相場としての仮想通貨 ⑥マーケット・リアリティ

2019-04-23 10:41[

田中泰輔の通貨にまつわる仮想 仮想通貨 暗号資産

仮想通貨相場は4月2日に急反発した。「相場としての仮想通貨」について、自律的なパターンとリズムの形成を観察してきた。正直なところ、相場は唐突に跳ね、目にしていた情報も動きを追認するものばかり。逆にマイナスのニュースも混在しており、相場を分析する具体的な材料としては決め手を欠いた(相場分析者として、決め手となる情報をここまで見いだせないと、インサイダー情報の扱いについてのルール整備が気になるところではあったが)。一方、テクニカルには、今回の相場の動意は、自律的なパターンとリズムが生まれる下地を、限定的にせよ、うかがわせるものだった。

相場急伸のテクニカル探偵

相場にはテクニカルに、価格がある水準を越えたから急上昇、越えなかったから反落という分水嶺が、そこかしこにある。このことをご了解いただきたい。テクニカルのシグナル通りに相場が上がったという場合は良い。しかし、買いシグナルは騙しで結局下がったといった後講釈的な再評価は付き物と心得てほしい。当然、テクニカル分析を相場の奥義や予言のように考えるのは過大評価である。逆にシグナルが外れたからといって、テクニカル分析を役立たずと断じることにも賛成しない。
私は、多くの市場参加者が売り買い両サイドで活発に取引し、ポジション形成が進むと、相場に特有のリズムとパターンが生じうることを、長年観察してきた。そして、テクニカル分析の主要なシグナルの水準を、相場の定点観測していく重要ポイントと考えてきた。そこでの上昇・下降・無反応といった動意を、既存のポジション、あるいは今後形成されうるポジションを推察する手掛かりとすべく観察するのである。

昨年12月から4か月もの間、ビットコインは3~4000ドルをコア・レンジとして推移した。このレンジ内では、単発の大口取引によって相場が10%近く跳ねることが度々あり、市場参加者の厚みのなさと偏りをうかがわせた。他方で、レンジ取引が長く続くことで、この価格水準をコストとするポジションがある程度形成されたことは疑いない。特に2~3月に4000ドル水準のレンジ上限へじり高になったため、次にはレンジ内に押し返す大口売りが出現することを期待したショートの形成もあったと推察される。
4月2日にはこのショートが踏み上げられたようだ。相場は30%以上急反発した。大口取引は、売りではなく、買い仕掛けに出た可能性が指摘される。それがテクニカルなものか、何らかの買い材料があったのかは判然としない。ただ、テクニカルに意味のありそうな相場動意がようやく起こったことが重要と考えている。2017年の急騰、2018年の暴落という一方向の相場の余波が、ようやく収束するかもしれないと期待させる展開である。

情報の真偽と相場含意は違う

もっとも、相場のテクニカルな動意と、出回る情報の真偽は、はっきり区別する必要がある。同時に、情報の真偽とその相場含意も区別しなくてはいけない。どういうことか。

久々の相場上昇を受けて、米SECの承認、仮想通貨デビットカード発行計画、日本の法制化、大手金融機関・機関投資家の前向き姿勢など、ポジティブな材料が出回った。こうした材料でロングを作り、利益を上げた投資家は、相場が自分の洞察を証明したと考えがちだ。上げ相場が続くほど、好材料が次々と市場で証明されたかの話に祭り上げられてゆく。
世の中には、それが真実かどうかはともかく、多くの人が信じ込んでいることで、真実とされる「ソーシャル・リアリティ(社会的現実感)」がいろいろある。例えば、日本のみならず、近年は日本から感化されたアジアでも信じられるABO血液型性格学。科学的にはほぼ否定されながら、A型ですか、それなら保守的ですね、のように日常に定着している。
市場では相場の値動き自体が容易に、ある要因について正しいか否かの心証を形成し、権威付けしてくれる。こうして、ソーシャル・リアリティの一部というべきか、はるかに研ぎ澄まされて「マーケット・リアリティ」が絶えず生れ出ている。

ただし、出回る情報の真偽と、その相場への含意も、区別しなくてはいけない。マーケット・リアリティは、真実ではないからと無視してよい訳ではない。多くの人がそれを信じると、その材料に沿った取引が優勢になり、材料が示唆する方へ実際に相場が動く。これを自己実現相場と言う。
2017年に仮想通貨で新たな時代が来ると囃した大相場も、2018年の仮想通貨にすっかりダメ出しした下げ相場も、情報面でいえば、相場の日向側と日蔭側を交互に深入りした自己実現相場の様相が多分にあった。真偽のほどは不確かでも、市場参加者がリアリティを感じている場合、その地合いに逆らわないことが短期相場の鉄則である。

ネガティブ・リアリティを脱する兆し

昨年末からのレンジ相場での小康を経て、地道なポジション形成が進み、仮想通貨のあり方について冷静な眼が戻りつつあったことは幸いだ。今月ここまで、ビットコインは5000ドルを超えて上伸し、ボラティリティを高めながらも、値動きは小刻みで足場を固めるように上値を探っている。この値動きは取引参加者の厚みが増していることをうかがわせる。ひどい下げ相場を通じた仮想通貨へのネガティブなリアリティ強化プロセスが、ようやく終わりそうな温度感を、昨年来初めて抱いている。

以上

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