ブロックチェーンの未来予想図~xRapidから年金・介護まで

2019-03-14 13:53[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン リップル

(要約)
・経産省の描く未来像は現在進行中の案件を延長したものが多い印象。識者は非中央集権に着目し、新たな経済圏の誕生を予想。現代の中央集権的な社会経済構造の行き詰まりが背景か。

・これらに対し、ブロックチェーンで出来るものでなく、解決して欲しい課題こそがキラーコンテンツになり得るという視点で、ブロックチェーンの未来の活用像を予想したい。

・金融面では送金・トレードファイナンスではXRPが先行。世界通貨的役割を担う仮想通貨が誕生する可能性も。また不動産のトークン化で取引の活性化が図れる。

・海外では貧困対策に仮想通貨による送金が期待されている。国内的には少子高齢化・財政赤字・地方再生が喫緊の課題。

・ふるさと納税の返礼品を地域通貨にすれば二重のお得感で観光客を呼び込める。診療内容を可視化するカルテの電子化・共有化は医療費抑制により財政悪化の一助となる。

・複雑な介護保険こそトークン化のメリットがある。更に年金をブロックチェーンで管理しスマートコントラクトすれば、全国300か所以上、2万人を擁する年金事務が大胆に簡素化され余剰となる資源を同じく厚労省管轄の少子化対策に投入すれば一石二鳥だ。


3月12日のDaily Reportでお伝えした様に、世界最高峰828メートルのビル、ブルジュ・ハリファを開発したドバイの政府系不動産開発業者エマールグループが今年末までにイーサリアムベースのICOを計画しているとArabian Businessが伝えました。記事では詳細は不明だが、何でも彼らが運営する不動産、ショッピングモール、エンターテイメント、医療施設、オンラインショップなどで利用できるそうです。今回のトークンとは関係ないかもしれませんが小職がこのニュースに注目したのは不動産の証券化がブロックチェーンの有望な応用の一つだと考えるからです。また不動産の分野では登記がブロックチェーンの応用先として有望視されています。ブロックチェーンは20年前のインターネットに例えられる事が多いのですが、20年前に我々の誰もGAFAのビジネスモデルに気付いていなかった様にどういった分野に浸透し、どの様に世界を変えていくのか楽しみでもあります。そうした未来予想図を描きながら投資できるのが仮想通貨投資の醍醐味だと思うのですが、今回は小職が個人的に期待している分野をご紹介したいと思います。

経産省の描く未来予想図

まず、小職の意見をご紹介する前に有識者の皆さんの意見をご紹介したいと思います。まず、経産省が2016年4月に発表した「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」では同技術のユースケースとして5つの分野を紹介しています。①価値の流通・ポイント化/プラットフォームのインフラ化 ②権利証明行為の非中央集権化の実現 ③遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現 ④オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現 ⑤プロセス・取引の全自動化・効率化の実現 などです。具体的には、地域通貨やポイントサービスなどによる新たな経済圏の創造、不動産登記や電子カルテなどによる社会の効率化、デジタルコンテンツ配信やライドシェアなどC2Cなどによるサービス提供者と消費者との融合、サプライチェーンの可視化、スマートコントラクトによる事務効率化などを挙げています。


(出典:経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」)

識者の描く未来予想図

一方、CoinDesk Japanの創刊特集「ブロックチェーン“価値革命”の新時代へ」の中で慶應大学坂井豊貴教授はブロックチェーン技術と相性の良い分野としてお金や証券、権利、不動産などを挙げ、国家が発行する通貨と仮想通貨とが共存する未来予想図を描いています。起業家家入一真氏は資本主義のレイヤーの中にトークンエコノミーという小さな経済圏がいくつも存在し、国だったり会社だったりに縛られず所属する経済圏を自分で選択できる未来を描いています。芥川賞作家の上田岳宏氏は、ブロックチェーンがもたらす未来というより、今までは国家が支えないと通貨に価値が生まれなかったのに対し、分散処理によってみんなで支えていく仕組みが登場したことに世相の変化を感じている様です。鎌倉資本主義を提唱する柳沢大輔氏はいろんなお金を各人が持つ時代が到来するとし、地域通貨によって多様性に富んだ社会の実現と東京一極集中を覆す面白い未来を描いています。Gumiの國光宏尚会長はGAFAやAIによるインターネットの中央集権化に非中央集権のブロックチェーンが対抗しバランスを取る様になるとし、近々「ブロックチェーンが世の中の役に立つカタチ」が見えてきて「やっぱりブロックチェーンはすごかった」となると予想しています。LINEの出澤剛社長は、スマホの普及にLINEが貢献した様に、キラーアプリが出て普及が一気に進むと予想、利用者自体がサービスを強くしていき、それに対するインセンティブ(報酬)が与えられるという仕組みで、サービスと個人との関係性はこれから変わっていく未来を描いています。起業家の孫泰蔵は電子政府化が進んだエストニアのようなシームレス・ソサイエティが近未来図だが、島国である日本には馴染まない。しかし信用経済が発達した日本ではトークンエコノミーが本格化し易いと考えている様です。

