Bakktの登場により何が変わる?イールドカーブの誕生。

2019-05-14 15:30[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン

テザー問題やBinanceのハッキング事件などネガティブな材料にも関わらず底堅さを見せた結果、逆説的に買われてきたBTC相場だが、昨日は久々に大きめの好材料が見られた。詳細は不明ながらBitfinexが10億ドルのプライベートIEOに成功、不足しているテザーの裏付け資産に目途がついた事とBakktの進展が報告された事だ。後者は機関投資家参入のカギとしてETFと同様注目されている。ただ、そのBakktから発表された進捗状況だが新味は7月にテストを開始すること程度で、CFTCに申請を提出し数か月後に開始予定とされているが、そのCFTCの承認はNY州のカストディー免許待ちの状況だ。今回の報道は前進ではあるが、70万円台から90万円をトライするほど大きなものだったとは考えにくい。ただ、地合いが強い故に、Bakktという言葉に異様に反応したものと考えるが、そもそもBakktは何故、それほど注目されるのだろうか?また、今回の発表で新たに判明した事も含め、ご説明したい。

まず、BakktはNY証券取引所の親会社であるICE(インター・コンチネンタル証券所)により設立され、翌日渡しの先物取引という商品をICE傘下のICE Future U.S,という取引所に上場させ、その現物決済とカストディーをBakktで行う。因みに一般にBakktと呼ばれているが、申請書上での商品名はBitcoin Daily Futures Contractとなっている。何故、一見不自然な商品設計になっているかと言えば、ICE Future U.S,で取引される商品はCFTCの管理下にあるので、現物市場にCFTCの監視が入るという効果があるからと考えている。以前から申し上げている様に、いくら機関投資家参入に向けたインフラを整備しても、肝心の市場の価格形成に疑義があれば機関投資家は参入しない。そうした意味で、Bakktの導入は画期的だったわけだ。勿論、日本以外の現物の交換所では不正行為を禁じる規制が整備されていないが、Bakktの登場により裁定されていく可能性がある。知名度的にも投資家の安心感を得やすいだろう。

次に今回新たに判明した事実として限月ものの導入が挙げられる。また、翌日渡し取引も70日程度までとされているので、恐らくは現物決済をせずに70日までロールオーバーを可能とするものと考えられる。これの意味するところは、限月間スプレッドや、70日程度の現物引渡しのスワッププライスが誕生することで、これにより本格的にBTCの金利のイールドカーブが誕生する訳だ。どういう事かというと、これまでもBTCの貸借や証拠金取引におけるポジション維持手数料は存在したが、それらの多くは業者側が指定したものだった。ところが、例えば6月限と7月限の価格がそれぞれ市場で立っていれば6月の受け渡し日から7月の受け渡し日までのSWAPプライス(要は価格差)が誕生し、ドル金利との差からBTCの理論金利が算出できる様になる訳だ。ドルよりBTC金利が高ければ外為市場でいう先に行くほどディスカウントとなり、安ければプレミアムになる。

コモデティー市場ではこのディスカウントをバックワーデーションと呼び、プレミアムをコンタンゴと呼ぶが、別に原油などコモデティーの先物が存在しても、その金利(イールド)という議論は聞いたことが無い。従って、当初の先物価格は先高観や先安観によって決まっていくのかもしれない。しかし、コモデティーの現先スプレッドがあまりに歪んだ際には現物の受渡を受けて保管しなければならないが、BTCの場合、そのコストがほぼゼロであるために金利裁定がかかり易い訳だ。原油を1ヶ月保管するには1日数百万円するタンカーを1か月チャーターする必要がある。VLCC型タンカー1隻に2百万バレル積むとして1日3万ドルでチャーターすると1バレル当たり45セントのコストがかかるので、限月間のスプレッドが45セント以上(正確にはプラスドル金利負担)になれば手前の限月で買って先限月で売って1か月間タンカーに貯蔵することで裁定が可能だが、実際に実行するのは容易ではない。これに対し、BTCがドル金利相当分以上に先限月がプレミアムになっていれば、ドルを借りてきて、手前の限月で買って、先限月で売って、1か月間ウォレットにしまっていればいいだけだ。

これ以外にも、はっきりと記載は無いがいくらかのレバレッジは認められるかもしれないだとか、1BTC単位で最大10万BTCまでだとかいくらかの追加情報が見られた。時期に関してはComing Monthsと言っているが、そもそも昨年8月に11月開始を目指すといってここまで遅れている前科があり、あまりアテにならないが、今回の発表でいずれ実現すること、そして機関投資家もいずれ参入してくることは、ほぼ確実と言えるかもしれない。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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