Binanceショックに見る日本の規制の先進性

2019-04-16 14:16[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン ビットコインキャッシュ

CZ氏が率いるBinanceがBSVを上場廃止(上場とは東証などの取引所での取り扱いを指すので正確には取扱廃止)を決定し、BSVは急落、逆に昨年11月のハードフォークで争ったBCHは急上昇した。更に、Blockchain WalletがBSVのサポートを停止、Shapeshiftも上場廃止、Krakenも廃止を検討している模様だ。一方で、こうした動きを受けてBTCを始め仮想通貨全体は大きく値を落としている。これはどういう事だろうか。

報道によればCZ氏がBSV排除の動きに出た経緯は、BSVの中心人物とされる元自称サトシであるクレイグ・ライト氏が彼に批判的なインフルエンサーに訴訟を持ち掛けていることにCZ氏が不快感を示した事による。ただ、更に遡ると昨年11月のBCHのアップグレードに際し、BCH(ABC)とBSVが激しく対立、中でもクレイグ氏のなりふり構わぬ対応は物議を呼んでいた。弊社ではこの経緯を詳細にレポートしていたのでご興味があればご参照いただきたい(自称サトシ派優勢でビットコインキャッシュ急落 急落相場の覚醒(Episode1)ハッシュ・ウォー ハッシュウォー終戦か SV価格がABCを逆転、時価総額5位へ)。今回の上場廃止の理由について同社の基準に合致しなくなったからとしている。どこがどう合致しなかったのか明確ではないが、確かに同氏が中心となった運営体制を良しとしないことは理解できなくもない。しかし、そうであれば、何故、当初の段階でそこをチェックできなかったのか。現に、日本でBSVを取り扱っている交換所は無い。最近流行りのトークンセールについても言えるのだが、上場させるだけさせておいて、後で調べてみたら、やはりダメでしたでは、利用者は途方に暮れてしまうだろう。

では、なぜ日本ではこうした混乱が生じないかと言えば、自主規制ルールにより、新規に通貨を取り扱う場合は、社内で厳しい審査を経た上で、自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会に事前に届出る必要がある。その際に必要となる12種類の書類を例としてご紹介する。これで協会の調査を経て意義が出なければ晴れて取り扱い開始となる。

(1)協会が別に作成する審査報告書
(2)協会が別に作成する当該仮想通貨の概要説明書
(3)当該仮想通貨に関して利用者に開示・提供する資料等
(4)当該仮想通貨に係るホワイトペーパーその他当該仮想通貨の内容を説明した資料
(5)当該仮想通貨の流通状況に関する資料(流通実績がある場合に限る。)
(6)当該仮想通貨に関連する事件・事故に関する資料
(7)当該仮想通貨の管理に関する社内規則や事務マニュアル等を記した書面
(8)当該仮想通貨の管理に関する社内検証を行った資料
(9)当該仮想通貨を取り扱う仮想通貨の売買等の概要書
(10)概要説明書を作成・管理する者の氏名、役職、所属部署、経歴、連絡方法を記した書面
(11)当該仮想通貨の管理者等の関係者の反社会的勢力との関係性その他マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の関連性について社内検証を行った資料
(12)その他協会が提出を求める書面又は資料

 これだけでもいかに新規の取扱いが厳格に審査されているか想像がつく。加えて、現在審議中の資金決済法改正案が可決すれば、取り扱う通貨を変更する場合は当局に事前に届出が必要となり、社内・自主規制団体・当局の3段階の事前審査制となる。また取扱廃止日の少なくとも30日前までにウェブサイトなどで利用者に周知し、廃止する旨の公告を出す必要がある。とても、オーナーの一存で新規取扱いや廃止を決める余地はない。更に、こうした通貨の取扱いの改廃は価格にも大きな影響を与えかねない。日本の自主規制ルールでは、そうしたインサイダー情報は仮想通貨関連情報として管理し、その情報を基にした交換所や役職員による売買は禁止されていることは勿論、情報漏えいの防止に努め、然るべき方法で公表しなければならない。CEOが自分のツィッターで呟くなど論外だ。時折、規制の少ない海外の交換所を良しとする論調も耳にするが、インサイダー情報の規制も無い交換所を利用して違和感はないのか不思議になる。先回りしてBSVを売っていなかったと何故言い切れるのだろうか。

今回の様な事象が発生すると、一見厳しいとみられる日本の規制は利用者保護を考え抜いた上で、うまく設計されていることに気づかされる。一方で、ブロックチェーン技術の根幹は非中央集権制であり、規制の強化はイノベーションを阻害するという考え方も海外を中心に根強くあるのも事実だ。ただ、考えて欲しいのは多くの規制は市場を適正化して利用者を保護するためにある。すなわち、規制緩和は、自由な社会を実現する一方で、民間企業のやり放題を許容する。日本では、民間に任せるより政府がルールを作ることに抵抗感はないかもしれないが(因みに自主規制団体と当局の2階建てとなっている)、海外では必ずしもそうではない国もあろう。しかし、国境を跨ぐ仮想通貨の世界を社会の一員として認知させるにはルールが必要であり、日本の先進的なルールを海外に広げていく努力が不可欠だと考える。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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