2019.5.10【ビットコイン6000ドル乗せ。その背景は?】

2019-05-10 14:32[ 松田康生

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Review

6000ドル台に乗せる

今週のBTC相場は堅調な推移。週末に65万円トライに失敗、61万円台に反落していたが、大手運用会社フィデリティ―による仮想通貨取引の近日開始、CFTCがETH先物開始に前向きといった報道もありETHが値を上げるとBTCも上昇、65万円台に乗せた。しかし、中国SNSでWechatが仮想通貨取引を禁止したこともあり6000ドル(約66万円)トライに失敗、Binanceが4千万ドルのハッキング被害を発表すると62万円台へ急落した。しかし、被害額は保険基金でカバーされる事、同社CEOであるCZ氏が直ちに事態を説明した事、また一部で懸念されたブロックチェーンの書換えも回避された事などから64万円台へ切り返した。GW中のテザー問題、GW明けのこのハッキングと悪材料をこなす相場の強さを確認した結果、ドラギECB総裁や黒田日銀総裁のネガティブな発言にも関わらず6000ドル台乗せに成功、上値余地を探る動きとなっている。

Outlook

70万円を伺う勢い

来週のBTC相場は上値は重いが底堅い、高値圏での揉み合い推移を予想する。GW前のWeeklyでは「GW中のBTC相場はレンジの下値を固めた上で、再び上限を再度試しに行くと考えている。上値の目途は昨年2月や6月の安値となる65万円近辺か」と正鵠を得た予想をご紹介した。ただ、GW明けには「この66万円の水準を頭に上値の重い展開を予想している。市場がオーバーシュートして66万円台を上抜けたとしても70万円までの間に跳ね返されて反落する」と申し上げたが、今のところ反落はしないどころか70万円を伺う勢いだ。こうした底堅さの背景に悪材料をこなした地合いの良さがある。GW中のテザー問題やGW明けのBinanceのハッキングといった昨年であったら大きく相場が崩れかねない悪材料で底堅さを見せた事が買い安心感に繋がり、またそうした材料を奇貨としたショートポジションの巻き戻しを誘発したといったところか。ただ、それだけでは半年以上サポートとして機能した60万円台を上抜けるには十分でないと考えている。

悪材料を乗り切る

ただ、テザー問題とハッキング事件後のBTC上昇の背景を考察すると、両者の評価は若干異なる。テザー問題後に相場が回復したのは、前回のトピックでご説明した通り、相場にはテザーの裏付けが不足しているという「最悪の事態を恐れている間の方が上値は重くなるが、実際起こってしまえば、こんなものかと開き直る習性がある」からだ。最悪の材料が通り過ぎたので買い材料に転じた訳だ。ハッキング事件もBinanceのCZ氏の迅速な対応で被害は最小限に食い止められたという側面もあるが、世界最大級の交換所でのハッキングだ。それにも関わらず相場が反発したのは、(今に始まった話ではないかもしれないが)それだけ地合いが強かったと評価すべきだろう。その結果、ハッキング事件を受けた俄かショートが踏みあげられて6000ドルを付けたが、長続きはしないと考えている訳だ。

代替アセットとして台頭

その背景には代替アセットとしてのBTCの台頭があると考えている。奇しくもECBのドラギ総裁は仮想通貨を危険なものとし、日銀の黒田総裁はほとんどが投機の対象だとした。これに対し、今朝方のDailyで、出口のない金融緩和こそ、デジタルゴールドを輝かせていると申し上げたが、日本を例に少し説明したい。日本円、すなわち日銀券(および日銀ネット残高)は日銀が発行している同行の債務だ。これに対し、日本は長らく貯蓄超過、すなわち民間需要が不足しているので政府が借金をして公共事業などで景気対策を行っている。そうすると政府の借金である国債を日銀が直接引き受けてしまうと政府がお札を刷って公共事業などを行っている事になる。政府紙幣と言われるもので、終戦直後のハイパーインフレの元凶として堅く禁じられている。一方で流通市場から国債を買い入れることは認められていたが、財政のファイナンスにならない様に買い入れ総額は市中に流通している紙幣を超えないというキャップが存在していた。これを撤廃したのが黒田総裁だ。

出口の見えない緩和

この結果、日銀は際限なく国債を買い入れることが可能となり、残高は400兆円を超え、市中に出回る国債に品薄感まで出る始末。政府の借金を日銀が支えていると言っても反論できない状況に陥っている。更に、今までどの中銀も採用した事が無い長期金利の直接コントロールにまで乗り出している。例えば、10年国債を0.10%以下で無制限に買い入れるといった具合だ。平成30年度の所得税は19兆円、消費税は17.5兆円。これに対し借入金も含めた国債残高は1151兆円。金利がパラレルに2%上昇すれば所得税が吹っ飛ぶ計算だ。3%で所得税と消費税を合わせた殆どが利払費で消える計算だ。金利が2%上昇する事などあり得ないという人もいるだろうが、過去には2003年のVaRショックでは3ヶ月で10年債金利が1%以上上昇したこともあるし、日銀が掲げるインフレ目標は2%だ。これを日銀が力業で押さえているのだが、そうした不自然な状態がいつまで続けられるのか不安に思う人もいるだろうし、藤巻氏が懸念する様に為替が円安に振れてハイパーインフレを引き起こす可能性だってある。日経新聞によれば、このままでは2020年末に日銀が日本最大の株主になる見通しだ。そんな状況にも関わらず、黒田総裁は昨日、迅速に追加緩和を考えるとコメントした。これで不安を覚えるなという方が難しい。

