マーケット情報

2018.12.3【ハッシュウォー終戦】

2018-12-03 18:40[ 松田康生

Monthly Report 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン ビットコインキャッシュ イーサリアム リップル ライトコイン



Review

ハッシュウォー

11月のBTC相場はBCH分裂騒動の余波で下値のサポートを割り込み大幅に値を下げる展開となった。当初はABC優勢の情勢に、ABCが劣勢になるとBTCからマイナーがBCHに移動し、騒動が仮想通貨市場全体に飛び火することが避けられるとの見方からBTCは堅調に推移。しかし、SVがハッシュパワーで過半数を握ると、OKexのBCH先物停止をきっかけにBCHが急落、BTCもレンジの下限を割り込むと60万円近辺まで急落。BCHハードフォーク後、ハッシュパワーでABCが逆転すると落ち着きを取り戻したが、SVが再びABCを上回り、SVの中心人物クレイグ氏が他の通貨への攻撃姿勢を見せると再び下落、Bakktの延期がだめを押した格好。これに対しSVのサポーターCoingeekが停戦を呼びかけ、当初は渋っていたクレイグ氏もこれに同調、市場はオーバーシュート気味に40万円を割り込んだが、騒動が一段落したのをみると50万円近辺まで値を戻している。

Outlook

全面安の原因

先月の三角持ち合いの上抜けはダマしで、その後、BCHの分裂騒動をきっかけにBTCもレンジを下抜けると、4割以上値を下げました。その背景にはBCH分裂騒動が泥沼化し、BTCからハッシュパワーがBCHに移動され、更に劣勢となったSVのクレイグ・ライト氏が対抗勢力への攻撃を公言することで、仮想通貨の根本技術であるPoWアルゴリズムへの信用に瑕がついたこと、もう一つはBitfinexの出金手数料問題で一時鎮静化したテザー不安も背景にあったと思われます。仮想通貨の価値の根源となる信用に問題が生じたため、ここまでの下落を見たと考えている。 

テザー社法定通貨支払い再開

BCH分裂騒動に関してはWeeklyでお伝えした通り、既に終戦を迎えた。更にSVを支えたCoingeekをカナダのSquire Mining社が買収、同社はCEOがCoingeek出身などSVと関係が指摘されるが、とはいえ上場会社である買収先の下では今回の様な採算を度外視した意地の張り合いは自重されると考える。もう一つの信用不安要素であるテザー問題についても進展があった。テザー社は1USDT=1USDでペッグしており、その価格でテザー社が法定通貨への交換を保証しているとしていたが交換の詳細は約款にて定めるとされ、テザー社と直接取引可能な顧客に限られていた。ところが11月27日より以下の通り出金手数料は高いもののプラットフォーム経由で一般の顧客にも法定通貨との1:1の交換を可能にした。
(テザー社法定通貨入出金手数料)

金額 引出手数料 預入手数料
10万ドル以上100万ドル未満 1000ドル・0.4%の大きい方 0.10%
100万ドル以上1000万ドル未満 1% 0.10%
1000万ドル以上 3% 0.10%

 

ピークからの下落率

下図はBTCの2013年12月をピークとした下落と2017年12月をピークにした下落を並べたもの。縦軸はピーク時を100%とした価格推移、横軸はピークからの日数の経過。2013年のケースはピークから3割近くのサポートを割った後、ピークから407日目にピークの14.8%で底を付けている。今回もピークから3割強のサポートを割り、344日目にピークの17.8%を付けている。前回のパターンが当てはまるかは不明だが、相当いい水準まで調整が進んでいる。前回のボトムはハッキングによる悪材料出尽くしであり、今回も分裂騒動とステーブルコインの悪材料出尽くしによりボトムを打ったと考えている。

