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ハッシュレートの低下:相場の低下を導かない?

2018-12-04 18:05[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン ビットコインキャッシュ

BTC相場は11月25日に40万円を割れた後、切り返すも上値が重く冴えない値動きが続いている。今回の暴落相場を牽引したBCHの分裂騒動も一段落し、またテザー騒動も同社による一般顧客への法定通貨の払い出し再開されており、司法省の捜査は続いているもののUSDTの価格は1ドル近辺で落ち着いた推移を見せている。不安要因が払しょくする中で、未だに上値が重い一因として、BTCのハッシュレートの低下が指摘される。仮想通貨の価値の根源を金などの鉱物と同様に採掘するコストに見出す考え方があり、ハッシュレートの低下は資産価格の低下に結びつくというもので、CNBCなどで著名なトム・リー氏などはこの考え方に近い。これに対し小職は、それは仮想通貨をコモディティーとする考え方であり、紙の代替として台頭したデジタル通貨には当てはまらないという立場だが、ただ採掘コストが価格と密接に関係していることは否定しない。ここではMonthlyやDailyなどの記事を再掲、加筆することにより、何故ハッシュパワーの低迷が相場の下落を導かないと考えるのか説明したい。

BTCのハッシュパワーの減少のきっかけは、BCHのハッシュウォーで両陣営がBTCからBCHにハッシュパワーをシフトしたことにあると思われるが、足元の市況の低迷がハッシュレートを引き下げていると言える。これを以って、マイニングプールの閉鎖やマイニングマシンの投げ売り、など悲観的なヘッドラインが流れ、マイニングの崩壊からBTC相場の更なる下落を予想する向きもある。以下のBTCのハッシュレートの推移を見ると、一時60,000PHS(1秒間に6千京回計算)に迫る勢いだったものが、足元では40,000PHSを割り込もうとしている。これは何かの前兆なのだろうか。

以下は、代表的なBitmain社のASICを利用したBTCのマイニングのコストと収支を試算したものだ(計算方法は別稿ご参照)。マイニングにはマシンの消費電力だけでなく、空調費や(場合によっては)場所代、またメンテの費用もかかるし、下はフル稼働を前提にしており、マシンの減価償却などを加味しておらず事業収支としては現実的ではない。ただ、この条件で赤字になるならばマシンのスィッチを切った方がいいという限界的なコストの目安を示している。これを見ると、BTC価格が70万円であれば業界全体で60,000PHS投入しても電気代がKWHあたり9円以下であれば限界収益はプラスとなる。これであれば日本のように電気代が20円を超える場合は厳しいが、世界中の色々な地域でも工夫をすれば何とかやっていけるかもしれない。ところが、価格が45万円まで下がると黒字になるのは電気代が5円のケースのみ、すなわち世界で最も電気代が安いとされる中国の一部でしか成り立たなくなる。相場の下落に従って、次々とマシンのスイッチを切っていった結果、ハッシュレートが40,000PHSまで下がると、BTC価格が45万円でも電気代が8円以下であれば限界収益がプラスになり、徐々に切られていたマシンのスィッチがオンにされていく、そうした仕組みなのだと考える。

今朝方もDifficultyが過去2番目の低下を見せて話題となった。DifficultyとはBTC等の採掘難易度を指し、1ブロックの形成する≒ナンス値を探し当てるのに約10分要する様に直近のハッシュパワーを換算して2週間毎に計算・調整される。これが大きく低下したということはハッシュパワーが減っていることを示し、その背景には価格が下落したために電気代が高い地域などで限界損益がマイナスとなるマイナーがマシンのスイッチを切っているからだ。即ち、価格が下落したからDifficultyが下がっただけで、これを理由に相場が低下するのには違和感がある。

何故、このような事態になったかというと、実は今年前半の10,000~30,000PHSの頃はマイニングはかなりうま味があり、それ故、新規参入が殺到していたのだと考えていて、それが過当競争になり、ついに限界コストも採算割れする状況に陥ったため、頭打ちとなり、価格の下落に合わせてハッシュパワーも低下してきたというのが実態ではなかろうか。いったん天井を付けたことで、今後はこのように価格とハッシュパワーの相関が高まることも予想されるが、既に従来と同じ電力消費で2倍の計算能力を持つ世代のマイニングマシンも登場しており上記の小職の試算が通用するのは今年限りになりそうで、またハッシュパワーが上昇すると環境破壊だ、サステイナビリティ―と言い、下がれば下がったでオワコンだと騒ぎ始める市場参加者も心配し過ぎだと言えよう。

この様にマイニングコストが価格を決めるのではなく、価格がマイニングコストに影響を与えるのが筋だと考えるが、一方で誰もマイニングをしなくなればこのPoWというシステムは成り立たない。そうした中、かねてよりマイニングへの参加を表明していたSBIホールディングスは株主向けミーティングでBCHのマイニングのシェア3割を目指すとした。こうした新規参入(既に一部参入済)の動きは市場に安心感をもたらすと思われるが、果たして苦境に立たされているBCHやBTC相場のホワイトナイトとなり得るか、注目される。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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