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相場としての仮想通貨 ③需要回復をもたらす条件

2019-01-16 11:10[ 田中泰輔

田中泰輔の通貨にまつわる仮想 仮想通貨 暗号資産

2019年は株安、円高が進み、風雲急を告げる幕開けとなった。日本は株安と円高が相乗的に進行し、景気をむしばむ悪循環の宿命を負っている。向こう1、2年、投資家は心労を募らせる局面になりそうだ。しかし仮想通貨には必ずしもマイナスではない面がある。

需給バランスと相場

仮想通貨は、①実体経済活動のリターンの裏付けがなく、適正価値を算出ができない、②相場の歴史は浅く、景気・金融サイクルを映す変動もまだ明確でない、③他資産との相関を見出しにくい、このため、④相場の値頃水準も語りにくい。こうした特性の仮想通貨相場の分析は、専らポジション状況とイベント・ニュースに集中することになる。
2017年は、仮想通貨が金融に革命をもたらし、新たなプラットフォームとなるといった明るいニュースが繰り返され、買い手が更に増えた。仮想通貨は供給量がルールで制約される分、需要過多になり、価格は急騰した。
2018年に下げ相場に転じると、相場の常として、仮想通貨の将来性に疑問符を付けるニュースばかりが目立つようになり、買い手(需要)を一層細らせる。仮想通貨の既保有者はマイニング業者のシェアが大きい。彼ら供給サイドが下げ相場の中で既保有分を売却する時、マイニングでの入手コストを損益分岐点として意識する。その結果、マイニング採算点付近まで売り込まれる場面が繰り返され、相場の値頃感を形成している。

需要増こそが相場回復の王道

仮想通貨相場が、供給コスト水準へ押し込まれる状況を脱して、回復に向かう王道は需要の増加である。2017年のように、好景気で株高の環境下、投資家がリスク志向を強め、仮想通貨投資にも前向きになる展開なら、気持ちも明るい。日本当局が仮想通貨というフロンティアを率先して切り開こうとのスタンスなら一層弾みも付く。もちろん、市場が整備され、安全性が確保され、決済手段として、投資資産として、仮想通貨が巨大プラットフォームになるなら、需要は劇的に増える。2017年に市場参加者が期待した未来の姿である。
しかしその後は、ご案内の通り、ハッキングによる仮想通貨の大量流出事件から、仮想通貨で決済される違法取引やマネー・ロンダリングなど懸念される問題がクローズアップされがちで、当局も慎重スタンスに転じた。主要国政府は規制強化の動きも見せている。一方、民間では、多くの専門業者が今も、仮想通貨の機能強化、ETF化など、普及に力を尽くしている。民間勢の努力が、当局の慎重スタンスを押し切り、更に当局の追認を得るほどに、仮想通貨のプラットフォーム化を進展させるには何が必要か。

ネガティブ条件下ゆえの需要増

この点に思い巡らせると、順風満帆なポジティブな条件下より、ネガティブな条件下の実現可能性の方が想起しやすいかもしれない。
第一に、強固な金融・決済システムが整い、健全な通貨が発行される先進国より、未整備な発展途上国で仮想通貨が普及し、やがて中進国、先進国を巻き込んでいく道筋だ。携帯電話がコストの高い電話線の敷設が進まない未開地で早期に普及したこと、太陽光発電は大規模発電施設の建設や電線の敷設が進まない地域での導入ニーズが強いことなどが、アナロジーとして挙げられる。
第二に、先進国においても、金融取引や資金移動に重大な障害が生じる場合である。そもそも仮想通貨の発展は、キプロスの銀行危機、中国の資金移動規制の下で弾みが付いた。向こう10、20年では、金融危機の再発リスクも排除されない。グローバリズムと民主主義が軋み、自国第一主義とポピュリズムが拡大し、国際緊張が高まると見るのも妥当だろう。地球温暖化の天災が深刻な食糧問題を起こせば、戦争リスクすら無視できなくなる。
日本には大地震という、はるかに身近で、しかも最大級のリスクがある。政府は南海トラフ地震の注意喚起を続けている。人命、産業インフラ、金融システムの深刻な損傷で、金融取引や資金利用に支障が生じる事態は容易に想像できる。南海トラフ地震が日本の赤字財政の持続可能性の信認を直撃する恐れも指摘される。そうなると日本人が被る制約は深刻だ。

いざという時の備えという需要

金融危機、戦争、大地震を、2019年の今そこにある危機として備える人は少ないだろう。しかし今後10、20年、頭に入れておくべきリスクとして、小さくなることはあるまい。保険会社は大規模災害など緊急時の円滑な保険金支払いのために、ブロックチェーン、仮想通貨の利用を研究している。局地的か小規模にか何らかの障害を契機に、企業や機関、あるいは一般の個人まで、いざという時の流動性(使えるお金)として仮想通貨を保有する動きが急に広がる可能性も十分ある。災害マニュアルに資金・金融面の備えとして仮想通貨の保有が必須とされる日が遠くないかもしれない。もちろん、安全性の確保、ルールの整備が不可欠ある。また仮想通貨は既存のものと異なる発展形態に代わっている可能性もある。

仮想通貨は、2017年の歴史的な急騰と2018年の反落が甚だしく、通常の相場分析を適用しにくい。しかしこの乱高下部分を除くと、ゴールドや株式ボラティリティとの相関が比較的高いことが観察された。要は、避難資産として選好される素養を持つ。2019年は経済・市場にとって波乱含みながら、悪環境が仮想通貨には必ずしもネガティブではないのである。

以下次号

田中泰輔 (たなかたいすけ)

田中泰輔リサーチ 代表

為替・世界情勢分析の重鎮。35年間に米欧日メガ金融機関9社を転籍し、トレーダーからチーフ・ストラテジストを歴任した、経済・市場・行動をつなぐ戦略立案の第一人者。内外主要アナリスト調査で20年以上トップ級に選出され、国内では日経ヴェリタス金利・為替部門2010~14年第1位など。「相場は知的格闘技である」、「マーケットはなぜ間違えるのか」等の著書で、日本の市場行動学の草分けとしても知られる。18年8月より現職。

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