予想レンジ:35万円~70万円

Topic

ハッシュパワーの減少

最近、BTCのハッシュパワーの減少を市況低迷の一因に挙げる議論を耳にする。仮想通貨の価値の根源を発掘に係るコストとする考え方が背景にある(因みに小職はその立場を取らない)。きっかけはBCHのハッシュウォーで両陣営がBTCからBCHにハッシュパワーをシフトしたことにあると思われるが、足元の市況の低迷がハッシュレートを引き下げていると言える。これを以って、マイニングプールの閉鎖やマイニングマシンの投げ売り、など悲観的なヘッドラインが流れ、マイニングの崩壊からBTC相場の更なる下落を予想する向きもある。以下のBTCのハッシュレートの推移を見ると、一時60,000PHS(1秒間に6千京回計算)に迫る勢いだったものが、足元では40,000PHSを割り込もうとしている。これは何かの前兆なのだろうか。

以下は、代表的なBitmain社のASICを利用したBTCのマイニングのコストと収支を試算したものだ(計算方法は別稿ご参照)。マイニングにはマシンの消費電力だけでなく、空調費や(場合によっては)場所代、またメンテの費用もかかるし、下はフル稼働を前提にしており、マシンの減価償却を加味しておらず事業収支としては現実的ではない。ただ、この条件で赤字になるならばマシンのスィッチを切った方がいいという限界的なコストの目安を示している。これを見ると、BTC価格が70万円であれば業界全体で60,000PHS投入しても電気代がKWHあたり9円以下であれば限界収益はプラスとなる。これであれば日本のように電気代が20円を超える場合は厳しいが、世界中の色々な地域でも工夫をすれば何とかやっていけるかもしれない。ところが、価格が45万円まで下がると黒字になるのは電気代が5円のケースのみ、すなわち世界で最も電気代が安いとされる中国の一部でしか成り立たなくなる。相場の下落に従って、次々とマシンのスイッチを切っていった結果、ハッシュレートが40,000PHSまで下がると、BTC価格が45万円でも電気代が8円以下なら限界収益がプラスになる、段々と切られていたマシンのスィッチがオンにされているのであろう。

今回の試算は特に減価償却費を考えない単純化した議論だが、こう考えるとマイナーの行動力学が分かり易い。また、これは世の常だが、マイナーの採算が厳しいと常々言われてきていたが、実は今年の前半、ハッシュレートが10,000-30,000PHSの頃は相当うま味があったことが推察される。その結果、次々と新参入が相次ぎ、過当競争に陥り、今となってようやくその調整が見られている訳だ。また今後は更に高性能な危機が投入されることにより、コストも自然環境に与える影響も相場とは無関係に低減しよう。

Altcoin

ETH:月初はテザー下落による逃避買いや新生銀行とイーサリアム関連のアプリ開発企業コンセンシスとの提携、更にSECの高官による近日中にICOによるトークンが証券にあたるか否かの平易な英語によるガイドラインが発表されるとの発言に規制が明確化することによりICOが活性化するとの期待感もあり一時25000円台を回復する展開。しかしBCHやBTCに連れ安となる中、比較的堅調な推移を見せたXRPに再び時価総額2位の地位を明け渡すとETHのマイニング収益が減少しているといった報道やICOratingによりQ3のICOが前期比約8割減となっているとのレポートもあり軟調に推移した。またSECがICOによるトークン販売を証券法違反での取締りを強化していることも相場の重しとなった。BCH分裂騒動で不気味な動きを見せる元自称サトシのクレイグ氏がICOは証券法違反だとETHにも攻撃的な発言をすると2万円を割って急落、BakktからBTC以外も検討していると伝わるも下げ止まらず12000円台へ、3週間で5割以上の下落を見せた。その後、発表されたSECのガイドラインもICOで発行するトークンは証券と見做される可能性があるとされるだけで、何が証券にあたらないのかが明確化されておらず、SECジェイ・クレイトン委員長もICOの多くは証券だとするだけで、月末にかけて他の通貨が切り返す中、冴えない値動きを続けている。一方でプラットフォームとしてのイーサリアムの活用は順調に進んでおり、開発者らは2019年6月に1xと銘打つアップグレードを発表、各分野でのブロックチェーン活用が加速する中、その中心に位置するイーサリアムの重要性は増すばかりであり、ICOによる需要先食い効果が薄れてくることから、ETHは徐々に値を戻す展開を予想する。

