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相場としての仮想通貨 ④ポジションと自律パターン

2019-02-05 15:06[

田中泰輔の通貨にまつわる仮想 仮想通貨 暗号資産

相場の現況

市場で取引される資産の価格は基本的に、その資産の裏付けとなる経済活動が生み出す価値か、あるいは、誰かその値段で買いたいという人がいるか、で決まる。株式や債券は前者である。絵画など美術品は後者の要素が強い。
仮想通貨の場合、前者のような経済活動が生み出す価値の裏付けがない。一方で、その供給量がルールで制約されているので、将来に決済のツールや資産運用の対象として需要が増えるとの期待が勝れば、2017年のように、値を上げる。このため、相場上昇要因としては、例えばETF上場、当局や取引所の承認、巨大プレーヤーの参入など、仮想通貨の需要増につながりそうなニュースを待つことになる。逆説的に聞こえようが、新たな規制の導入が好感される場合もあろう。仮想通貨がその規制の範囲で当局からお墨付きを得たと、一定の信認を高める効果が認められる。
一転、需要増の期待がしぼむと、供給圧力に押されやすい。2018年、前年の上げ相場からの反落初期には、先行して買った投資家たちの益出し売りと、後発の高値買いした投資家たちの損切り売りが相まって、加速的に急落した。下げ相場が続くうちに、マイニング業者が保有する仮想通貨を売り出し、彼らの取得コスト(マイニングのコスト)付近まで相場が押し込まれる状況に至っている。

ポジションの作用①相場観の偏向

参加者が十分に多く、売買が活発化に行われる市場では、相場に自律的な変動パターンが現れる。相場はランダムウォークに近いものと考える経済学者は、そのようなパターンの発生に否定的である。しかし、相場に通じた人であれば、過去に作られた売り持ち・買い持ちのポジションが、市場参加者の次の行動を制約すること、そうした行動者がある程度まとまると相場形成にも影響が出ることを体感しているはずだ。
ポジションを持つだけで、人の相場観は偏る。ポジションを作る前に、6対4で買いか売りかを相当迷っていても、買いポジションを持った途端、この比率が8対2、9対1に変わる。中立的立場で考えた4の売り材料は、心理的葛藤を経て作った買いポジションに反する不快の種になる。このため、脳内で重要度のウェイトを押さえ込む心理的努力が始まる(認知的不協和理論)。買うか売るかあれだけ迷っていたのに、買った後に他人から「あれ?売らなかったの」などと言われると、4の売り材料を殊更に過小評価したり、織り込み済みで既に買い材料化しているなどと曲解した反論をする。
市場では情報交換のコミュニケーションが活発化しやすい。良い情報を他人に知らせたいという親切心より、ポジションをとる不安・ストレスにさいなまれての同調欲求、親和欲求がコミュニケーション活性化の主動因になりやすい。その際、やたら強い相場観を語るのは、既にポジションを持って相場観が9対1に偏った人だ。
まして思惑通りに相場が上がり、買いポジションに含み益が出ると、自分の洞察が正しかったとの思いが一層強められて語られる。買いポジション構築が優勢の上げ相場は、偏向を強める相場観と、それに同調する新規参入者の追随によって、トレンドが持続的に強化される。

ポジションの作用②加速と抵抗

買いポジションを持つ人には、思惑通りに相場が上がる時、上述のように強気の相場観を自ら強める面と、中立的なリスク判断より利食い売りを早めがちになる面がそれぞれ観察される。買いの同調者が増える相場は、先行者の早めの利食い売りを消化しながら、上昇を続け、市場に極端な強気が蔓延する。
逆に思惑に反して下げ相場になると、買いポジションは損失リスクそのものに転じて、心理的負担を増大させる。心理学では、相場で損失を被った人に、損切りが遅れる、あるいは損切りを見送る偏向が観察される。一方で、相場経験が十分ある人は、含み損のポジションを抱え続けると、そのストレスでまともな判断ができなくなることを知っている。このため、経験を積んだ市場参加者やプロの業者では、一定の損失を出したポジションを強制的に巻き戻して解消することをルール化している。
相場が長くもみ合って、その価格水準をコストとするポジションが市場で増大する状況を考えよう。このもみ合い相場が下抜けると、思惑が外れた買いポジションが含み損を抱える。その保有者の一部はルールに基づいて強制的にポジション解消の売りに動き、下げ相場を加速させる。他方で無頓着な相場参加者には、含み損のポジションを売ることができずに抱え込んでしまう一群がいる。彼らは、ポジションを塩漬けにして寝かせたまま、相場がポジションのコスト水準を回復するに至って、やれやれと売りに出す性向がある。つまり、下げ相場にさらされた買いポジションは、初期に下げ相場を加速させ、後に相場の戻りの抵抗となる時間差の作用が認められる。

参加者が十分に多く、売買に厚みがあり、売り買いポジションが大量に作られると、相場には自律的な変動パターンが生じる。仮想通貨市場は、2017年の急騰と18年の急落という極端な動きの後、明快な自律的パターンが形成されるほど相場に厚みがあるようには見えない。ただし、昨年中に数ヶ月続いた70万円付近、そして足元で続く30万円台の相場では、そこをコスト水準とするポジション形成が進み、若干のパターンの萌芽が観察される。現在の仮想通貨市場では、第一にイベントとニュースを待つ、第二に相場特有の自律パターンを狙う、これが実践上意味のあるアプローチ法と判断される。次回以降、この自律的パターン形成について、考察を進め、テクニカル分析の効用へと歩を進めたい。

以下次号

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