CBDCから垣間見える中国当局の意図

2019-01-10 18:19[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産

1月8日BIS(国際決済銀行)が中銀の発行するデジタル通貨(CBDC)に関する調査報告書を発表した。この調査は世界63の中銀にアンケートしたもので、うち約70%の中銀がCBDCについて既に研究を行っているか、今後行う予定とし、約15%が今後3年以内に発行の可能性があると回答している。IMFも昨年11月に15ヶ国(地域)がCBDC発行に関心を示しているとの報告書を発表、ラガルド専務理事はシンガポールのイベントで国際社会が中銀発行デジタル通貨の可能性を考慮する必要があるとした。

CBDCとは

CBDCとは中央銀行が発行するデジタルカレンシーのことを指すが、デジタルカレンシーと言ってもSUICAなど既存の電子マネーも存在し、必ずしもブロックチェーン技術を使用したものとは限らない。BSの報告書ではブロックチェーン技術を使用するとは限定されてはいないが、中島真志氏のアフター・ビットコインによれば電子マネー技術を利用する研究は日銀などで15年ほど前から行われており、今回のこの動きはブロックチェーン技術の登場によるものと考えていいだろう。IMFの報告書はこの仕組みについてより詳しく述べていて①アカウント方式②トークン方式(中央サーバー型)③トークン方式(分散台帳型)があるとし、③の場合、PoWの問題を指摘し、中央集権的なブロックチェーンを志向している様に感じられる。すなわち、分散台帳やブロックチェーン技術を用いつつ、中央銀行が中央集権的に管理することによって、既存の仮想通貨の値動きの激しさやステーブルコインの信頼性といった問題をクリアしつつ、仮想通貨の資金決済コストを劇的に低減するというメリットを取ろうという動き、これが多くの中銀がCBDCに関心を示す理由だと考える。以前のトピックで申し上げた様に、仮想通貨なのか民間の電子マネーなのかCBDCなのか、何が主流になるかは現時点では不明だが、お金の材質が紙からデジタルデータにシフトしていく事は、法律上は現金払いが原則とされているのに殆どの人が給料振込を利用していることからも自明な動きと考える。

各国当局のスタンス

BIS報告では先進的な例としてスェーデンとウルグアイを挙げているが、その他にもカナダ中銀やイングランド銀行などが積極的とされ、IMFに続いて両行はシンガポール通貨庁と共同でCBDCを推奨する報告書を発表している。一方で日銀の雨宮理事は昨年10月の講演でCBDC発行に否定的な姿勢を見せた。理由として現在の金融システムは中央銀行と民間金融機関と言う2重構造を壊しかねない事を挙げている。要はCBDCの発行により預金や決済など民業圧迫してしまった結果、銀行が無くなってしまうと困るからという訳だ。国民の利便性と銀行の存続とどちらが大事なのか質問したくもなるが、民間銀行の信用創造機能や二重構造により日銀がラストリゾートとして機能する事を重視している模様だ。加えて、同理事は決済において取得されるビッグデータも民間で利用されるべきとも指摘しているが、ここは非常に重要なポイントと考えている。

中国当局の意図

仮想通貨業界で一時メインプレーヤーだった中国本土の投資家の再参入を期待する声は大きく、一部では中国当局が規制緩和の方向に舵を切るのではないかと言う見方もある。しかし、ICOや国内での交換所を禁止、昨年はICOなどに対する締め付けを強化している。一方で、習主席自らブロックチェーン技術の将来性を称賛し、中国人民銀行は多くのブロックチェーン関連特許を取得、南京にデジタル通貨実証に向けたリサーチセンターを立ち上げ、仮想通貨関連の人材を募集していると報道されている。この一見矛盾する様に見える動きの意図も、上記の日銀のスタンスと比較すると垣間見えてくる。すなわち、中国当局は非中央集権的な仮想通貨を排除し、デジタル通貨発行を推し進めて様としており、その理由はデータを管理するためだ。中国当局は、海外への資本流出は勿論、国民生活の隅々まで可能であれば把握しておきたいと考えているのではないか。そこが、中央銀行が個々の民間の経済活動に踏み入るべきでないと考える日銀とのお国柄の違いなのかもしれない。こうして考えると中国当局の動きは首尾一貫しており、彼らがCBDCを推進しても、既存の仮想通貨に対する規制を緩める気が無いことは、いつまでたっても人民元市場がドル円の様な普通の変動相場にならないことと同じであろう。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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