メガバンクがデジタル通貨を発行する意味

2018-12-27 14:33[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産

日経新聞でみずほ銀行が来年3月にデジタル通貨を発行すると報道され注目を集めた。記事によれば同行が2017年に表明したJコイン構想がいよいよ始動する形で、当初はブロックチェーンを用いた新たな仮想通貨という見方もあったが、結局、ブロックチェーン技術を利用しつつ、1(Jコイン)=1円で固定された、いわゆる前払式決済手段にあたると思われる。地銀60行も参加しデジタルマネーの送金手数料を無料とし、買い物で利用する場合の加盟店手数料をクレジットカードを大きく下回る水準にする計画だそうだ。決済方法はPaypayなどで話題となったQR/バーコード決済だ。

この意義は、まず以前ご説明した通り、世界(特に中国)のキャッシュレス決済の主流はQR決済で、政府目標4000万人の外国人が来日する2020年に向けて、QR決済の普及競争が本格化することを意味している事が挙げられる。非接触型決済が主流の日本でどの程度普及するか疑問視する向きもあろうが、Paypayの100億円キャンペーンに見られるように、発行側はQR決済が主戦場になると見て導入を急いでいるのであろう。前稿でご説明した通り、狙いはクレジットカードにおける加盟店手数料であろう。ビックデータが目当てとの見方もあるが、果たして銀行にそれを活用するノウハウがあるのかはやや疑問だ。

また、銀行が発行することにより、送金に利用できることが、既存の電子マネーとの違いとして挙げられる。更に、銀行が発行するおかげで、加盟店は受け取ったJコインを即時に現金化できるというメリットもある。銀行側ももう一つの狙いは、キャッシュレス化を進めることによりATM設置コストの削減が図れるというメリットもあろう。一方で、従来の電子マネーで何故キャッシュレス化が進まなかったのかも考える必要がある。送金が可能になること以外は、Jコインにより送金が可能にはなるが、何故、銀行が発行する電子マネーがメジャーには成り得なかったのかだ。そもそも、銀行が巨大なサーバーやデータセンターを有しながら、何故わざわざブロックチェーン技術を利用するのかも疑問が残る。せいぜいサーバーのPC代が安くなる程度のメリットしかない。

このヒントはPaypayのキャンペーンにあると考えている。すなわち、Yahooやソフトバンクの様なB to Cビジネスに長けた企業は、どうやったら利用者が増え、モノが売れるかについてのノウハウがある。これに対して、長く寡占市場に浸っていてメガバンクはどうしてもマーケティングでは叶わない部分があると考える。これは仮想通貨業界における交換業やICO等にも共通する問題で、以前申し上げたのですが、従来のICOに欠けていたのは商売に関するアイデアだと考えている。また交換業で問題となったのは利用者保護などの金融リテラシーの欠如だ。すなわち、IT技術に支えられている仮想通貨業界は当初はIT系の人材が多かった。しかし、金融商品の一つとなるには金融系知識も不可欠となる。そして、商取引の世界に浸透させるためにはマーケティングのノウハウが必要となってきた訳だ。Paypayが行った100億円および加盟店手数料3年間無料キャンペーンなどメガバンク出身の小職からは想像もできない。損して得取れが商売の極意だが、銀行員は損をしてはいけないと刷り込まれているからだ。更には銀行が発行するコインは送金に利用されると送金手数料収入が減るという問題がある。ATMコストが削減されるのだから全体ではプラスだと思うかもしれないが、それは銀行本部の理屈で、各支店が積極的に販売させるには相当うまい仕組みを考える必要がある。

民間銀行発行コインを本気で普及させるためには、彼らが相当マインドを変える必要がある。仮想通貨の普及も含めてこうしたデジタル化は銀行業務を大きく変える力があるとされているが、その中で既存の銀行が生き残っていくには、彼らにそうした変革が出来るかにかかっていると言ったら大げさであろうか。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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