出来ることでなく、解決して欲しい課題

小職なりに大胆にも纏めると、経産省は現在開発中の案件の延長線上の未来図を描き、識者の方は一極集中の中央集権的な社会経済構造に対するアンチテーゼとして分散的な経済圏が複数共存するような社会経済構造を描いている気がしています。確かに、現代の増収増益と生産性の向上を良しとする社会経済に大なり小なり息苦しさを感じているのは小職だけではないと感じています。では、本題である小職はどう考えているのか申し上げたいと思います。上記、特に経産省はブロックチェーンで出来る事をベースに未来を予想していると考えていますが、小職の場合はブロックチェーンで解決して欲しい課題をベースに感がます。何故なら、社会が切実に望んでいる事こそ、普及が進み、キラーコンテンツになり得るからです。そういう意味では、識者の皆さんは現代社会の息苦しさこそ最も切実な課題の一つでその解決策をとお考えなのかもしれませんが、抽象的過ぎて小職にはあまイメージが湧きません。そこで、以下では個別具体的にお話させて頂きたいと思います。

ブロックチェーンのブレークスルー

ブロックチェーン技術のブレークスルーは書き換えのできないデジタルデータが誕生した事、それによってデジタルデータが価値を持つことになった事、いわゆるInternet of Value、主にこの2つだと考えています。非中央集権というパブリックチェーンのイデオロギーもBTCの基本理念で重要だとは思いますが、リバタリアンの少ない日本にいるせいか、パブリックもプライベートも一長一短だと考えています。その2つをベースに考えると、将来ブロックチェーンによって解決すべき課題は①重要書類が多い為、電子化が遅れていて②非常に手間がかかっており③主にお金が絡むものだと考えています。こうしたものはブロックチェーンでの代替ニーズが高く、解決策が提示されれば一気に普及が進むからです。

XRPが世界通貨に

まず、金融面では、XRPを中心に開発が進んでいる海外送金でしょう。SWIFTによる支払い指図をブロックチェーンで代替し、そしてコルレス決済をXRP決済で代替するもので、取消不能電文で、ネット上での価値の移動で、かつ現状は手間も時間もコストもかかっているという点で仮想通貨に代替される1番手と目されています。ただ、クリーン送金に関しては比較的単純で従来のシステムが古すぎたことに起因する不都合が多く、仮想通貨以外の解決策もあり得て、次世代送金システムを巡って競争は激しくなると考えます。今のところはxRapidを擁するXRPが圧倒的に先行していますが、まだ決着が着いたとは言い難い状況です。ただ、小口の出稼ぎ労働者の本国送金ニーズを中心に普及が進み、行きつく先は銀行を経由しない送金や仮想通貨建てのインボイスなどもあり得るかもしれません。そうなると、企業が手元流動性の一部を仮想通貨で保有し、仮想通貨が世界通貨の一つとなる日も考えられます。この単純なクリーン送金に対し期待感の大きいのがトレードファイナンス、すなわちLC付貿易決済です。別稿でご紹介した通り、この電子化には輸出手形の振り出し、荷受け証券、インボイス、パッキングリスト、場合によっては保険証券、売買契約書、その他証明書と書類作業が大変なだけでなく、偽造されても困る書類が多く、これらを一気に電子化できれば画期的でしょう。

証券化による不動産市場活性化

上記以外に金融関係で書類の束に困っている取引は少なくありません。小職が思い当たるのは不動産などの証券化だ。理想を言えば不動産の登記、証券化に絡む各種契約、そして受益権まで一纏めにスマートコントラクト化できればどれだけ楽になるでしょうか。REIT市場も様変わりするだけでなく、不動産市場に資金も入りやすくなるし、例えば東京スカイツリーがトークン化されたり、ビッグサンダーマウンテンがトークン化されて年1回ファストパスが貰えたりすれば楽しくなりそうです。他にも債券の流動化などにおいても威力を発揮するかもしれません。不動産で言えば、日本の場合、例えばマンションなどが竣工前に完売しても購入資金は引き渡し時まで支払われません。ところが、タイなどでは全くの計画段階から実際に売買され始められます。この場合、完成時の販売予定価格から何割引きか値引きして売り出します。Equityに似た取引で、その資金で建築業者は費用を賄い、当初の購入者は竣工すれば利益を得ます。人気物件であれば竣工前に転売されることもある様です。こうした取引をトークン化すれば取引も活発化し、クロスボーダーの不動産投資も活性化することでしょう(不動産価格は上昇すればいいという訳でもありませんが)。

