米中貿易戦争の仮想通貨市場への意外な影響

2019-05-15 18:13[ 松田康生

トピック 仮想通貨 暗号資産 ビットコイン リップル

4月26日にテザー問題から56万円台に急落してから昨日90万円台を付けるまでのBTC相場の強さの背景について様々な説明が行われている。代表的なもので、フィデリティ―の参入やFBの広告解禁などを指摘する声もある。確かに買い材料ではあるが、相場を6割上昇させた理由とは到底思えない。この程度のニュースは頻繁に存在して、同じ材料が出ても3か月前ならここまでの上昇を見せただろうか。弊社では、テザー疑惑やハッキング事件で下がらなかった事を理由の一つとして挙げた。すなわちテザーの裏付け資産が不足していたといった最悪の事態が到来してしまえば、相場は上がる訳だ。実際に、そうした材料や6000ドルといったレジスタンスをバックに売ったポジションの巻き戻しが急騰を呼んだのだろう。しかし、これもBinanceのハッキング事件をも跳ね返すだけの強い買いがあったからで、地合いが強いから買われたというトートロジーの域を出ないのかもしれない。有名なノボグラッツ氏などは、これを強気相場入りしたからだとあっさり言い切っている。

先週のWeeklyで、この強さの背景にあるのは、景気悪化による金融緩和へのシフトとそれによる代替資産需要だと指摘した。また、本邦における仮想通貨業界を巡る環境の変化も挙げられる。本邦の交換業を巡って複数の動きが見られた3月25日以降、新規顧客が増加したことが効いてきた訳だ。これまで購入を見送っていた層が買いに回ったと言いかえることも出来るかもしれない。同時に、証拠金取引のレバレッジ規制も売り圧力の減少となったか。詳しくは別稿をご参照いただきたいが、証拠金倍率を25倍程度から自主規制の4倍に減じると供給量が減ってしまうからだが、簡単に言うとショートから入り難くなるからだ。

もう一つ、米中貿易戦争の激化を挙げる向きもいる。米国は3月1日が期限だった2000億ドル分の対中輸入関税を10%から25%に引上げを、交渉中である事を理由に保留していたが、トランプ大統領は5月5日、交渉の遅延を理由に10日に25%への引き上げを行うと突然ツィートした。9-10日と行われた閣僚級会議も物別れに終わり、実際に関税が引き上げられると、13日中国は対米輸入600億ドル分に5-10%の報復関税をかけると対抗したが、トランプ大統領は残る対中輸入3250億ドルに関しても25%に引き上げる準備をするとして、両者一歩も引かない状況となった。中国株は連休明けの6日に6%の下落を見せ、13日にNYダウは600ドルを超える下落を見せた。こうした中、独歩高を続けるBTCを表してCNBCはBTCがヘッジ資産として台頭したと報道した。

弊社では、そもそも米中貿易戦争は解決しないとし、そうした場合、中国への依存度の低いXRPが優位だと申し上げた。NYでのカンファレンス、コンセンサスでリップル社幹部がブロックチェーンの発展は安全保障の観点から考えるべきとしたことは、この文脈に沿った意見で、XRPの急騰に一役買った可能性がある。また、この問題の米経済に与える影響は限定的で、有事には逃避資産となるが平時はリスクアセットである仮想通貨にとって米株の一時的な下落は売り要因かもしれないと申し上げたが、BTCは大きく買われている。これは、どうした事だろうか。

やはり仮想通貨がリスクアセットか否かを判断するのは時期尚早という考えや、市場はこの事態を有事と見做しているという考えもあるが、もう一つ心あたる節があった。それは、今回の対立の激化を受けて、人民元や韓国ウォンが急落している事だ。貿易交渉中は、対米輸出に有利な人民元安容認または誘導することは難しいが、決裂してしまえば追加関税引上げによる影響の緩和策となる。そうなれば、中国オンショアから仮想通貨への逃避需要が高まっても不思議では無い。韓国ウォンも10か月続いたレンジを上抜け1年4か月ぶりの安値圏にある。すなわち、米中貿易戦争は人民元安というパスを通じて仮想通貨市場に逃避需要を生み出すのかもしれないと考える。

松田康生 (まつだやすお)

シニアストラテジスト

東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通

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