XRP:前月末のSBIの決算発表でR3との提携構想が発表され、またCointelegraphとのインタビューでリップル社コリー・ジョンソン氏がXRPは証券でないとし、続いてSEC高官が近日中に証券の該当有無に関するガイダンスを発表する、とすると、いよいよ証券問題に決着が着くという期待感もあり60円台を回復。その後もxCurrent利用者がシームレスにxRapidへの採用が可能となるとのニュースや同社CEOの目標はSWIFTを追い抜くこととした強気の発言もあり、BCH分裂騒動で仮想通貨が全面安となるなかで50円台で底堅い値動きを見せ、時価総額2位の地位をETHから奪い返すと、瞬く間に2割程度の差を付けた。しかし、クレイグ氏がXRPは詐欺と言い始め、またBTCなど仮想通貨相場が総崩れとなる中、分裂騒動が飛び火する形で50円を割り込み、一時30円台まで値を下げた。その後、値を戻すが、SECクレイトン委員長がニューヨークでのカンファレンスでXRPは証券か否かと問われて明言しなかったこともあり、やや戻りが鈍い展開を続けている。しかし、市場の関心が分裂騒動やテザー不安などから、機関投資家の参入など普段のテーマに戻りつつある中、実用面の拡大の中心にあるXRPは、今後の戻り局面でも力強い値動きが期待される。

BCH:分裂騒動で乱高下、しかし月間を通してみると混乱が信用を失い大幅下落、仮想通貨相場全体の急落を誘った。月初こそ中間派だったロジャー・バー氏が主流派ABC支持を表明、混乱は避けられるとの見方に加え、海外の大手交換所が分裂後もサポートを続けると表明、これにより分裂した通貨も入手可能という見方から大きく上昇。しかし、バー氏がクレイグ氏に騙されたとした辺りからABC・SVの対立が激化。SV側がハッシュパワーを大きく伸ばし過半数を占め、先物価格でABCをSVが一時追い抜くと、バー氏への脅迫じみたメールなど暴走気味のクレイグ氏が率いるSV派の勝利を嫌気した売りが優勢となり、OKexが突如BCH先物取引を停止したのをきっかけに急落を始めた。実際にハードフォークが実施されると、バー氏率いるBitcoin.comが直前にハッシュパワーをBTCから大量にシフトしたこともありABC側が圧倒、交換所の中には早くもABCをBCHとして扱うことを発表するところも出るなど市場は落ち着きを取り戻した。しかし、クレイグ氏がXRPやICOなどにも批判を強め、またSVがABCをハッシュパワーで逆転すると再び下落。しかし、採算を度外視したハッシュウォーに嫌気が差したせいかSVのサポーターであるCoingeekを率いるカルビン・エアー氏が無駄な争いを辞める様に呼びかけると相場は反転するも、クレイグ氏は相手陣営を口汚く罵り徹底抗戦の構えを見せたことで再び急落、ついにABC・SV合わせて2万円を割り込む水準まで売られる展開となる。この過程で、エアー氏はSVはBTCの正当な継承者であり、BCHという名前に拘らないという大人の理屈を提唱、ようやくクレイグ氏もこれを受入れ、エアー氏がABCが付けないならばSVがリプレイプロテクションを実装し、ABC、SV別々のコインとして存続していく意向を示すと大きく反発している。分裂騒動は一服したが、残った両通貨を決済に使用する動きは停滞すると思われ、またBTCからのシフトで容易に通貨全体がコントロールされかねない事実が露呈、一時的な戻りの後は上値の重い展開が予想される。

LTC:月初こそ海外交換所での取扱い開始やテザーからの逃避買いで堅調に推移するも、クレイグ氏がLTCを攻撃しているとのうわさもあり軟調な展開、独自の買い材料が見当たらない中、対BTCでも下落を続けたが、スイスでLTCを含んだETPが上場したこともあり、対BTCで値を戻している。


Calendar

12月12日 Hong Kong BlockChain Summit 2018  Bloomberg共催 OKexスポンサー
12月12-14日  Hard Fork Decentralized(ロンドン)eToro IOTA Cointelegraph CEOなど参加
12月19日 CBOE BTC先物12月限取引最終日
12月28日 CME BTC先物12月限取引最終日
12月29日 CBOEやVan Eck社申請中のETF審査期日(2月への延長が本命視されている)


FXcoin Monthly Report 2018.12.03.pdf

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

アーカイブ