仮想通貨送金元年:送金業者は何故リップルに恋したのか

2019-01-22 17:58[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 リップル

今月、リップル社は新たに13の金融機関がリップルネットに参加し、参加機関が200を超えたと発表した。中でもEuro Exim Bankを含む5社が仮想通貨XRPを送金の媒介として使用するxRapidを使用するとし、銀行として初めての採用として話題を集めた。これに対し、CNBCやフォーチュンなどの大手メディアはxRapidを大手銀行が採用した訳ではなく影響は限定的という内容で報じ議論を呼んでいる。一方で、直近では英MercuryFXがxRapidを使用して英国-メキシコ間の送金で「約1万2100円と31時間」の節約に成功したとし、Cointelegraphの取材に対し同社CEOはSWIFTは「古い電子メッセージシステム」とし「21世紀の経済においてなぜ我々は古いテクノロジーを使わなければいけないのか」とした。確かに現段階でxRapidの使用は送金業者ばかりで伝統的な銀行の採用はEuro Exim Bankが初めてだ。以下、この温度差の違いを探ってみると、逆に今回の初めての銀行の採用の重要性が見えてくる。

送金業者の事情

上記取材で英MercuryFXのCEOはリップル社のシステムを「初めて見た時から恋に落ちた」とし「xRapidは大手金融機関の参加なしで機能するようにデザインされており、我々もそのパワーと魅力に引きつけられている」としている。送金業者と銀行とのスタンスの違いはこの言葉に集約されていると考える。長く為銀主義が敷かれていた日本ではあまりなじみが無いが送金業者は出稼ぎ労働者などの少額の海外送金ツールとして成長している。毎月10万円程度の本国送金に対し、既存の銀行手数料は高すぎるとして世銀でも問題になっている。こうした送金業者が銀行より安い手数料で送金できる仕組みは①ドルなどで送金して現地で安く現地通貨に交換する②受取側の支店ないし代理店で受取金を一旦立替え、後で纏めて送金する③②とほぼ同じだが、送金側・受取側の支店・代理店で債権債務を計上し、後でネッティングした金額を送金するなどの工夫をしているものと推察される。すなわち、送金業者間で最終的な法的通貨決済は既存の銀行決済を行っていると考えられる。大手業者であればSWIFTなどを自社で保有し、資金移動の指示を行っているケースもあるかもしれないが、結局、既存の銀行システムを使用しなければ法定通貨の移動を(物理的に現金を運搬する以外に)することは出来ないからだ。従って、XRPを媒介として送金代金という価値を移転する方法は、銀行口座を通さず送金するシステムとして画期的であり、ひとめぼれしてしまう訳だ。そのメリットと比べれば、法定通貨→XRP、XRP→法定通貨の交換コストもそう問題視しなくても済むのかもしれない。

xCurrentとxRapidの違い

一方で、銀行の場合はそう簡単ではない。ここで多くの銀行が採用しているxCurrentと今回初めて採用する銀行が現れたxRapidおさらいをすると、銀行の海外送金には送金内容を伝達し決済銀行に支払指図を電文で送る伝達機能と、支払指図を基にコルレス口座間で資金を決済する決済機能の2つの機能がある。xCurrentはこの伝達機能をSWIFTからシフトするもので、変更不能なデジタルデータというブロックチェーン的な機能を利用するが仮想通貨は登場せず、法定通貨によるコルレス決済はそのままだ。これがxRapidになると送金銀行と受取銀行の決済を仮想通貨であるXRPを通じて行うという意味で画期的となる。すなわちxCurrentはブロックチェーン技術の書き換え不能という面だけ利用し、xRapidは抵コストで世界中の誰にでも瞬時に価値を移動できるという性質も利用する訳だ。

銀行の事情

なぜ銀行が導入しないかといえばリクィディティー・プロバイダー、すなわち送金銀行の法定通貨とXRP、受取銀行の法定通貨とXRP、この交換を同時に行う金融機関がいない、ないしは確立していないからだ。これを自行で行うのか、他行でカバーするのか、交換所でカバーするのか、その場合に売りと買いの価格は同じなのか、マージンを取られるのか、そうした事がまだ何も固まっていないからだ。上記の通り、主に個人相手の送金業者であれば多少のコストを顧客に転嫁しても銀行送金を利用するよりは安くできるが、銀行だとそう容易ではない。従って、今回のEuro Exim銀行がどうやってXRPと法定通貨との値決めを行うかは一つのテストケースとして多くの銀行の注目を集めることとなろう。そういう意味では、大騒ぎをするのは早計だともいえるが、やはり大きな一歩だと言える。すなわち、既にコルレス決済というインフラを独占している銀行からすると、その既得権益を犯してまでxRapidを利用するメリットがあるのか見極めている状況で、しかし技術的に利用者の利便性やコストの安さでXRPを媒介にした送金の方が有利であることは明白で、今回、ファーストペンギンが現れた事により、徐々にその躊躇は考えるし、実は世銀やFSBもそのコスト削減効果に期待感を示している。

パンドラの箱

相場との関係ではXRPにプラスであることは間違いないが、大手メディアが言うように影響は限定的というのも事実だ。送金にXRPを媒介とするとしても、買いと売りとを同時に行うのでXRPの需要がどこまで高まるかは不透明だ。またXRPである必然性はないとされるように単純な送金であれば別にXRPである必要は無い(但し、リップル社が圧倒的に先行している)。サウジアラビアとUAEが両国間の送金用に独自の仮想通貨の開発を始めている(但し、両国はドルペッグで共通しているからこそ可能という見方もある)しアフリカのBitPesaではBTCを媒介にしている。ただ、以前に申し上げた様にR3と連携してトレードファイナンスにまでこの決済を応用できれば、他の追随を許さなくなる可能性が高い。ところでCNBCでは「大企業にXRPが採用される確率はかなり低い」とされていたが見当違いも甚だしく、むしろこの決済を見て、大企業自らが銀行に頼らずに送金ができることに気付くことこそが本当の意味でのイノベーションを呼ぶこととなる。税制面などの整備も必要だが、大企業であれば銀行も送金業者も通さず、本支店間の送金をXRPで出来ることが可能であることに気付く日は近い。傘下に仮想通貨交換を保有していればなおさらだ。例えば、非常に低コストで海外赴任者に本社から直接給料を支払うことも実は可能になっているのだ。パンドラの箱は徐々に空きつつあると考える。こうした場合は手元資金としてのXRP需要は大きく伸びるであろう。(本稿は2019.1.18Weekly Reportを一部編集して再構成したものです)

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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