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PayPay登場で幕を開けるデジタルマネー戦争

2018-12-05 20:06[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産

昨日のSNSは同日スタートしたPayPayの100億円キャンペーンの話題で持ちきりでした。何でも、PayPayで買い物をしたら20%ポイント還元、更に条件によって1/10~1/40の確率でお買い物金額全額がキャッシュバックされるという大盤振る舞いです。取引が集中したせいかシステムがダウンし、また一部で2重引き落としといったバグも報告されているのもご愛敬といったところでしょうか。この初日の活況を見る限り来年3月の最終日よりも前にキャッシュバックが100億円に到達し終了する可能性が高いと思われます。それにしてもYahoo Japanやソフトバンクといった大手企業が運営しているとは言え、なぜ販売促進に100億円もかけるのか素人ながら驚かされます。

モバイル決済、大関昇進

今年の日経ヒット商品番付でもスマホペイが東の大関に位置付けられました。日銀が昨年6月に出したレポートによれば、この店頭におけるモバイル決済とは「バーコードや QR コードをスマホ等の画面に表示してレジ端末のスキャナ等で読み取る、あるいは紙に印刷されたりレジ端末の画面に表示されている QR コードをスマホ等のカメラで読み取ることで、決済を行う方式」のことです。交通系など非接触型電子マネーが普及しているこの日本で、前述のレポートによれば6%(2016年)しか普及していなかったこのサービスが、なぜ突然、大関にまで台頭したのでしょうか。

普及率98%

その答えは同じレポートの中にありました。アリペイやウィーチャットなどが爆発的に普及している中国ではこのモバイル決済の普及率が98%にも達しているのです。すなわち、交通系など日本における非常に進化した便利な電子マネーはガラパゴス化しつつあり、世界のスタンダードはQR決済に向かいつつあるようなのです。そう考えてか、ベンチャー出身のOrigami Payに続き、Line Pay、楽天Pay、NTTドコモのd払いなど大手が次々に参入し、覇権争いを繰り広げています。そこに今年になって乗り込んできたのがソフトバンク・Yahoo連合のPayPayで、桁外れのキャッシュバックキャンペーンで後れを取り戻そうとしている訳です。

QRコード

以前も申し上げた通り、そもそもキャッシュレス化は財布のひもを緩くする効果があると考えます。現金で支払う高速料金は痛いですが、ETCだと不思議と痛みは和らぎます。更に、同じ割引でも、個人的にはただの1割引きより、10回に1回タダになる方が嬉しくなります。今まで交通系で瞬時に決済できていた日本人にわざわざスマホでQRコードを呼び出したり、相手のコードを読み取ったりする手間をかけさせるには、これくらいの販売促進策が必要だったのかもしれません。人間、一度、慣れさせてしまえばこっちのものです。商売は損して得取れとは言いますが、それにしても販促費に100億円も大盤振る舞いして、どうやって取り戻すつもりなのでしょうか。

クレジットカードを使う理由と使わない理由

このカラクリは高いクレジットカード手数料にあると考えています。ご存知の通り、カード会社はカード保有者からは年会費程度しか取りませんが、加盟店から利用額の数%の手数料を取っています。料率は業種や各店により様々だそうですが、大体、コンビニで1%。飲食店で5%程度と聞いたことがあります。そう高い訳でもない飲食店の粗利から5%天引きされると痛いので、かつてはカードお断わりだなんてお店も多かったのですが、今ではそうしたお店も目にしなくなりました。飲食代を現金で支払う人が減ってしまったからです。一方で、クレジットカードは借金だから使わないというお客もある程度存在します。すなわち、お客がクレジットカード決済に感じるメリットは信用払いが出来るからというよりキャッシュレス決済ができる方が大きいのではないかと考えています。確かにクレジットカードは信用供与なので貸し倒れや回収コストを考えればある程度の手数料はやむを得ないですが、借金ではないデビットカードの様なものなら信用供与が無い分、手数料を引き下げられるのではないか、いや手数料は少し下げて、残りは運営側の利益にしよう、、、要は、この加盟店手数料目当てではないか、個人的にはそう考えます。因みに、利用代金をお店に振り込むのはおおよそ1-2か月遅れとなるので本来であれば運営側は資金運用益も得られるはずですが、ゼロ金利の日本では成り立ちません。

ここから3年間が勝負

PayPayはその手数料に関しても3年間はゼロにするとしています。後発組が安売りでシェアを伸ばす、どこかの携帯電話業界で来たような話ですが、思い切ったもので、なりふり構わずシェアを取りに行っている、裏を返せばそれだけこのビジネスに将来性を見出しているのでしょう。あと2年もすればオリンピックで驚くほどの中国人が日本にやってきます。住信SBI信託銀行はALIPAYに加え今年10月にWeChat Payとも提携し話題を集めました。Origamiは9月に銀聯カードと提携。インバウンド決済ニーズの取り込みにも余念がありません。そうした中、PayPayは今後の3年間を日本のキャッシュレス化が飛躍的に進むであろう(かもしれない)大切な時期と捉えていて、この時期は儲けよりシェア確保に全力を注ぎ、おそらくは、その後から回収に回るつもりなのではないでしょうか。

仮想通貨の出番

ここまで仮想通貨の話しが全く出て来ませんでしたが、ここからが仮想通貨の出番と言うか正念場だと考えます。運営会社の無い仮想通貨では100億円かけてQR決済の普及を図ってくれる人はいません。一方で、そんな販促や大掛かりなシステムが不要であることが強みです。すなわち、今はクレジットカードよりコストの安いモバイル決済が取って替わろうとしているのですが、その次はそのモバイル決済に対し圧倒的にコストが安い仮想通貨決済がチャレンジしていく番だと考えています。価格変動を指摘する人もいますが、誰か仲介業者が顧客と店舗との間に入って仮想通貨のBUY/SELLをすれば良いだけです。そうしたサービスをほんの少しのマージンで行う業者が現れれば、一気に普及が進む可能性があると思います。まあ、日本におけるキャッシュレス化、デジタルマネー戦争は始まったばかりですが、オリンピックそしてPayPayの加盟店手数料無料期限が切れる3年後に向けて、世の中の在り方が、大きく変わっていくことは間違いないと考えています。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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