(最終回) IMFが説く暗号資産市場と株式市場の相関の高まり
2022-03-07 10:23[ 岩壷健太郎 ]
岩壷教授の経済教室 第34回(最終回)
原油や金などのコモディティ(商品先物)価格と株式などの金融商品の価格の相関が高まっている現象をコモディティの金融商品化(ファイナンシャライゼーション)と呼びます。その背景には、機関投資家がオールタナティブ投資の一つとしてコモディティを取引対象に含めるようになったことが挙げられます。そして今、ビットコインやイーサリアム、テザーなどの主流の暗号資産にも似たような現象が生じています。アメリカ初のビットコイン先物ETFが上場され、個人投資家の運用額を大きく上回る機関投資家の取引が暗号資産価格を動かすようになってきたのです。これによって、金融市場でのリスクオンやリスクオフと暗号資産市場のそれが連動するようになってきました。
IMF(国際通貨基金)の最近のレポートでは、暗号資産価格の日次データを用いて、米国および新興国の暗号資産市場と株式市場の間の波及度合いを推定することにより、暗号資産がどの程度、伝統的な金融商品に影響したかを検証しています(IMF, 2022)。その結果、暗号資産市場と株式市場は、時間の経過とともに相互関係が強まっていることが示されています。
最も古く、最も人気のある暗号資産であるビットコインの価格変動からS&P 500およびMSCI新興市場指数への影響は、COVID-19の流行開始以来、約12~16%ポイント増加しました。最も取引されているステーブルコインであるテザーからこれらの指数への波及も約4~6%ポイント増加しています。絶対値で見ると、ビットコインから世界の株式市場へのスピルオーバーは大きく、株式価格の変動幅の約14~18%、株式リターンの変動幅の8~10%を説明しています。
機関投資家の一部は近年、株式市場と暗号資産市場の両方でポジションを保有するようになってきており、どちらの市場でも大きな存在になっているにもかかわらず、誰も相場下落時にリスクの受け手になっていないため、現在はどの市場でも価格が下落するようになりました。暗号資産は金のようにヘッジ資産、セーフヘイブン資産としての役割を期待され、その資産間の相関を低さからポートフォリオに組み込まれてきましたが、伝統的な金融商品との連動性の上昇は暗号資産の投資戦略にも重要な意味を持つことになると考えられます。
今回で2年間にわたって連載してきました「岩壷教授の経済教室」は最終回となります。長い間、拙いコラムを読んで頂いた読者には感謝の気持ちでいっぱいです。今は低迷していますが、暗号資産がもっと活用され、日常生活に欠かすことのできない日々がやってくることは間違いありません。そんな将来に思いを馳せながら、暗号資産市場の動向を見守っていこうと思っています。どうもありがとうございました。
図 暗号資産と主要資産クラスの間の相関関係の上昇(2017-19 vs 2020-2021)

参考文献
IMF, 2022. “Cryptic Connections: Spillovers between Crypto and Equity Markets”, Global Financial Stability Notes. No. 2022/01.
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授 早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。