予想レンジ BTC 60万円~70万円

要は、もうすぐ10年を迎える米景気回復が米中貿易戦争などもありそろそろ失速するかもしれず、各国中銀が金融緩和方向に動く中、一部の人々が資産防衛の一つとして仮想通貨投資に動き始めている事が今回の強気相場の背景にあると考えている。特に、金融政策を正常化してきた米国はともかく、未だに極限的な緩和策を採っている日本の場合、先行きは明るくない。そうした逃避買いというか分散投資が背景だからこそ、買いはBTCに集中し、ドミナンツが昨年9月の57%を超えて来たのだろう。とはいえ、半年以上サポートとして機能した60万円台を上抜けるにはまだ時間がかかると思っており、来週は高値圏での揉み合い推移を予想している。

Altcoin

ETH:今週のETH相場は堅調に推移するも20000円トライに失敗、上値の重さも確認した形。18000円近辺で揉み合い推移を続けていたETH相場だが、CoindeskがCFTCがETH先物承認に前向きとした報道もあり上昇に転じると、イーサリアム基盤の分散型アプリ4月取引高が過去最高を記録した事やPoSへ移行するイーサリアム2.0(セレニティー) テストネットがローンチされた事もあり20000円近辺まで値を上げた。しかし、この水準で上値を重くすると値を下げ始め、Binanceのハッキングが発覚すると18000円台に値を下げた。しかし、BTCが反発したこともあり、この水準では底堅さを見せている。

来週のETH相場は堅調な推移を予想する。元GSのノボグラッツ氏は足元のBTCのドミナンツ上昇を受け「118ある元素の周期表の中で金だけが(ただ存在するだけで)価値保存手段として機能している。銅に価値があるのは、我々が使うからだ」とし、ETHやXRPはユースケースを見出さなければならないとコメントした。一方で、連休前のWeeklyで申し上げた通り、スマートコントラクトとしてのETHの人気は高い。これはスマートコントラクトという分野でETHは先駆的存在で、正統性があるからだと考えている。他の同様の通貨では余程ETHより優れていなければ選好され難い。ブランドと言ってもいいかもしれない。しかし、ETHはその需要に応えるだけのアップグレードを続けなければロングセラーとして生き残れない事も事実。それ故、イーサリアム2.0へ向けたテストネットリリースという材料に市場は反応したのだろう。上記フェーズ0も6月リリース予定とされている。こうしたアップグレードを着実にこなしている間は、ETHは底堅く推移しよう。20000円台乗せも時間の問題と考える。

XRP:今週のXRP相場はもみ合い推移も、GWを通して仮想通貨全体に上昇圧力がかかる中、パフォーマンスの悪さが際立っている。リップル社によるxRapidの広告がGoogleに登場した事もあり33円台での取引となったが、その後、失速。xCurrent4.0がリリースされxRapidをサポートされると33円台に値を戻すも、失速。R3の貿易金融テストに約50行が参加、リップル社がノボグラッツ氏率いるGalaxy社等と業界の整備に乗り出したとの報もあり32円台後半で下げ止まっている。

上記、ノボグラッツ氏のコメントによればXRPはよりユースケースを見出す必要がある。それらに関して別稿で纏める予定だが、国際送金に関しては明らかに先行しており、大きなポテンシャルがあるのは事実。それでも売りが先行するのはリップル社の売りが影響していると考える。以前にも申し上げたが、同社の売りはPoWのマイナーの売りと比較されうるが、そのインパクトはPoWより大きいからだ。しかし、その分、リップル社にはXRPのユースケースを開発するインセンティブが働き、そうしたマーケティング的役割が曖昧なPoW通貨より優れたエコシステムという見方も可能だ。但し、それはリップル社が十分にその役割を果たしている事が前提で、現在の市場の評価は不十分だという事だろう。実はxRapidだけでは需要増効果も限定的で、本当の需要はその先にあるのだが、xRapidの広告開始やxCurrentユーザーにxRapidへの利用を促すといった戦略は間違ってはいないだろうが、市場はそれだけでは不十分と考えているのかもしれない。追加のヘッドラインが欲しいところだ。

BCH:今週のBCH相場は揉み合い推移。GW中にサトシ・ナカモトなる正体不明のマイナーがハッシュパワーの4割を握っているとの報道もあり乱高下を見せたが、Cointelegraphが4月以降BCH取引の半数近くを1つのアドレスが実行していると報じ値を下げた。その後BTCの上昇もあり値を戻すも、BitmainのBTCのハッシュパワーが急減しているとの報もあり上値を重くした。その後、Bitcoin ABCが最新版の0.19.5をリリース、5月15日のアップデートは①シュノア署名の実装②SegWitアドレスへの誤送信の回復③自動的なリプレイプロテクションといった内容が見えてきた。シュノア署名はデータ圧縮に資するが、それでは何故、SegWitを拒否してBTCとハードフォークしたのか、そもそもBCHとは何を目指しているのか相変わらず不透明だ。ハッシュパワーの寡占も取扱を停止した交換所の判断が正しかったと言えそうな事態だ。5月15日まで予断は許さない状況が続こう。

LTC:今週のLTC相場は8000円台でのもみ合い推移。先週申し上げた通りマジック・クリプト・カンファレンスというLTC財団が後援し創始者チャーリー・リーが登壇するイベントを5/11-12に控え底堅い展開が続いている。期待されたLitecoin Core 0.17.1リリースによる手数料削減効果だが、市場はSell on the Factで反応した模様。来週に関しては、従来のパターンで行けばイベントを終了しての反落が予想されるが、出来高は寧ろ漸増傾向にあり、底堅い展開が予想される。




FXcoin Weekly Report 2019.05.10.pdf


松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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