相次ぐ日本企業のステーブルコイン発行
2022-02-14 09:00[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第33回
大手商社や大手銀行によるステーブルコイン発行が相次いでいます。三井物産は2022年2月末をめどに金を裏付け資産とするステーブルコイン「ジパングコイン(ZPG)」の発行を予定しており、三菱UFJ信託銀行は日本円連動型のステーブルコイン「Progmat Coin(プログマコイン)」発行について2月9日に発表しました。日本円と連動した担保型のステーブルコインにはすでに「JPYC」がありますが、三菱UFJ信託銀行が発行するProgmat Coin(プログマコイン)はブロックチェーンと受益証券発行信託スキームを組み合わせたステーブルコインとなるといわれています。受益証券発行信託とは、「受益権を表示する有価証券(受益証券)を発行する信託」のことであり、どのようなアセット(資産)でも信託(契約を他者に委託)して有価証券(受益証券)にすることで、取引や流通を容易にできます。プログマコインは、主に、小売り向けに提供されるものでなく、プログマコイン上で発行されるST(セキュリティトークン)や、その他のST基盤上で発行されるST、NFTや暗号資産についての即時グロス決済への利用を想定しています。JPYCは主に小売り向けを想定していますが、これら2つはいずれも「電子的支払手段」に係る法制に準拠する形式をとるため、暗号資産には該当せず、通貨建て資産に該当することになります。
一方、三井物産が発行するジパングコインは金価格に連動した暗号資産であり、日本初の試みといえます。発行額と同額の金を三井物産がロンドン市場から調達して紐付けることや、セブン銀行などと立ち上げた仮想通貨交換所で個人向けに販売され、他の仮想通貨交換所でも順次取り扱えるようにすることが報道されています。
実物資産の金は「有事の金」と呼ばれ、リスク回避のための運用に利用されるほか、インフレ回避にも有用な資産です。そのため、金に紐づけられたジパングコインは金の特性を備えつつ、デジタル化による利便性と小口化を実現した暗号資産といえます。金投資は商品先物や上場投資信託(ETF)でもできますが、暗号資産にすることで送金や決済手段にも使えるという利点が加わっています。
ジパングコインのホワイトペーパーによると、今後は、金現物との交換機能を実装する予定であったり、将来的には、他のコモディティに連動した暗号資産を商品化したりすることも想定しているということなので、コモディティと現金の境界線がなくなる方向で、様々な暗号資産が登場する可能性が出てきました。
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。