新たなビジネスの種~短期金融市場でXRP決済

2019-02-26 16:01[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 リップル

先週、R3からInstimatch Global社が短期金融市場向けのプラットフォームにR3のCorda Settlerを実装し、当日スタート取引の決済にXRPを利用可能となったと発表された。同サイトによれば、同社の従来システムでは、既に50の銀行が口座を開設、10億ドル以上のボリュームがあるとされている。確かに、為替やデリバティブの市場が電子化されていく中、短期金融市場は旧態然としたボイス・ブローカーや銀行間の電話やReuter等の2行間のチャットで取引されている。これを電子化しようとは良いところに目を付けたものだと考えた。しかし、よく考えて見ると、この事にはもっと深い仮想通貨のポテンシャルが隠されている事に気が付いた。以下、その内容についてご説明したい。

銀行の資金繰り方法

短期金融市場とは主に銀行が最後の資金繰りを行う市場だ。いわゆるインターバンク市場と呼ばれるもので、資金が余剰な銀行が不足な銀行に主に1日間で資金の貸借を行っている。約定当日に借りて、翌日に返済するものをオーバーナイト、翌日スタート翌々日エンドをトムネ、翌々日スタート翌々々日エンドをスポネと呼ばれている。何のためにこうした取引が存在するかを大雑把に申し上げると、銀行や証券会社などの金融機関が資金繰りを行う場合、国内債券の受渡は3営業日後が主流なので、顧客取引等が終了すると在庫の過不足を集計して、翌朝に2営業日後スタートのスポネで在庫債券のファンディングを行う。為替の場合、スポット取引は2営業日後受渡なので、その翌日にトムネで資金繰りを行う。そうして、最後の資金尻、主に手形の決済や国内送金、国庫への支払いなどの資金尻をオーバーナイトで資金繰りを行っている。

巨大な市場規模

これらのインターバンク市場の規模は、日銀の東京市場サーベイで言えば、オーバーナイトが中心のコール市場の残高が約20兆円、トムネやターム物が中心のユーロ円市場では円をドルに換えて運用調達するものや本支店間取引を合わせて約30兆円、同社のシステムのスクリーンを見る限り対象はCHF・EUR・USD・GBPなので、その中でUSDの代表的なオーバーナイト市場であるFF市場の1日の取引高は2月で5-9兆円ドル(NY連銀)といずれも巨額だ。XRPの時価総額は1.5兆円程度なので、本当に決済の仲介に使用されれば足りなくなる可能性がある、、、当初は単純にこう締めくくろうと思っていた。しかし、中央銀行に厳密に管理され、銀行の生命線であるオーバーナイト市場がそう簡単にXRP決済に振り替わるというのもあまり現実的ではない気がする。まあ、どこまで浸透するのかお手並み拝見といった感じか、とも考えた。

決済面の制約

そもそも、オーバーナイト市場の参加者は銀行が殆どだ。それ故、単にインターバンク市場という時はコール市場のことを指している時が多い。証券会社や信託銀行を通じた投信なども参加しているが、共通しているのは日銀当座預金に口座を保有している事だ。コール市場には生損保も一部参加しているが、日銀当預を保有しない彼らは原則として当日スタート取引は避ける。即ち、なぜオーバーナイト市場が日銀当預保有者で占められているかと言えば、そもそも当預の残高を管理するための市場であったこともあるが、その残高を動かす日銀ネット端末を持っていなければ決済が大変だからだ。そこに今回のシステムは風穴を開ける。XRPであれば瞬時に決済が完了するので当日スタート取引にも耐えうるというアイデアだ。残念ながら、現時点ではこのアイデアは不完全で、結局、資金の出し手は法定通貨からXRPに交換して送金し、受け手はXRPを法定通貨に交換する。この交換に置ける法定通貨の決済は国内の送金システム(日本で言えば全銀システム)に依存してしまう。これでは、動かす金額が大きくなったら普通預金口座を開設している銀行から断られてしまうだろう。生損保が当日スタートの資金放出を控えているのと同じ理屈だ。そもそも日銀ネットで円を決済できる銀行や証券会社がわざわざXRPを媒介させる必要は皆無だ。

USD調達の場合はニーズあり

但し、世界中で利用されているUSDの場合は、ニーズはあるかもしれない。邦銀を含め海外の銀行の多くはUSD不足で困っている。預金の多くが自国通貨建てなのに対し、海外支店での融資や投資はUSD建てであるケースが多いからだ。その穴を埋めるために邦銀は高いプレミアム金利を払ってドル建て債券を発行したり、円をスワップしてUSDを作ったり苦労している。FRBがドルを過剰に供給しているので、本来ならUSDは余っている筈だが、それはFF市場に直接アクセスできる銀行だけの話だ。それならば邦銀のNY支店がFF市場で調達して海外にある本店などに供給すれば良いのだが、あの手この手の規制があり、それも十分に機能しない。結果として、海外のUSD保有者は金利が安い米銀の普通預金に預け、海外の銀行は高いプレミアムを払って米銀からUSDを調達するケースが多い。こうした海外のUSD保有者と海外のUSD調達者の間を直接繋げることが出来ればニーズもあるだろうし、例えば邦銀の海外拠点の調達額程度であれば、そのコルレス口座を保有している米銀も目くじらは立てるまい。

新たなビジネスチャンス

しかし、ポイントはこのシステムがUSD調達に有用だという事ではない。米国以外のUSD保有者と調達者を繋ぐ必要性は従来から存在していた。しかしSWIFTやコルレス決済などの決済面の制約から当日スタートの取引は殆ど見られなかった。即ち、決済速度の向上がオフショアにおける当日モノのUSD貸借市場という新たなビジネスを可能としたことだ。インターネットの登場によって取引コストが低下した結果、様々な新しいビジネスが生まれた。ネット販売や自転車での出前サービス、地方のコールセンターや海外へのアウトソースなど従来の電話やFAXによる通信・取引コストでは考え難かった。仮想通貨の登場により取引に係るコストは手数料だけでなく決済スピードも革命的に低下させることにより、従来は不可能と思われた様々なビジネスが生まれる可能性があるということだ。今回は、インターバンク市場を銀行以外に開放できるというアイデアが出て来た。以前、R3によりトレードファイナンスのプロセスを電子化できれば画期的と申し上げたが、これはSWIFTとコルレス決済という制約の下での話で、電子化した船荷証券と代金相当の仮想通貨をサイドネットでアトミックスワップしてしまえば信用状そのものが不要となる。この様にXRPの数秒という決済スピードは我々がまだ気付いていない新たなビジネスチャンスを産み出す起爆剤となる可能性がある。20年前に我々の殆どがGAFAのビジネスモデルに気付いていなかった様に。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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