(MUFG)コインを今年後半に実用化へ~そのデジタル戦略とは

2019-04-10 19:55[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産

(要約)

・MUFGが年後半にメガバンクとして初のブロックチェーンを利用したトークンの発行をする方針。みずほFGのJコインペイはブロックチェーンを利用せず。

・(MUFG)コインはステーブルコインの一種だが、為替業務との位置付け。この解釈で行くとテザーなど法定通貨担保型ステーブルコインは現状では国内の交換所では扱えない。

・キャッシュレス化には他にも解決策はあったのに、何故、(MUFG)コインがブロックチェーンを利用する必要があったのか。

・企業がオリジナルコインを発行する際のプラットフォームを提供でき、コモデティーのトークン化など顧客基盤を活かしたビジネスなど可能性が広がる。

・一方でB to Cはリテールのノウハウに優れた競合が多く、発想の転換が必要か。

 

メガバンク初のブロックチェーン・トークン

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の三毛社長がブロックチェーン技術を基盤にした独自のデジタルコイン「(MUFG)コイン」を今年後半に実用化する方針だと朝日新聞が伝えた。実現すれば、大手銀行がブロックチェーン技術を用いたトークンを初めて発行する事になる。昨年12月に日経新聞がスクープし話題となったみずほFGのJコインだが、当初のJ-Coin構想では仮想通貨/デジタルコインをインフラとするとしていた事もありメガバンク初のブロックチェーン・トークン発行かと盛り上がったが、名称をJコインペイと改め、pringというサービスを使用、ブロックチェーン技術を使用していない事が判明した。昨年12月27日に「メガバンクがデジタル通貨を発行する意味」というトピックの中で「ブロックチェーン技術を利用しつつ、1(Jコイン)=1円で固定された、いわゆる前払式決済手段にあたると思われる」と申し上げたが、前段のブロックチェーン技術は結局使用しなかった。また、後段の前払式決済手段と言う部分も正確には資金移動にあたると考える。この点を以下、ご説明申し上げる。

銀行コインは為替業務

従来のサーバー方式であれブロックチェーン技術を用いたデジタルトークンであれ、デジタルマネーは、法定通貨建てのものとそうで無いものに分かれ、後者で一定の条件を満たしたものが仮想通貨(暗号資産)と呼ばれている。従って、ブロックチェーン技術の使用の有無に関わらず、MUFGが1コイン=1円を保証しているコインは少なくとも日本の法律上は仮想通貨(暗号資産)として扱われない。そうなると、次は、プリペイドカードやSUICAの様な前払式決済手段なのか、資金移動に使用されるのかによって若干扱いが異なってくるが、細かい違いは抜きにして、(MUFG)コインもJコインも法定通貨に交換も可能で送金に使用できるので資金移動業による規制を受けることになると思われる。とはいえ、銀行はそもそも為替(送金)業務を認められているので本体が発行するなら新たな登録などは不要で、亀澤 宏規CDTO(Chief Digital Transformation Officer)は(MUFG)コインを銀行法における為替業務と位置付けている。

国内交換所でステーブルコインは取り扱えない?

仮想通貨(暗号資産)、前払式決済手段、資金移動業と何やら耳慣れない資金決済法上の専門用語が続いたが、実はここに大きな論点が隠されている。すなわち、テザーなどのステーブルコインはどれに当てはまるのかだ。以前、金融庁が「原則として、法定通貨に”ペッグ”されたステーブルコインは改正資金決済法の仮想通貨に当たらない」とコメントしたとの報道が出て注目を集めていた。もし法定通貨を予め預け入れて、発行者が法定通貨との交換を保証するテザーやサークルなど現行のステーブルコインの多くは仮想通貨(暗号資産)ではないとされる可能性が高いという事を意味する。何が言いたいかというと、(MUFG)コインなどのブロックチェーン技術を用いたステーブルなトークンが仮想通貨にカテゴライズされると仮想通貨交換所登録が無ければ法定通貨に換金できない(従って銀行が扱えない)が、逆に仮想通貨でないとなると前払式決済手段や資金移動業の登録を持っていない仮想通貨交換所では取扱が出来ないという結論となる。こうした判断は個別のトークン毎になされるべきだし、Sagaなどアルゴリズムによって法定通貨との連動性を確保しようとするものは仮想通貨(暗号資産)とみなされるべきとの見方もある様だが、少なくとも海外で盛んな法定通貨担保型のテザーやサークルなどとBTCなどとの交換が日本では難しくなった事を示している。一方で、現行の資金移動業登録では送金金額の上限が100万円とされている。現行ではこれを上回ると銀行免許が必要となるが、この上限を引き上げようという動きも、こうしたトークン経済拡大を視野に入れたものかもしれない。

