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相場としての仮想通貨 ⑤テクニカルに読む相場動意の練れ方

2019-03-04 11:09[ 田中泰輔

田中泰輔の通貨にまつわる仮想 仮想通貨 暗号資産

前回のポイントと補足:加速・引き戻し・抵抗

前回、売買が十分活発な市場では、既存の売り・買いポジションが市場参加者の行動を制約し、相場に自律パターンが現れうると解説した。
人の相場観はポジションを持つだけで偏る。買い持ちすれば自ずと強気を強調する。不確実な相場環境の不安から情報交換を活発化させる人々は、ポジションの既保持者から強い相場観を聞かされて、つい同調する。同調買いが増え、実際に相場が上がると、皆自らの洞察の正しさに自信を強める。こうして、動意いた相場は自らその流れを強化する。
保ち合い相場でもポジション起因の動意がある。保ち合う水準をコストとするポジションが形成され、何らかの弾みで相場がそこから離れる時、逆ポジション保有者の一部が損切りルールに基づくポジション解消に動き、相場を加速させる。次に順ポジション保持者が生じた含み益の利食いに動き、相場をコスト水準方向に戻そうとする。一方、損切りされずに塩漬けになった逆ポジションは、相場回復で含み損が解消されると巻き戻しに動きがちなため、コスト水準が相場の抵抗になる。つまり、保ち合い相場水準をコストとするポジションの塊は、相場の上放れ・下放れに際して「加速・引き戻し・抵抗」の作用をもたらす。

相場の小動きと大変動の頻度

相場では、正規分布が示すより、小動きと大変動の出現頻度が高い。行動学によると、相場がポジション・コストから放れる時、逆ポジションの損切りより、順ポジションの利食いが早く出やすいバイアスがある。このため、ポジションが形成されると、そのコスト水準に相場を引きつけようとする力が働く。これを小動き相場の頻度を高くする一因と考える。
逆に、動意付いた相場は自らトレンドを強化する(前段で解説した)。また、あるコスト水準に大きなポジション塊が形成され、特定のコスト水準付近で形成された後、その水準を離れる相場動意が生じる時、ロスカットの連鎖が値動きを加速・増幅しうることも、前段で解説した。こうした相場の変動率は、正規分布が示唆するレベルをあっさり越えてしまう。
正規分布の世界は、原子や分子がランダムに動くように、市場の人々も相互作用がなく独立して動くことが前提になっている。オプション、ポートフォリオ、リスクに関する精緻な市場理論は正規分布の世界を前提に構築されたものが多い。しかし現実には、理論が通用しない大変動の事例が頻出している。
筆者は相場に係わった初期から、市場参加者の相互作用、同一行動の連鎖の強烈さを数多く体験した。平時でも、独立した原子・分子というより、互いに粘着する納豆粒のような市場参加者像をイメージしたものだ。容器に収まった納豆が互いに引き合ってまとまっている状況が保ち合い相場。容器が傾いて少しまとまってこぼれ出ると、ずるずると連なって出て行く。あまり一般化できる喩えとは考えないが、正規分布に基づかない思考回路が、相場の予測分析にしばしば役立った。

移動平均で読むポジション

相場には保ち合い(小動き)と傾斜(変動)が頻出する性向がある。保ち合いとポジションの係わりの捉え方は既に述べたが、動く相場とポジションはどう捉えるか。最もシンプルなツールに移動平均がある。
単純化して考えよう。平均的にデイトレーダーがポジションを一日3回転し、過去8時間の移動平均はざっくり彼らのポジションの平均コストと考える。彼らの買い先行で上げ相場の時、相場水準とこれに遅行する移動平均水準のギャップは、平均的ポジションの含み益と見なせる。
ギャップ(含み益)が生じた当初、トレーダー達は自らの洞察の正しさに自信を強め、同調する買い手を招き入れ、上げ相場に弾みを付ける。やがて、ギャップ拡大(既存ポジションも含み益増)は、彼らの利食い売り圧力を高め、一方で、新規参入者に買いを躊躇させるに割高感をもたらし、相場の自律調整に向かわせる。
実際に相場が下がると、平均コスト水準の移動平均付近までは益出し売りが出やすく、速やかに下がる。しかしここでコスト割れでの売り手の躊躇と、新規参入者の買いの値頃感から、相場が下支えられやすくなる。
もし下げ相場が勢い付いて、移動平均を割り込む事態になると、彼らの平均的ポジションは含み損に転じてしまい、当初はロスカットで下げを加速し、相場の戻りではコスト(=移動平均)水準が売り出動の抵抗になる。
数分~数時間、1日24時間、1週5日、月20~25日、四半期70日程度、100日、200日と、様々な期間の移動平均から、その期間に対応する行動の市場参加者のポジション・コストを想定すると、どの種の人たちが含み益で気持ちよく(含み損で苦しんで)相場に係わっているか、彼らはどの相場水準で行動を変えうるかをイメージする指針になる。

仮想通貨相場の練れ方

長々と相場分析の基本を述べてきた。実は、こうした相場の自律パターンのテクニカルな現れ方から、様々な市場の価格形成がどの程度練れているかを観察している。
この点で、最近の仮想通貨相場を視ると、厚みある市場参加者のポジションが対峙して生じる自律パターンは限られる。動意の背景を推察できる相場は、①マイニング業者の折々の大口売りによって彼らのコスト水準付近に押し込まれる、②そこで相場が保ち合うと大手の買い(ないしは買い戻し)で値が数パーセント飛ぶ、③仮想通貨の普及にポジティブなニュースやイベントに反応する、などだ。
相場に臨むスタイルは様々だ。仮想通貨やブロックチェーンなどフィンテックの未来へ期待を抱いて、長期保有する投資家もいるだろう。目の前の相場で巧く立ち回りたいと考えるなら、そこで実際に稼働している動意メカニズムを冷徹に見据えて臨む必要がある。

田中泰輔 (たなかたいすけ)

田中泰輔リサーチ 代表

為替・世界情勢分析の重鎮。35年間に米欧日メガ金融機関9社を転籍し、トレーダーからチーフ・ストラテジストを歴任した、経済・市場・行動をつなぐ戦略立案の第一人者。内外主要アナリスト調査で20年以上トップ級に選出され、国内では日経ヴェリタス金利・為替部門2010~14年第1位など。「相場は知的格闘技である」、「マーケットはなぜ間違えるのか」等の著書で、日本の市場行動学の草分けとしても知られる。18年8月より現職。

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