IBM・ステラ連合がWorld Wireを発表。xRapidの勝算は?

2019-03-20 21:15[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 リップル ステラ

(要約)
・IBM・ステラ連合がIBM Blockchain World Wireを発表。xRapid、JPMコインと並び次世代送金システムの役者が出揃った。

・IBMがハイパーレッジャーよりステラを進めたのはxRapidの登場が影響しているか。これにより送金のデジタルトークン化の方向性が強まった。

・一方、トークン化を見送ったとされるCITIとJPMにはドル決済を手放したくないという本音が透けて見える。

・IBM・ステラ連合は複数のデジタルアセットを利用でき、銀行にも参加を呼びかかけるなど、汎用性もあるが、同床異夢の可能性も。

・天下取りの行方はまだ分からないが、作り手だけでなく、ユーザーの事情や社会的意義に応えられる技術こそが生き残ると考える。

次世代送金システムを巡る3つ巴の争い、役者が出揃う。

月曜日、IBMとステラ(Stellar)社はシンガポールでのイベントで新たな送金システムIBM Blockchain World Wireを発表した。これはステラのブロックチェーンを利用し、送金を行うもので、送金には送金内容や決済指示などの伝達機能と銀行(または送金業者)間で資金を移動する決済機能があるが、前者をステラ社のブロックチェーンで、後者をステラ社が発行するトークンXLMもしくはステーブルコインの一種であるStronghold USDもしくはそれ以外のデジタルアセットを用いるものとされている。以前、次世代送金システムは先行するXRP連合に対しJPM帝国が追撃、ITの巨人IBMはハイパーレッジャーとステラ連合の2方面作戦を採っているとご紹介したが、いよいよ後者が登場した訳だ。これで役者が出揃った形だ。貿易金融や食品のトレーサビリティーなどでハイパーレッジャーを活用してきたIBMが送金に関してはステラ社を選んだのには、xRapidの実用化が影響していると考える。即ち、ハイパーレッジャーで送金の伝達機能だけ代替しても、時代のスピードには追い付かないと判断したのかもしれない。xRapidにも、JPMコインにも、World Wireにも共通するのは、次世代の国際送金の決済はデジタルトークンを使わざるを得ないという方向性だろう。

ドル決済を守りたいCITIやJPモルガン

ただ、そうは考えていない銀行もある。Coindeskによれば、CITIはJPMコインの様な銀行主導のデジタルトークンの計画を取り止めた。記事によれば同行はSWIFTを中心とする既存システムをブラッシュアップする事に注力する模様だ。こうした判断の背景は分からないが、以前ご紹介したJPMコインの弱点、すなわちJPMのコルレス口座間の決済であればJPMコインは必要ない、という点に辿り着いたのかもしれない。小職がそう考えるのは、両行とも同じ考えの上に立っているからだ。すなわち、ドルのコルレス決済だけは守りたいというものだ。話はそれるが話題のBinanceのトークンセールで参加できない国にアフガニスタンや北朝鮮に交じってアメリカ合衆国が入っていることをご存じだろうか。日本が入っていないのは国内でのICOは厳しく規制されているが、日本の居住者が自主的に海外に投資することまでは日本の当局は取り締まれない。しかし、アメリカの場合、税制面を含め様々な問題で域外適用を求める場合がある。その強制力の源の一つがドル決済を握っている事と言われている。世界中のドル決済は最終的に米国のFedwireで決済される。ここからはじき出されたら銀行も国家ですら国際社会の中で生き残ってはいけない。米銀はこの最終的な資金尻を押さえていることで大きな利益を得ており、そう易々とこの特権を手放そうとしない。逆に言えば、両行の描く次世代システムの限界を示している。

IBM・ステラ連合とxRapid

一方、IBM・ステラ連合はどうか。彼らの説明によれば欧州・アジア地区から先行して導入し、北米は最後となるそうだ。これは上記の点を意識しての作戦と推測する。xRapidとの違いで言えば、決済トークンがXRPに限定されていない。BTCやXRPでも可能とされている。そのようなシステムを作る必要があるのかは不明だが、ここに若干の隙間風を感じる。すなわちIBM側はStrongholdUSDというステーブルコインを決済用に採用した。しかし、ステラ社が発行するXLMも使用可能としている。これはxRapidの銀行利用が進まない理由として以前、説明したのだが、送金の媒介がXRPになってしまうと、法定通貨との交換にあたるリクィデティー・プロバイダーが仮想通貨交換所となってしまい、銀行の為替収益に影響が出る可能性がある。そこで、IBMはステーブルコインであれば彼らの為替収益を守れると考えたのかもしれない。そういう忖度無しにステーブルコインの方が価格変動を抑えられるという考えだったのかもしれない。いずれにせよステーブルコインを採用しておきながらXLMも使用するとはどういうことか。これは共同開発者であるステラ社、ジェド・マケーレブに忖度した可能性もある。このマケーレブ氏は元リップル社のCTOで、同社を去ってステラを創業した人物で、いわばリップルのライバルなのだ。どういう事かというと、このチームはIBMとステラの共同チームで、顧客も送金業者だけでなく銀行にも参加を促している(もちろんリップル社もですが)結果、若干、良く言えば汎用性があるが、同床異夢の部分が残っている事も事実で、これがXRP一筋のxRapidと大きく異なる点なのかもしれない。

デジタルトークン化の流れ

この3者の天下取りの行方はまだ分からないが、送金面のデジタルトークン化の流れは強まったと言えよう。またWorld Wireはまだ始まってもいないプロダクトで、実証実験を経て商用利用にまで進んでいるxRapidが圧倒的に先行していることは事実だろう。市場参加者は、XRPにせよ、XLMにせよ、自分が将来こうなるという未来にベット出来る事がアルトコイン投資の醍醐味と考える。古くはベータとVHS、MacとWindows、最近ではBlackberryとiPhoneなどの規格争いは技術的に優れた方が勝つといった単純なものでは必ずしも無かった。しかし、重要なのは「三方よし」、すなわち作り手・売り手の事情だけでなく、ユーザーの事情、さらに社会的意義に応えられるものこそが生き残ると考えている。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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