ブロックチェーン技術を使用する必要はあるのか?

ところで、(MUFG)コインに戻ると、いくつか課題が見えてくる。そもそも何故、わざわざブロックチェーンを使用する必要があるかだ。預金口座と電子マネーによる決済を結びつけるならば、既存のDebitカードをスマホに入れてしまえばいいだけだ。クレジットカード決済のプラットフォームを使用するのが嫌ならば、QR決済に参入すればいいだけで、ブロックチェーンを用いてトークンを発行する必要は無い。同社が2月に開催したMUFGの「デジタルストラテジー」を語る、証券アナリスト、機関投資家向けセミナーのプレゼンテーション資料によれば、「キャッシュレスの手段を超えた、エコシステムの構築を展望」していることが理由らしい。一見して意味が分かり難い。(MUFG)コインのネットワーク上に流通、交通、通信、教育など各事業者が様々なアプリの開発をしていくとしている。昨年10月のIT・エレクトロニクス見本市CEATEC JAPANでの説明によれば、例えば時差出勤に協力したらコインが貰えるとか、そうしたアプリなどを開発をしていくそうだが、まだイメージが湧きにくい。ただ、前出の「デジタルストラテジー」の同じページの記載のあったカラードコインサービスは可能性を秘めていると考える。

コモデティーのトークン化

すなわち、(MUFG)コインのプラットフォーム上で企業がオリジナルコインを発行できるサービスだ。詳しくは別稿に譲るが、ブロックチェーンの食品などのトレーサビリティーへの応用はそれだけならどこまでニーズがあるかやや疑問だったが、実はコモデティーをトークン化して投資や資金調達に応用できる可能性がある。実用化には色々課題があろうが、そうしたサービスが一般化してくれば、どのチェーンを利用すべきかが問題になってくる。こうした際にはMUFGグループのB to Bの顧客基盤と信頼がいかんなく発揮されると考える。更に他のメガ2行に先行しているのも強みだ。今回の報道を機にMUFGのデジタルストラテジーを調べてみると、技術活用の部分では3つの重点領域の中でも最も大きなスペースを占めており、同社のブロックチェーン技術にかける本気度が伝わってくる。

B to Cは競争が激しい

一方で、QR決済、B to Cではどうだろうか。この点は以前のトピックで申し上げた通り、QR決済の拡大に関してはYahooや楽天など、どうやったら利用者が増え、モノが売れるかについてのノウハウがある企業に一日の長がある。これに対して、長く寡占市場に浸っていてメガバンクはどうしてもマーケティングでは叶わない部分があると考える。更にメガバンクにとってのキャッシュレス化は自らのATM費用の削減という意図があり、どこまで顧客本位になれるか疑問な部分がある。その為にはかなり思い切ったマインドの転換が必要となるが、個人的にはあの巨大な官僚組織の中でこうしたイノベーションをどう実現していくのかお手並み拝見したい。一例を挙げるとCOINという名称だ。本稿では分かり易くするために(MUFG)コインと表記したが、普通名詞のCOINを使った結果、消費者からすれば他のコインとの区別が紛らわしくなってしまっている。本当にB to Cに注力するならば、こうしたところから発想の転換が必要だろう。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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