地域通貨を返礼品に

金融以外ではどうでしょうか。世界的には貧困が最大の問題でしょう。これに関しては、出稼ぎ労働による所得移転が期待されているのですが、その過程でブローカーのピンハネが問題視されています。同時に高すぎる銀行手数料が貧困問題解決を妨げていると世界銀行などが指摘、仮想通貨を用いた送金に期待が寄せられています。では、国内では何が問題でしょうか?少子高齢化、財政赤字、地方再生辺りが喫緊の課題ではないでしょうか。まず、地方再生には言うまでもなく地域通貨が有用でしょう。やはりプレミアム商品券といった紙のサービスは使い難く、トークン化した方が様々なサービスを展開し易いでしょう。政府も消費税対策にキャッシュレス化によるポイント還元を検討している様です。更に、色々と議論のあるふるさと納税も地域通貨で還元してしまえば、発送料もセーブでき、観光客の流入も期待できます。小さなお子さんのいる家庭なら遊園地がある市町村の地域通貨をお得に入手できれば、ならば行ってみようかということにもなるでしょう。ふるさと納税+トークンの何らかのサービスで2重のお得感があれば、そこそこ需要を喚起できるのではないでしょうか。

カルテ電子化による医療費抑制

日本の財政赤字に付ける薬は無い状況ですが、一方でその多くが義務的支出、いわば社会保障関係費が占めています(社会保障費には少子化対策など裁量支出も一部含まれています)。平成31年度予算で言えば一般歳出約60兆円のうち約34兆円を占めており、前年から1兆円増えている様です。内訳では年金と医療費の国庫負担金が各11兆円で過半を占めています。更に団塊の世代の後期高齢化入りで医療費と介護保険料の急増が予想されています。こうした中、カルテの電子化とその状況を自分で管理、もしくは医療機関間で共有できる仕組みが出来れば少しは改善するかもしれません。現在の仕組みでは病院を替わるには紹介状で治療内容を説明してもらう必要があり、その病院を替わりたいのに紹介状を依頼する事は時としてストレスです。そうなると面倒なので転院先で検査をやり直したり、セカンドオピニオンも取り難くなりがちです。またカルテを患者が管理することで、過剰な検査や薬の投与といった保険点数稼ぎなどをけん制することも可能になるかもしれません。この程度のことがどこまで効くかは不明ですが、カルテを病院が独占して患者が見たければ開示請求をするという制度にも違和感があります。海外では電子カルテ化や医療機関間の情報共有が進んでいるそうで、OECDによる電子カルテのデータを医療の質向上に活用しているかとういう調査で日本は最下位だったそうです。

介護保険と年金記録のトークン化・スマートコントラクト化

最後に高齢化ですが、ここに最も重点を置きたいのですが、介護保険を中心とした高齢者向けサービスをトークン化して欲しいと切に思います。介護保険の仕組みやサービスは複雑で専門のケアマネージャーと面談してメニューを決めていきます。個人的には保険や投信の相談窓口業者はそこら中にありますが、世の中で本当に求められているのは介護の窓口だと思っています。更に、本命は年金記録のブロックチェーン化です。支払いまでスマートコントラクトすれば、日本全国の年金事務所が余ってくるでしょう。流石に年金を仮想通貨で支払う訳にはいかないので日銀がCBDC(中銀発行デジタル通貨)を発行するのはどうでしょうか。年金事務を効率かつ適正化するためならば発行する社会的意義が十分あると思います。全国300か所以上ある事務所のうち余ったスペースは保育所に再利用し、現在2万人いる職員の内、余った人材は人手が不足している児童相談所に回せば少子化対策にもなるかもしれません。そう簡単に変えられるものではないかもしれませんが、日本で最もお金がかかっている医療、介護、年金と言った分野が電子化の最も遅れている分野の一つだという事はお分かり頂けたのではないでしょうか。

最後に

因みに、前出の上田氏はビットコインも文学もキモは「わからなさ」だと指摘しており、「よく分からないまま、2回読み通せてしまうところが、このニムロッドの凄さ」とした小職の読後感もまんざらでもなかったのかもしれません。ビットコイン小説も未来も先がわからないから面白いのでしょうか。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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