付けにした兌換紙幣、何の裏付けもないただの非兌換紙幣の更に進化系としてデジタルマネーが登場している。従ってデジタルデータの作成コストに価値の根源を求めるのは紙の価値に紙幣の根源を求めるのと同様に無理があろう。小判の価値は金の重さと思い込んでいたが、頭のいいお殿様が金の含有量を減らしても大丈夫であることを発見し、紙幣の裏付けは金との兌換性と思い込んでいたけれど兌換性をやめても大丈夫であることを発見したのはニクソンだった。今の法定通貨には政府の徴税権が担保された信用補完があると教え込まれていた。しかし、日本銀行券を発行している日銀の自己資本4兆円に対し市場価格に晒される長期国債を400兆円保有し、自己資本比率は0.7%しかない。また日本政府の借金1000兆円に対し、消費税を1%引き上げても3兆円だ。これに対し日本人の個人金融資産の過半数が現預金で占めている。何故、日本人がこれほど円を好きなのかと言えば、政府の支払い能力を信用しているというより、円という通貨自体というか、それをいつでも使用できる日本経済を信用しているのではないだろうか。人々は貨幣に国家による信用補完や強制通用力(そもそも日本は外為規制が撤廃されており日銀券を使用する義務はない)を求めてはいなかったのだろう。

お金の本質は信用

サピエンス全史によれば、人間は共通の神話、すなわち虚構を信じることによって社会を形成し、ネアンデルタール人などのライバルを圧倒してきた。お金もその虚構の一つで、玉ねぎの皮を一枚ずつ剥がしていって最後に残ったのが信用だった、これがお金の本質であり、仮想通貨の価値の根源なのだと考える。具体的には、ブロックチェーン技術によってコピー出来ないデジタルデータが登場し、それを持っていれば2重払いなどでなくなったりせず、いつか何かに交換できる、そう人々が信用していることが仮想通貨の本質的な価値なのだと考えている。今回のBCHの分裂騒動では、その2重払いが出来ない、無くならないといった本質的な部分に対する攻撃が懸念されたために、これだけ相場が下落したのだと考えている。また、XRPなどマイニングに頼らない通貨が堅調なこともこれで説明出来よう。また、価値の本質が信用と言う不安定なもので、株式のように目安となる理論値のようなものが無いために上がるときも、下がるときもオーバーシュートしてしまう事実とも整合的だ。この性質は理論価格があってないようなものである為替市場にやや似ている。

信用を取り戻すには

従って、今回の相場が下げ止まるには、騒動で失った信用を取り戻す必要があると考えている。幸いにもSV派のスポンサーであるカルビン・エアー氏は同氏が主宰するCoingeekで「I have a plan to end the world’s first Bitcoin hash “election”」と終戦を呼び掛けている。既にABCはリプレイプロテクションを実装したバージョンを発表、交換所でもABCをBCHとして入出金を再開する動きもある。チャートなどでもABCをBCHとして採用する動きが増えてきており、事実上勝負はついているように見える。とは言いながらハッシュパワーは到底コストに見合わない水準で推移しており、すんなりと平和条約とはいかないかもしれないが、この騒動が収束し、様々なデマや脅しがあったもののABCが新BCHとして問題なく稼働することが確認できれば、市場参加者に安心感が芽生え、ブロックチェーン技術に対する信用も戻ってくるのではないかと考えている。出口は近いと考えるが、やはりそれには時間が必要で、やはり1-2週間程度は要すのではないか。何故1-2週間というか明確な根拠は無いが、動きの速いこの市場で2週間前のテーマはもう思い出せないからとしておこう。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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